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過去改変に消えたタイムリープ主人公の代わりに、この時間軸に取り残されたドン底不幸なヒロインを救う  作者: でい
第一章

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第4話 おふろ

 タオルで拭いたとはいえ、雨に打たれた。このまま風邪をひかれたら困る。

 汐見さんがおかわりを楽しんでいる間に、手早く湯船を洗い、お湯を張っておく。

 普段の一人暮らしならシャワーで済ませるところだけど、

 彼女の冷え切った部分は、湯船でじっくりと温めてほしい。


 余計なハプニングを避けるため、あらかじめバスタオルと着替えも用意。僕のシャツやジャージだけど、濡れた制服よりはマシだろう。

 昔から妙なハプニングに巻き込まれやすい。もはや体質とすら思う。

 なので事前準備は綿密に。あとでギクシャクするイベントは、こちらから絶対に発生させたくはない。


「鳴海くん」

「うわ、びっくりした。気配、ってた?」

「そんな達人みたいに振る舞えないよ。……お皿洗い、してもいい?」


 食べ終えてしまったらしく、汐見さんは手持ち無沙汰に見える。


「あとでやるから大丈夫。あ、そうだ。雨にも降られたし、お風呂入ってきたら?」


 気の利いた前置きは思いつかず、直球で提案する。

 堂々と言うことで、下心はどこにも隠していませんよ——という僕なりの最大限の意思表示でもある。


「おふろ……」

「お湯も溜めてあるし、ゆっくりと湯船に浸かってきなよ」

「ゆぶね……」


 やっぱり警戒してるか? そりゃよく知らない男子の風呂だもんな。オオカミの誘いくらい警戒されて当然だ。


「……お湯、借りてもいいの?」

「え、あ、うん。もちろん。決して覗かないから安心して」

「覗かれても鶴にはなれないけどね」


 お風呂場まで案内し、使い終わったタオルの入れ場所やドライヤーの位置、ボトルの違いなどを簡単に説明する。

 彼女は素直に頷いて、洗面所の扉を閉めた。

 決して覗いてはいけません、って鶴の恩返しか。汐見さん、冗談言えるんだな。よくわからん返しだけど。

 肉じゃがのくだりもそうだけど、少し天然なところがあるのかもしれない。


 ただ、平坦な口調は気になる。今日の身だしなみも、女の子らしいケアが追いついていない感じだった。

 やつれた表情は食事で少し緩んだけれど、心はまだ疲弊しているのかも。


「先にシャワー浴びてこい、の次に『うちに泊まってけよ』は、さすがに言えないよなぁ」


 かといって他に選択肢はあるか? 未成年ってホテルはそもそも無理だったはず。漫画喫茶やカラオケも、今の彼女を外に出すのは不安しかない。

 せめて今夜だけでも、様子を見守りたい。

 一階の客間を使ってもらって、僕は二階の自室に退避。

 それなら納得してもらえるだろうか。……無理かもなぁ。


「まあ、念のため」


 布団の準備くらいはしておこう。シーツを替えて、枕カバーは予備のやつを。




「泊めてくれるの? ありがとう」


 小一時間ほどしてお風呂から出てきた汐見さんは、あっさりと頷いた。

 僕のシャツは明らかにぶかぶか、変哲のないプリントがついたオーバーサイズの部屋着。なのに、まるでモデルみたいに着こなしていた。

 ドライヤーでしっかり乾かした髪はつやつやで、頬に血色が戻り、すっかりと見違える。

 さすが、校内で話題になる美少女だけある。


「……汐見さん、鶴の恩返しについて考えてみたんだけど」

「うん」

「もしも覗かれなかった鶴は鶴にならないから、ただの女の人でしかないよね」

「……うん」

「覗かれるまでは『鶴かもしれないし人かもしれない』。つまり、汐見さんにもまだ鶴の可能性が残ってる。シュレディンガーの鶴なんだよ!」

「人だよ」

「あ、ごめん」


 照れ隠しに余計な話はしないほうがいい。してもこうなるのがオチだから。


 風呂上がりの彼女は、離れていてもとにかくいい匂いがした。

 同じシャンプーを使ったはずなのに不思議だ。

 女子秘伝の、特殊な調合とかしているのだろうか。一種の錬金術みたいだな。

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