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転校生

 あの戦いから一日が経った。


 月曜日を迎え、俺は少し憂鬱さを感じながら、自転車を漕ぐ。


 週末、エルピスは俺の家に来て泊まったが、翌朝には店長の迎えが来て、ゲームショップEDENに帰った。


 陽芽はエルピスが帰る時、寂しがってぐずっていたが、また会えると母ちゃんに諭され、エルピスが頭を撫でると笑顔で、また遊ぼうねとエルピスと指切りをする。


 そして、俺は学校に着き、自転車を駐輪場に停めていると


「よう、太陽!!」


 とクラスメイトの健司が後ろから隣に突っ込んできて自転車を止めながら、陽気にはなしかけてくる。


「おっす、健司。なんだ? テンション高えな?」


「おいおいおいおい! 聞いてないんですか?!


「何が? 」


 「実は……うちのクラスに、転校生が来るらしいぜ?!」


「は? 転校生? こんな時期にかよ」


 俺と健司は昇降口から下駄箱で靴とスリッパを履き替え、階段を上る。


「しかも噂によると……一人じゃないらしい」


 健司は人当たりがよく、生徒だけでなく殆どの先生とも仲がいいからか、いろんな話を仕入れてくる。信憑性も高い。


「まさか、な……」


 俺はふと思い浮かぶも、頭を振る。


 チャイムが鳴ると同時に教室に駆け込み、何とか窓際の自分の席に着く。


「それでは、みんな座って下さい」

 

 擦り切れたセーターを着てボロボロの眼鏡をかけた小暮先生が、着席を促し、談笑していたクラスメイトたちが席に着く。


「えー今日ですが、このクラスに転校生が来ます」


 小暮先生の言葉でクラスメイトがざわつく。


「先生! それは女子ですか?!」


「はい」


「な、言っただろ?」


 と健司が俺に向かってジェスチャーをする。


「それじゃ入りなさい」


 ドアが勢いよく開かれる。


 小柄で胡桃色の髪をしたセーラー服を着た清楚な髪の美少女がゆっくりと入ってくる。


 その後ろから、真紅の髪のツインテールを靡かせ、耳の長い背の高い女子が入ってくる。


 その後ろに、一番背が高く、銀色の髪が美しく光り、制服がパツパツになった豊満な胸を揺らして、三人目が入る。


 教室中がざわめく。


 俺は口を開けたまま。唖然としていた。


「えー、三人の転校生です。それぞれ自己紹介をお願いします。」


「聖心女子学園の美夜図朔耶と申します。学校は違いますが、学校長の許可を得まして、こちらの高校の特別進学クラスの授業を受けに参りました。どうぞよろしくお願い致します」


「私の名前は、マリヤよ。えーと神話世界、じゃなかった、海外から留学で来たわ! よろしく! 」


「九頭竜睡蓮よ。右に同じく」


 目の前に、聖心女子学園のセーラー服の咲耶、そしてうちの高校の制服を着たマリヤと睡蓮の三人が並んでいた。


「まじかよ! 聖心女子学園の子だぜ! なんてお淑やかなんだ」


「その横の赤髪の子、スレンダーでモデルみたいだ。というかあの長い耳ってもしかして……」


「銀髪の子、ハリウッド女優かよ。おっぱいやばすぎるって……」


 クラスメイトの男子が口々に騒ぐのを、女子が冷ややかに見つめていた。


「なんで、お前ら?!」


 窓際の席で俺は思わず、立ち上がると。


「言ったでしょ」


「そうね」


「はい、言いましたわ」


 三人は顔を見合わせる。


「おい、太陽!? あの三人と知り合いなのか?!」


 健司が俺と前の三人を何度も視線を往復して叫ぶ。


 教室中から好奇と一部殺意のような視線を向けられているのを感じていると


「太陽! 」

「太陽」

「太陽さん! 」


 呼ばれた俺は前を見ると。三人が俺の顔を見て、満面の笑顔を浮かべる。


「「「これからよろしくね!」」」





























 

