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過去改変に消えたタイムリープ主人公の代わりに、この時間軸に取り残されたドン底不幸なヒロインを救う  作者: でい
第三章

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第21話 誤解されやすいタイプ

 三人で並んで手を繋ぎ、道に沿ってときどき離してはまた繋ぎ直す。

 とくに重い会話を交わすこともなく。

 ようやく、校門の影が見えはじめた頃。


「凛人せーんぱ——えっ」


 目の前に割り込んできた小動物が、ぴたりと動きを止めた。

 ショートカットの黒髪、小麦色の肌。

 後輩で幼なじみの、波留充希はるみつき。口をぽかんと開けている。


「おはよう、波留」

「えっ、なんで……?」

「うん、言いたいことはわかるよ。僕もここまで殺意のこもった視線を浴びた日は初めてだから」

「ミオちゃん!? 本物!?」

「……ん?」


 波留の視線は、僕ではなく右隣に向いていた。

 繋いでいる手の先にいたのは——汐見澪。ミオちゃんだ。


「わ、わたし……推しです! ファンなんです! ライブも配信もずっと追ってました!」


 波留の大声に反応して、周囲の学生がにわかにざわつく。

「え、マジ」「そうなの?」「有名?」「たしかに可愛い」などの声が飛び、

 視線が一斉に汐見さんへと注がれた。


 凪瀬が整えた髪とメイクで、汐見さんの美少女感はいっそう際立っている。

 だけど、それだけで周りからの印象がこんなに変わるか? シンデレラじゃあるまいし。


「汐見さん、ほんとにアイドルだったんだね」

「……まあ、いちおう」

「めちゃくちゃアイドルですよ!」


 波留は興奮気味にまくしたてる。


「去年デビューしたばかりなんですけど! 絶対これから来るって思ってます! 歌声は癒し系だし、天然発言が可愛くて……。わたし、めっちゃ救われてました!」


 めちゃくちゃ早口で語るじゃん。

 でも、なるほど。

 今年入学したばかりの波留にとって、二年になってから登校日の少ない汐見さんとは接点がなかった。

 波留によれば、インディーズではあるものの、急速に人気を得ている三人組グループのひとり。アイドル時の『ミオ』は眼鏡をかけた黒髪——おそらくウィッグをつけていた。

 同級生の多くが気づかない変装を、熱烈なファンの目だけが見抜いたわけだ。


「でも最近、活動を見なかったから心配してたんです」


 その言葉に、汐見さんが小さく視線を伏せる。

 祖母の看病と逝去、最近では事務所の不祥事。活動できない理由は容易に想像がつく。

 しかし波留はそれを知らない。無垢なファン目線が、汐見さんを黙らせてしまった。


 気まずい空気が流れる。

 と、そこで。


「後輩、わたしは?」


 低い声で、凪瀬が割って入る。


「あ、ちわーす。見えませんでした、彩伽先輩」

「ほら、この手」

「陰陽が混ざってますね」

「じゃあなんであっちには気づくのよ。光の近くだと霞んで見えないんじゃないの?」

「光と光が混ざれば、もっとまぶしくなるんですよ」

「ほー。そのケンカ、全部まとめて買ったげる」


 ピリピリとした空気。やっぱり相性が悪い。前世で聖女と悪役令嬢の関係か?

