第6話 サボる
普段よりもずっと早い時間に目が覚めた。
原因はわかっている。慣れない布団と枕。それとも隣にある、違和感のせいか。
汐見さんが、僕の布団に潜り込んでいた。
いつの間に。起こそうとしたが、頬に涙の跡が残っているのに気づいて、止めた。
よく眠れているなら、それでいい。
……にしても、ふにふにしたこの触感。
シャツの下、つけていない気がする。たぶん。なんとなく昨晩から気になってはいたけども。
良くない感情が生まれそうで、慌てて布団を抜け出した。
「目を覚ますなら、シャワーだな」
独りごちて浴室へ向かう。雑念もしっかりと洗い流しておこう。
***
汐見さんが目を覚ましたのは、それからしばらく経った午前十時すぎ。
寝起きの表情はあどけなく、目の下にはまだ薄くクマが残っているけれど、昨夜より顔色は幾分マシに見える。
「そろそろ支度するよ」
ぼんやりと宙を見つめる彼女に声をかけた。昨日よりは、気兼ねなく話しかけられた気がする。
「あ、学校。……遅刻してる」
「学校はサボる」
「でも」
「サボったところで地球の回転には何の影響も及ぼさない」
「規模、でかいね。支度してどこに行くの」
「学校をサボって行くところなんて、ひとつだ」
同じ天ノ浦市内の端っこ。電車に揺られて少し行けば、天ノ浦海岸がある。
小さい頃、父親に連れられてよく遊びに行った場所。もうひとつの地元。
「海に行く」
「海……泳ぐの?」
「いや、たしかにまだそんな時期じゃない。けど、海は泳ぐだけの場所でもないよ」
果ての見えない水平線を前にすると、悩みのスケールが小さく感じられた。
僕に思いつく気分転換の引き出しなんて、この程度しかない。
汐見さんの問題を解決できる保証なんてないけれど、それでも何か変わるきっかけになれば。
「そうなんだ」
「そういうこと。朝飯も準備してあるから、早く着替えて——」
「うん」
素直に返事をしたかと思うと、彼女は目の前でシャツの裾を持ち上げた。
「え、おい! 男の前で着替えようとするな。急に視力が回復しただろ!」
胸のあたりまで脱ぎかけたところで、汐見さんは止まった。
「あ、着替えがない……。ねぇ、鳴海くん」
「わかった。貸すから、一度シャツを下ろして」
必死に視線を逸らす。やっぱり下着はつけてないじゃないか。
着替えを忘れるなんてうっかりしてた。ラブコメみたいなハプニングを連発しないでくれ。多少の耐性がついているとはいえ、僕だって思春期男子。理性の耐久値はしっかりと減る。
分厚めのパーカーを渡す。
とはいえ、下着なしだとさすがに心配になる。女子の事情はわからないけど、その、目立ったり。
「着替え、取りに帰るか?」
「あの家にはもう帰れない。……帰りたくない。見たくないものを、見てしまいそうだから」
「……そっか。じゃあ買えばいい……となるとお金が。手持ちで足りるかな」
「少しくらいなら持ってる。それに——」
「当てがあるの?」
「また、鳴海くんのを借りるから」
ぼんやりとした瞳が、真っ直ぐこちらを見る。
懐かれている、というのとも少し違う。……拠り所にされているのかもしれない。拒む理由は見つからなかった。
「……まぁ、母さんの服も残ってるし、着られそうなものを見繕っとく」
「あ、でも。下着は買わないと。選んでくれる?」
「それは汐見さんが選べ」




