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過去改変に消えたタイムリープ主人公の代わりに、この時間軸に取り残されたドン底不幸なヒロインを救う  作者: でい
第五章 - エピローグ

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第48話 見覚えのある

 日曜日。

 外は快晴。夏への扉が早くも開かれたのだろうか。梅雨の只中にしては晴れの日が続いている。

 最近では珍しく、日中にゆっくりできる時間が生まれた。


「ほう、深刻な雨不足。心配だな」


 ニュースを見ながら、思ってもいないことを口にしたところで、ピーピーと機械音が鳴る。

 回していた洗濯物を取り出しに洗面所へ向かう。


「洗濯が日課になるなんてなぁ」


 一人暮らしだった頃より家事の負担は増えた。

 一方でやりがいも感じる。とくに料理。喜んでくれる人がいるだけで、ぐっと意欲が増しちゃう。


 同居人のふたりは朝から買い物に出かけていた。

 スキンケアや日用品など、女の子は備えなきゃいけない物が多いらしい。風呂場にはすでに真新しいノンシリコンのシャンプーが並んでいる。

 当初は、同居生活がこんなに長引くと思っていなかった。

 ……そして、まだしばらく続くとも。


 昨日のことを思い返す。

 汐見さんと一緒に、彼女の祖母の墓参りに行った。

 本当なら両親の墓にも手を合わせたかったが、父方の先祖と同じ墓所で、日帰りでは行けない距離らしい。

 その分、入念に手を合わせた。

 おばあちゃんを通して、ご両親にも届けたい言葉。

 汐見さんがまたひとりで歩けるまで、僕たちが彼女を支えます。

 償いでも、みそぎでもない。大切な友だちだから、そう伝えた。


「将来の夫を紹介できてよかった」

「ふぇっ!?」


 その帰り、汐見さんが急にとんでもないことを呟いた。

 いや、突拍子もない冗談はいつものことだけど。

 問題はそこから。


「へぇ。じゃあ次は、うちの親父おやじに紹介ね」

「ふぁっ!?」

「ちょうどタイミングよく帰ってきてるから」


 そのまま、電車に揺られて凪瀬の家の最寄駅へ。

 いずれ話したいとは思っていたけれど、心の準備はまだ。

 内心ビビりまくりで、凪瀬の父親に挨拶へ伺った。


 セキュリティの整った賃貸マンションの一室。

 六年前に一度会っていたが、当時の印象はほとんどない。

 両サイドを刈り上げたイカつい見た目に反して、物腰の柔らかい人だった。


「話はよく聞いてるよ。いつもありがとね。ひとりにさせるよりよっぽど安心していられる。ほんと、ほんと」


 長距離トラックを運転していて、普段は留守になることが多いそう。

 不在がちな父子家庭。凪瀬のド派手なファッションやピアス。

 表面的な部分だけなぞれば、複雑な家庭事情にも見える。

 実際に会って親子の空気感に触れると、先入観に過ぎないのだとわかった。


「凛人くん。彩伽のこと、末永くよろしくね。……ほんとに」


 とまで言われて、思わず背筋が伸びる。見た目の圧が強すぎた。


「これで親公認だね」


 寄り添うように、凪瀬がにっこりと笑いかける。

 外堀は完全に埋まってしまったらしい。


 こうして、ラブコメみたいな同居生活は延長戦に突入している。

 汐見さんも凪瀬も、この特殊な環境を楽しんでいるよう。

 そして——正直、僕も。

 ひとりでいた頃とは違う、にぎやかな空間。

 おはようからおやすみまで、孤独を感じずに済む。

 前のように戻りたいとは思えなくなっていた。

 となると、終了のホイッスルは誰が吹くのだろう。


「よっと……うわ、重っ」


 洗濯物をかごに移し、ハンガーにかける前に手際よく仕分けしていく。

 せっかくだから天気の良いうちに干しておきたい。


 家事も増えれば、葛藤の時間も増える。

 そもそも僕なんかが選ぶだの選ばないだのと、偉そうに悩んでいいのだろうか。

 曖昧な態度ばかりとっていたら、すぐ呆れられてしまうかも。

 愛想を尽かされないよう、せめて見合う男にならないと——。


「えっ——これ、まさか」


 仕分けしていると、くたっとした小さい布が出てくる。

 見覚えのある艶っぽいピンク。

