最終回 ラブコメ
ある週末。
繁華街のカラオケに集まっていた。
メンバーは僕を含めて四人。
汐見さん、凪瀬、それと波留充希。
「凛人先輩。呼んでくれて、ありがとうございます……っ」
「うん、汐見さんがぜひ誘ってほしいって言うから」
「ミオちゃん本人が!?」
波留はのっけから号泣していた。今日の私服は推しコーデらしい。黒髪眼鏡の見慣れない汐見さんフォトが入ったアクキーをリュックにジャラジャラつけてきた。
「ミオちゃんの引退はつらすぎですけど……限定生ライブを最前列で見られるなんて、いっきに昇華できちゃいます〜っ!」
「ふぅん、そのまま天に召されたら?」
地雷系ファッションの凪瀬が相変わらず茶々を入れる。もう前世のことは清算しようよ。
「充希ちゃん、ありがとう。来てもらえて嬉しい」
マイクを握った汐見さんが微笑みかける。
波留の意識がスーッと抜けていくように見えた。目を擦る。あ、やっぱり抜け殻みたくなってる。推しとファンの関係ってすごい。
「グループの曲はカラオケに入ってなくて……私の好きな曲を歌ってもいいかな?」
「「もちのろーん!」」
サイリウム両手に凪瀬と波留が合いの手を入れる。いつの間に取り出した。
「ねえ、僕の分は? ハッ——すでに刺さってるだと!?」
フロアの熱気は早くもぶち上がってる。
僕もこのビッグウェーブに乗るしかない!
「フッフゥー!!」
「凛人、静かに」
「勝手に主役になろうとしないでください」
「えぇ……」
タイトルが画面に映り、幽玄なイントロが流れる。
僕らの世代より、少し古い時代の名曲。
うん、これは落ち着いて聞き入るタイプの曲でした。
「では、聞いてください——」
汐見さんの喉がゆっくりと震える。
彼女らしい、透明感のある澄んだ歌声。
狭い個室は華やかなステージとはほど遠い。アイドル衣装じゃなくて、ラフでシンプルなティーシャツ姿。気取らないいつもの私服だけど。
とても、輝いてる。
捧げるために、彼女は歌う。
その目にはうっすらと涙がにじんでいた。
この歌が、天国のおばあちゃんとご両親にも、しっかり届くといいな。
日々の生活が色彩を増している。
順風満帆といっていい。今がいちばん楽しい。
いつか変わるときが来ても、たとえ誤解や衝突があっても乗り越えて、もっと楽しい未来が待っている。
まあ、彼女たちの魅力が迷い道を増やして、ゴールはまだ見えないところにあるのだけれど。
もし僕が主人公の物語があるなら——。
きっと、そんなラブコメだろう。
「あっ、これ見て! コスプレ衣装借りられるって。凛人、女装してよ。アメポリ婦警の」
「やだよ。逮捕される側になっちゃうだろ」
「女装するなら、下着、やっぱり買いに行かないとだね」
「……汐見さん、そのネタ引っ張ってくるのやめて?」
「ねぇねぇ凛人先輩、今度一緒に行きましょう。また選んでほしいな」
「ま、またぁ!? 凛人……どーいうこと?」
「鳴海くん、私のときは選んでくれなかったよね……?」
「いや、これには深い事情が」
「あれは、わたしと凛人先輩が中学生の頃……からだの変化に戸惑ってたわたしを——」
「は、波留! その話は——」
『過去改変に消えたタイムリープ主人公の代わりに、この時間軸に取り残されたドン底不幸なヒロインを救う』
第一部 終わり
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
無事に完結することができました。
第一部とあるように、第二部の構想があります。
一度完結とさせていただきますが、よりおもしろい物語をぶら下げて帰ってきます。
面白かったと思っていただけたら、ご評価をつけてもらえると嬉しいです。