 居ても立ってもいられず、僕は急いで間に割り込む。


「は、波留……たしか日直だろ?」

「今日は違いますよ」

「いや、たぶんそうだよ。急いで行ったほうがいい。……逃げろ」


 ボソッと助言する。

 苛立ちを募らせた凪瀬が爆発するまで時間がない。この地雷は踏み抜く前に暴発するぞ。


「凛人先輩……!」

「凪瀬は僕が押さえる! ここは任せて、波留は先に行け!」

「死亡フラグみたいになってますよ!」

「大丈夫、必ず後で追いつくから」

「絶対ダメなパターンじゃないですか!」


 波留を逃し、僕は凪瀬を「どうどう」となだめる。

 彼女はフシューフシューと爆発寸前になっていた。

 無言で俯く汐見さんも気になるし、朝からとんでもない状況だ。


 足取りの重い二人の手を引いて、校門をくぐる。

 そこにはいつもの教師たち——川嶋流美と永田山が立っていた。


「おーす。鳴海、凪瀬……それと汐見」

「おはようございます。川嶋先生。相変わらず覇気がないですね」

「私が本気出したら、海王類が出てきて街が沈むよ。……てか、今週早く終わらないかな」

「教師として最後まで職務をまっとうしてください」


 担任の川嶋は、僕ら三人の手繋ぎを見て、ラブコメを無理やり食わされたような視線を寄こす。

 気持ちはわかる。けど、もっとあたたかい目で見守ってくれてもいいだろうに。


 そのタイミングで。

 奥から、永田山が肩を怒らせてズンズンと近づいてくる。

 隣の凪瀬がふっと口角を上げ、獲物を見つけた猫の目をした。

 ——マズい。凪瀬はこの体育教師を嫌っている。

 今にも「あ、永田山センセーがまた色目使ってくる〜!」と煽り出しそうな気配が滲んでいた。


 怒鳴りモードの永田山と、臨戦態勢の凪瀬。

 ぶつかる——と思った、そのとき。


「汐見、先日は悪かった」


 永田山が深々と頭を下げた。


「力になりたいと思って声をかけたが……誤解を招く行動だった。反省している」

「えっと、それは……」

「担任の川嶋先生がいるのに出しゃばって悪かった。変な噂も立ってるそうだな」


 予想外の謝罪に、凪瀬も威嚇姿勢のまま固まっている。

 クラスの女子が流していた「汐見澪が色目を使っている」という噂。

 むしろ、永田山が強引に干渉した結果で生まれたものだと思っていたけれど。


「いえ、お気持ちは……嬉しかったです」

「そうか。……まぁその、青春を楽しめよ」


 汐見と繋がる僕たちの手を見つつ、独り身の体育教師は複雑な表情で頭を掻いた。

 永田山が別の生徒の指導に向かうと、僕と凪瀬はぽかんと顔を見合わせる。

 川嶋が肩をすくめて言った。


「永田山先生、とにかく不器用だが、根は善良なやつなんだよ」

「え、でも目線が怪しいし……」

「誤解されやすいタイプだな。ああ見えてシャイな小心者だ」


 校門でピアスやスカートの長さを注意する永田山。

 その視線はどこか泳いでいるように見えなくもない。

 ああやってガミガミ言わざるを得ない不人気ポジション。使命感に燃える、けれどモテないアラサー独身教師。

 でも、そんな彼にも、理解のある相手が近くにいるのかもしれない。


「川嶋先生、実は、言い寄られてまんざらでもないんじゃ?」

「残念ながら、まーったくタイプじゃないんだよなぁ」


 ふたたび永田山に憐れんだ視線を向けていると、

 川嶋が「ゴホンッ」とわざとらしく咳をして言う。


「それより鳴海。貸しの百が、あと八日で」

「闇金に転職しろ!」


 逃げ腰になったところで、「あ、ちょっと汐見」と川嶋が呼び止めた。

 短いやり取りのあと、川嶋の口元がにやりと歪み、汐見さんの目がわずかに見開かれる。

 その様子を先で眺めながら、隣の凪瀬が遠くを見つめてぼそっと呟く。


「でもわたし、やっぱりアイツ嫌い」

「目線がヤラシイもんな。でも悪い人じゃなさそうだ」

「……ま、決めつけてたこっちも悪いんだけどさ」


 素直なのか素直じゃないのか。そこが凪瀬の可愛いところだと思う。


 遅れて合流した汐見さんと校舎の玄関口へ向かう。

 今日も知り合いとのエンカウントが多かった。

 だけど、同時にぽっかりと空いた穴もある。


 都筑蒼一つづきそういち

 汐見さんを救うために過去へタイムリープした、僕の親友。


 別の世界線では、しっかりやってるんだろう。

 そのくらい、やってくれなきゃ困る。

 蒼一の置き土産で、僕の周りはにぎやかすぎるくらいだ。


 でも——おまえのいない学校は、やっぱり少しつまらねぇよ。

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