 広げてみる。テラテラした生地に、細かい黒の刺繍とリボンがついていた。

 パンツだ。


「え、パンツだ」


 口でも繰り返す。

 以前、凪瀬が履いていたのを階段の下から覗き見てしまった。忘れられるわけがない。

 どうしようと洗濯かごに目を向ける。もうひとつ、丸まった白い布の塊を見つけた。

 広げてみる。白一色かと思いきや、細やかなレースがついてサイドの部分が透けていた。

 パンツだ。


「パンツだ」


 汐見さんと買い物に行った日、下着ショップから出て見せてきたブツ。忘れられるわけがない。

 というか、白のパンツ自体が印象深すぎて。

 高校入学の日、カバンに引っかかってまる見えだったの伝えたことあったなぁ。

 たぶん彼女は覚えていないだろうけど。


 それより、下着関連は別で洗濯するルールなのに、ふたりともうっかりしていたのか?

 カゴを漁る。見慣れない洗濯ネットが出てきた。型崩れを防ぐために使うやつ。


「どうしよう……」


 たぶん、ブラが入っている。そう直感している。

 開けてみる。やっぱり入っていた。二組とも上下で合わせたデザインになっている。

 これ、どう干すのが正解なんだろう。


「放置しとく、ってわけにもいかないし……」


 普段どこに干してたっけ。外? 記憶にない。

 でも、衣服と一緒に庭で干したら盗まれないかな。

 安全策を取るなら、二階か。


「ググるか」


 下着の干し方を調べながら、二階へ向かう。

 あ、直射日光はダメなのね。やっぱり部屋干しで正解か。

 ほう、ブラは肩紐で吊るすと伸びるのか。

 アンダーバンドをピンチで留める? どこだよそれ。


「カップの形を保つように手で軽く整えて……」


 そこで、混乱から覚める。


「——いや、こんなもの勝手に干しちゃダメだろ!」


 握りしめていたブラとパンツを慌てて机の上に放る。

 危なかった。これらのアイテムには正気を奪う魔力が込められている。うかつに触らないほうがいい。


「……わざと入れたな」


 今まで別々に洗っていたものが、偶然、丁寧にネットに入れられて混ざるわけがない。

 ふたりして何やってんの。アプローチが僕に効きすぎるぞ。意識を持ってかれる寸前だった。

 どうして彼女たちは共闘できるんだ。

 呉越同舟といっても、僕はひとりしかいない。

 まさか一夫多妻を本気で考えているはずもないだろうに。


「……ん、これ」


 机を眺めたついでに、棚の教科書の間にそぐわないタイトルが目に入った。

 手にとってみる。蒼一の置き土産。エロ本だった。


「こんなところに……」


 彼女たちが片付けたらしい。これも教科書のたぐいとでも言いたいのか。

 変な知識がつく前に、ちゃんと処分しておかないと……。

 ペラペラとめくってみる。うーん、捨てるには惜しい代物。


「てか折り目ついてるじゃん。なんだあいつ、お気に入りを開きやすくする派かよ」


 開いてみると、ふたりの女がひとりの男をあれこれ籠絡しているシーンだった。

 閉じる。折り目をつけたの、蒼一じゃないな。

 というか、間違いなくあの子たちだ。


「え、ほかにも折り目、あるんだけど……」


 本の端をパラパラとなぞる。七つ、八つ……けっこうある。

 これ、開いて確認すべきだろうか。とんでもない描写が出てきたりしない?

 確認する勇気が生まれず、指先で折り目を撫でていると——

 ふと、頭の隅で何かが引っかかった。


 パラパラ漫画。

 ノート。

 たしか、あいつに貸したことがあったよな。


 まさか。

 思い立って、バックパックから数学のノートを取り出す。

 あれから授業で使ったが、ちゃんと確認したわけじゃない。

 四隅をパラパラとめくる——。


「……まあ、書いてあるわけないわな」


 当然、描かれていない。

 そりゃそうか。パラパラ漫画にメッセージ載せる発想はアーティストすぎる。


「オマケ、つけとけって言ったのに——」


 と、途中のページで目が留まった。

 白紙と白紙の間に突然、黒が混じる。

 一面に書き連ねられた文章。

 見覚えのある汚い字が、そこにはあった。

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