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三題噺もどき4

満月夜

作者: 狐彪

三題噺もどき―ろっぴゃくにじゅうよん。

 




「ご主人、氷はいりますか」

「あぁ、もらえると助かる」

 月に一度の、満月。

 こうしようと二人で決めたわけではないのだが。

 なんとなく、並んで晩酌をするようになっている夜。

「……」

 窓辺に座り、月夜に照らされている。

 あいにくの天気ではあるが、関係ない。

 この目に映ればそれでいい。

 コイツと飲めればそれでいい。

「どうぞ」

「ありがとう」

 氷の入った透明なグラスを渡される。

 台所から戻ってきたコイツの、もう片方の手には、季節限定の酎ハイが握られていた。

 コイツ、そこまで甘党でもなかったはずなんだが、お菓子作りにはまったあたりから、酒も甘いものを飲んでいる気がする。

「今度は何を飲むんだ?」

「苺の酎ハイです。飲んでみますか?」

「いや、いいよ」

 机の上には、いつの間に作ったのか、数種類のツマミが並んでいる。

 買ったのもあるだろうけど……このナッツ類はさすがに買っただろう。

 こういう、簡単なものも作れるようになったのか。

「ご主人、それ好きですね」

「うん?好きというかまぁ……飲みやすいからな」

 手渡されたグラスに、手元に置いてあった瓶から液体を注ぐ。

 人間のイメージ的には、ワインとか何だろうが……今日は気分ではなかった。というか、最近ワインあまり飲んでいないな。

「……」

 グラスの中に入れたのは、梅酒である。

 これも、梅酒と言ったって色々と種類があって買うたびに悩むのだが。

 まぁ、比較的飲みやすいものを今回は買ってきた。他にもいくつか、コイツも飲めるだろうかと思って、果実酒を買って置いてあるが、今日は気分ではないらしい。

 断られた。

「……」

 隣では、缶チューハイの蓋を開け、情緒もなくそのまま飲んでいる。

 グラスに入れなおすくらいすればいいのだが、洗い物が増えるのが嫌らしい。

 こういう日ぐらいは、休みたいということなのかもしれないが。

「……」

 お互い、弱くはないので、酔うことはそうそうないが、なんとなく静かにはなる。……先月の焼酎は合わなかったから酔っただけで、基本的には酒に酔うことはない。

 人によっては、泣き上戸に成ったり喋り上戸に成ったりするようだが……コイツが饒舌だったことなんてあんまりないかもしれない。

「……」

「……」

 どれぐらい飲んでいるかも、どれくらいの時間が経っているのかも分からない。

 私はまぁ、瓶をあけてからはゆっくり飲んでいるからそこまでだと思うが。

 コイツは相当飲んでいるはずだ。空き缶を飲み終わってはすぐに台所に持っていくので、正確な数は分からないが……5本、6本ぐらいは飲んでないか?

「……」

「……」

 静かに時間が流れていく。

 時折氷の音が鳴る。

 時計の針の音が聞こえる。

 雨粒の音も聞こえだす。

 小さく喉を鳴らす音が聞こえる。

 机の上に手を伸ばす音がする。

「……」

「……」

 眩暈を覚えるほどに愛しい時間だ。

 心酔してしまう程に尊い時間だ。

 このまま時が過ぎればと願わずにはいられない時間だ。

「……」

「……」

 けれど、そのうち月は沈み。

 陽が昇り始める。

 望もうと、望むまいと、明日は来る。

「……そろそろ寝ましょうか」

「……そうだな」

 来る明日の為に。





「結局何本飲んだんだお前」

「そんなに飲んでないですよ?」

「いや……それは結構飲んでるぞ?」

「一本空けた人に言われたくないです」













 お題:眩暈・台所・明日

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