 夜空に浮かぶ三日月が、雲の合間から顔を覗かせる。


 夕日も沈み、街に夜の帳が下りていた。


 闇の中に、白い制服が浮かび上がる。


 真っ白い学ランを上まで留めた学生、夕夜は市の中心部と高鷲町を結ぶ橋の上を独り歩いていた。


「やあ。浮かない顔だね」


 どこからか聞こえてきた声に、夕夜は背中に背負った長い袋から木刀を取り出す。


「何者だ!」


 すると、橋の向こうから、男が現れる。


 スーツを着て、胸元に支部長のバッジを付けた四角い顔をした背の低い禿頭の中年。


「月弓夕夜君だね?」


 夕夜は油断なく木刀を構える。


 支部長は笑い声を上げる。


「ふむ。そう警戒しないでくれたまえ。君に話しがあるんだ」


「話だと」


「ええ。それでは手短に。君の彼女がどこにいるか、知りたくないかい? 」



 その言葉を聞いた瞬間、夕夜はすり足で一気に近づき木刀を振り下ろす。


 支部長は動じることなく、自らの眼と鼻先で止まった木刀を見て笑う。


「貴様!」


「落ち着きたまえ。私は君を助けに来たんですよ」


「何故、それを貴様が知っている! 」


 夕夜が今にも木刀で頭を割ってもおかしくない程、睨みつける。


「君の幼馴染、八剣太陽」


「太陽がどうした!」


「彼は嘘をついてますよ」


 夕夜が目を見開く。


「……どういう意味だ?」


 支部長の口角が大きく広がり、にたーっと笑みを浮かべる。


「何故、太陽の名前が出てくる!」


「それはだね。彼こそが、君の彼女が消えたきっかけ、その張本人だからだ」


 茫然とする夕夜の手から、木刀が落ちる様子を、支部長は眺める


「そんなこと……信じられるか! 」


「君に詳しく話をしたいところだけど。一つ条件がある。もし僕たちに協力してくれたら、君の彼女を取り返してあげよう」


 そう言うと、支部長がスーツのポケットに手を入れ、何かを取り出すと、夕夜に向かって手を伸ばす。


 手に乗っていたのは、奇妙な箱だった。


 蓋の空いたその箱は、光沢のない金色の箱で、その中央には漆黒の多面体の結晶が小さな柱に支えられ、浮かんでいる。


 夕夜が片眉を上げ、不信感を露わに支部長を見る。


「これは何だ?」


「トラペゾヘドロン。あの方の写し身です」


 夕夜が黙って、それを見る。


「あの方は、君になら扱えると言っておられた。さあ、手に取りたまえ」


 夕夜は支部長の顔を睨みつけ


「もし約束を破れば……」


「その時は、私を殺してもかまいませんよ。まあ。そんなことは万に一つもありえませんがね」


 夕夜はそれを聞くと、支部長の手に乗ったトラペゾヘドロンを手に取る。


「ようこそ。我らが星の智慧教団へ」









 見通せない程の広々とした空間に平坦な床がどこまでも続く。


 玉座だけが、無音の空間に鎮座していた。


 玉座には白髪、顎髭が床まで届くほど長い、老人が座っていた。


「三つの予言は成就したわ 」


 玉座にて沈思黙考していたノーデンスの足元に現れた黒猫、バーストが言う。


「本当にやるのね?」


 バーストの声に目で答えを返す


「無論」


「……『混沌より訪れし超越者が、神話世界を破滅に導く』『最も新しき女神が、女神の守護者との邂逅により目覚める。そして女神の導きにより、最も新たな勇者が目覚める』『勇者と運命の姫君が出会うとき、新たな扉が開かれる」


「そうだ。そして最後の予言が……」


 玉座の真上の空間が歪み、閃光が走る。


 鮮烈な輝きを放ちながら、白亜の鎧と兜を着た戦女神が降臨する。


「『女神の守護者の犠牲により、喪われし楽園の女神が蘇る』」


「ヌトセ。帰って来たのね」


 バーストが言うも、ヌトセはノーデンスに槍を突き付ける。


「ノーデンス。この私を謀ったな?」


 円錐形の巨大な槍を喉元に着きつけられながらも、動じることなくノーデンスはヌトセを見る。


「あの方は、神核ごと滅びたと言ったな。だが、外なる神のメッセンジャーが吐いたぞ。まだ、生きてると」


「止めなさい。ヌトセ」


 バーストが止めるも


「吐け、ノーデンス! 彼女の神核を、どこにやった!!」


 ノーデンスは答える。


「滅びし女神の神核は、宇宙卵の中にある」


 バーストが哀し気に目を落とす。


「まさか……あの幼き女神の中に……」


 ヌトセに向かって、ノーデンスは頷く。


「神造人間エルピス。清浄にして聖なる光の子宮と呼ばれし女神、ゼヒレーテの器だ」


 ヌトセはノーデンスに槍を突き付けたまま、バーストの方を向く。


「知っていたんだな?」


「ええ」


 バーストは頷く。


「知らなかったのは、私だけだったというわけか」


 ヌトセが苛立たしげに、槍を床に突き刺す。


「聖体が滅んだゼヒレーテを救うには、それしかなかった。だが、何の心配もいらぬ。再誕の時は近い」


「それが……最後の予言、というわけか」


「そうだ。滅びの道に瀕した我らが神話世界を救うための唯一の手段」


 バーストはノーデンスを見上げる。


「本当にこれしかないの?」


 と言うと、ノーデンスの瞳が濁る。


「何が言いたい?」


「ゼヒレーテの再誕のため、エルピスを犠牲にするなんて。」


「あれはそのために造られたものだ」


「八剣太陽。女神の守護者が許すと思うのか?」


 ヌトセがノーデンスを睨みつけるも


「二つの世界を滅びから救うためであれば、必要な犠牲だ」

 

 黒猫は威嚇するように鳴く。


「それが本当にゼヒレーテの…あなたの妻の望みと言えるの?」


 ノーデンスはバーストの問いに答えることなく、玉座から立ち上がり、無表情で虚空を見る。


「そろそろ儂は行く。ヌトセ、バーストよ。あとは頼んだぞ」


 そう言い残し、ノーデンスの姿が光となって消える。





 荒廃した大地に降り立ったノーデンスは、巨大な裂け目の中を下っていく。


 どこまでも続くその先に、巨大な空間が広がっていた。


 降り立ったノーデンスは頭上を見上げる。


 数多の悍ましい異形の邪神が鎖に縛られ、氷漬けになっていた。


 これこそ、数多の神々を犠牲にして編まれた大結界だった。


 大結界にて封印された邪神を見上げ、ノーデンスが呟く。


「予言は果たされねばならぬ。でなければ……」


 その後を言うことなく、ノーデンスは邪神に背を向けると、地上へと浮かんでいく。



 ノーデンスが去った後、氷に罅が入る。


 封印されし邪神の眼に、光が灯った。










 つづく

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