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『バースト』


 その黒猫は、すらりとした体に漆黒の毛が艶々としていた。

 両耳は優雅に上を向いて伸び、その瞳はトパーズのようだった。額や眼の周囲に金色で模様が描かれ、黄色に輝く瞳が俺を見上げる。


「なんじゃ、この猫は? 」

 とヒル子がふよふよと近づいて、黒猫の頭に手を伸ばそうとした時、黒猫の眼が光る。


「あっ」


 危ねえと言い終える前に、黒猫の腕が動く。


「こ、こやつ、我をひっかいたのじゃ! 」


 ヒル子が手を押さえながら、俺に向かって涙目で叫ぶ。


「許可なくこの私に触れることは許さないわ。たとえどのような神であろうとね」


 黒猫が威嚇するように唸る。


「で、あなた……」


黒猫が俺の方に顔を向ける。黒猫の爪に気を付けつつ、


「あ、ああ。俺が女神の守護者、八剣太陽だぜ」


 俺が答えると、


「へえ……」


 と言って黒猫が俺を見つめ続ける。


 黒猫は尻尾を逆立て、俺の下にしゃなりと近づいてくる。


 黄色の瞳が爛々と輝き、俺は魅入られるようにその眼を見続ける。


「こらっ! 何を呆けておるのじゃ! 」


 とヒル子に頭を小突かれる。


「痛ってえなあ」


と言った俺は、いつの間にか地面に膝を突いていた。


「貴様もじゃ! 太陽に何をしようとしたのじゃ! 」


「あら、その人間が勝手に跪いただけ」


くすくすと黒猫が言う。


立ち上がりつつ、イマジナイトに手をかざそうとすると


「そんなに警戒しなくてもいいわ。これで私が何者か、わかったでしょう? 」


「ああ、嫌でもな。あんたがノーデンスが寄こした神様か」


「ええ。私の名前は、バースト。この世で最も高貴な種族の女神にして女王よ」


「ふん、何がこの世で最も高貴な種族じゃ。こやつの力なんざ借りなくても」


 ヒル子が手を押さえながら、ぶつぶつと言うとバーストは


「あなたが役に立たないから、私が来てあげたのよ」


「な、なんじゃと⁉ 我に喧嘩を売っておるのか! 」


 ヒル子が暴れそうになる前に俺はヒル子の衣服を掴みながら


「今、俺達はエルピスを護るための作戦会議をしてたんだ。それで……」


 と続けるのを遮るように、バーストが口を開く。


「待ちなさい、人間。まだ、あなたに力を貸すとは言ってないわ」


「はあ?! お主はそれじゃ何のために来たんじゃ?!」


 ヒル子が憤慨して叫ぶ。


「私が誰にでも力を貸すと思われたら心外ね。例え、あなたとノーデンスが誓約を結んでいようと関係ない。私は私が認めたものだけに力を貸す」


 とバーストが話している時だった。テーブルの上から、レグルスがバーストの前に飛び降りる


 レグルスが喋るように唸り、それにバーストが返事を返す、


 そんな奇妙な光景が繰り広げられるのを、俺達は呆気に取られて見ていた。


「なあ、ヒル子。何喋ってるかわかるか? 」


「我が分かるわけなかろう」


 と話していると、レグルスが俺を見上げ、バーストの方に顔を向け大きく唸る。


「……なるほど。あなたが認めたということは、彼にはそれなりの資格はあるみたいね。いいわ、この子が言うなら、信用してあげましょうか。女神の守護者、八剣太陽。あなたに力を貸してあげる」


「お、おお。それは助かるぜ」


「礼なら、その子に言うことね」


 レグルスが俺を見て、満足げに鼻を鳴らす。


「で、バーストとやら。お主には何ができるのじゃ? 」


 蚊帳の外に置かれたヒル子がぶすっとしながら尋ねると


「そうね。こちらの世界に住まう臣下たちに命じることができる。例えば……あなた達に近づく敵を監視しなさい、とかね」


「臣下っていうと……猫のことか? ってか監視とか、そんなことできんのか⁈ 」


「ええ。彼らにとって私は女王。そして彼らは、あなた達人間を超える感覚を備えている。彼らは街に起こっている異変を察知して、女王である私に知らせる。もちろん彼らはあなたの家やこの店に迫る敵も見逃さないわ」


「なるほどのう! それは助かるのじゃ! 」


「そうね。ただし、あなた達が我々の種族に好意を以て接するのであれば、ね。もし万が一でも、私の臣下に不敬を働くようものなら……」


 俺はその言葉を聞いて、これからは猫の餌を常に持ち歩くことを誓う。


「あなたも見ての通り、私のこの姿は現実世界で動くための仮の姿。私本来の力を振るって欲しければ、相応の対価を用意することね」


 バーストは優雅に俺達の前を歩きつつ、テーブルに飛び乗ると、俺の後ろにいるエルピスを見つめる。


「……此処にあなたがいる、という話は聞いていたけれど、本当だったのね」


 エルピスとバーストが、見つめ合う。


「数奇な運命ね。あなたは自分自身が本来何者であるのか、忘れてしまっている。それが祝福なのか呪いなのかはわからない、けれど、あなたの存在が世界の希望であるのは間違いない。女神バースト、誓約に従い、あなたを護りましょう」


 俺はバーストが何の話をしているのかわからないが、エルピスは頷くと手を差し出す。


「よろしく」


 バーストはエルピスの伸ばした手に頭を近づけ、撫でさせる。


 満足したかのようにバーストはエルピスの手から離れる。


 その時、奥の階段から店長が下りてくる。


「やあやあ、お待たせ。おや、その黒猫はどうしたんだい? 」


「いや、この猫は……」


 と答えようとして、俺は驚く。


「店長、その恰好は……」


「これかい? まあまあ、車で行きながら話すよ。時間も遅いことだし、君のご両親も心配しているはずだ。それじゃあ、作戦開始と行こうじゃないか! 」

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