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『chapter end:また明日』

 天守閣に降臨した外なる神(アウターゴッド)シュブニグラス、そのブドウの房の上にある頭部に大穴が開き、黄金の炎が燃やし尽くす。


「まさか……この妾が……」


 バビロンの指先、腕、そして体全体がひび割れていく。


「だが……この程度で妾を滅ぼせたと思うでないわ! 神核が滅びぬ限り、妾は何度でも蘇る!」


 バビロンに向かって、俺とマリヤは叫ぶ。


「何度蘇ろうが、関係ねえ! 」


「何度でもぶっ飛ばしてやるわよ!」


 憎々し気に俺達を見上げながらバビロンは消え、シュブニグラスの本体も天蓋に空いた裂け目へと吸い込まれてゆく

 

 シュブニグラスの子供らも、本体の消滅と合わせて、煙のように消えていき、そして、ガラスのように異界の全てが砕け散る。


 天守閣の上から、俺達は移り変わった景色を眺める。


 青空がどこまでも広がっていた。


 青く、透明に澄んだ大空に、筋状の雲が、まるで天使の羽のような形で浮かんでいる。


「よっしゃあああああああああああああ!!」


 空中で俺はマリヤとハイタッチする。


「やったのじゃあああああああああああ!」


 とヒル子が背中にぶつかり、俺はバランスを崩す。


「まさか……本当に、外なる神に勝つなんて、ね」


 睡蓮が少し驚いたように目を細め微笑する。


 俺達は地面に降りると、エルピス、レグルス、咲耶、バーストが駆けてくる。


 レグルスが大きく雄たけびを上げる。


「みなさん! すごいですわ!」


 咲耶が両手を合わせて微笑む。


「外なる神たるシュブニグラスの討滅……これこそ、まさに勇者神話ね」


 黒豹のバーストが俺に言う。


「俺独りだけじゃ、倒せなかった……みんな、本当にありがとう!」


 俺が皆に向かって、ありがとうと言うと、


「ほんとそうよ! 私たちがいなきゃ、あんた独りで死んでたんだから!

 感謝だけじゃ、足りないっつの!」


「そうね」


「はい!」


 両手を腰に手を当て、マリヤが自慢げに笑う。


 三人の笑顔に、俺は頭をかきながら


「あー。その、なんだ。俺にできることなら何でも……」


「はぁ。冗談よ。冗談。あんたって本当に鈍いのね」


 マリヤの言葉に、みんなが笑うも、俺は何故かわからない。


「そういえば、ここに来る前は夜だったのじゃが、何で昼になっとるのじゃ? 」


 不思議そうにヒル子が空を見て言う。


 言われてみれば、確かにそうだ。


 まるで時間が遡ったようだ。


「外なる神の侵攻で、異界と現実世界が融合しかけたのだから、何が起きてもおかしくないわ」


 バーストが言う。


 俺たちは天守閣を見上げ、その上に広がる青空を眺める。


「取り戻したんだ……俺達の、世界を」


 と言った直後、俺のお腹が、ぐーっと鳴る。


「そういや、何にも食べてねえから。まじ腹減ったぜ!」


「そうじゃ! 我もお腹空いたのじゃ!」


 レグルスが唸り、俺の頭にかぶりついてくる。


 首根っこにひっつくヒル子と頭を齧るレグルスと格闘していると、エルピスが俺の裾を引っ張り、俺を見上げる。


「帰ろう」


 俺は笑う。


「ああ。そうだな。帰るか!」


 俺が言うと、エルピスが微笑む。


「そうだ、みんな! 俺の家にご飯食べに来いよ!」


 俺がマリヤ、咲耶、睡蓮の三人に言うと、三人は目を丸くし、顔がぽかーんとなる。


「せっかく皆で仲良くなったんだからよ! 同じ釜の飯を食うって言うだろ」


 と話している途中、三人がクスクスと笑い始める。


「な、なんだよ。真面目に言ってんだぜ」


 と言うと


「ほんとっ。あんたって馬鹿真面目ね」


「そう。それがあなたなのね」」


「ええ! これが太陽さんですわ!」


 何だか恥ずかしくなり、俺はヒル子を見て、


「俺、おかしなこと言ったか?」


 と聞くと


「いいや、お主らしいわ!」


 とヒル子も笑う。


「私は自分の国に帰るわ」


 マリヤが空を見上げると、フレースヴェルグが降りてくる。


「そうね。私も自分の異界に戻ろうかしら」


「私も。健太とおじい様がお腹空かせてますから」


 ごめんなさい、と咲耶がぺこりと頭を下げる。


「あ、ああ。そりゃそうだな……」


 空気が読めなくて、何だか恥ずかしくなって頭をかくと


「まったく。しょぼくれてんじゃないわよ」


 マリヤが俺を指さし、人差し指を上げる。


「今回は、一つ貸しよ。忘れないことね!」


 と言って、フレースヴェルグに飛び乗る。


 睡蓮も背中の翼を広げ、飛び上がる。


「バースト様。お願いしてよろしいでしょうか?」


「いいわ」


 咲耶が黒豹のバーストの背中に乗る。


「「「それじゃあ」」」


 マリヤ、睡蓮、咲耶が手を振る。


「「「また明日!」」」


 そういって、マリヤ、咲耶、睡蓮はそれぞれバラバラに城から去っていった。


「また明日って……。どういう意味だ?」


 俺がヒル子に聞くと


「はあ。とんだ朴念仁じゃの。そんなの自分で考えるのじゃ!」


 と頭をはたかれる。


 レグルスが俺のシャツを噛んで思いっきり引っ張る。


「レグルスも腹が空いてるそうじゃ! 」


「悪い悪い!」


 レグルスの背にのったエルピスが、にっこり笑う。


「よっしゃ! 帰ろうぜ!」


 俺は駆けだし、レグルスと並んで石段を下りていく。


 入り口にある城の鉄門を抜けると、目の前の車道に自動車が停まり、運転席の窓から店長が手を振っていた。


「店長! 」


「やあ! 無事でよかったよ! 家まで送っていくよ」


 俺達は店長の車に乗り込むと、店長が発進する。


 車内の後部座席でエルピスを真ん中に、レグルス、ヒル子が並んで、眠りだす。


「君も疲れたろう。寝てていいよ」


「いいっすか。まじ眠くて……」


 俺は欠伸をして、背もたれに寄りかかる。


 目を閉じると、意識が段々と落ちてゆく。


 何の不安もなく睡魔に身を委ねる。


 もう、夢を見ることはないと知っていたから。









 肩をゆすられ、俺は目覚める。


「着いたよ」


 店長に起こされ、窓を見ると、いつの間にか家の前に着いていた。


「着いたぜ」


 俺は後部座席を見ると、エルピス、そしてレグルスが起きる。


 ヒル子の姿が見えない。


 エルピス、レグルスが先に、後から車から降りる。


 空を見上げる。


 茜雲が浮かぶ、夕焼け空だった。


「エル姉ちゃんーーーーー!!」


 家のドアの前でぴょんぴょんと飛び上がる陽芽、母ちゃん、親父が俺達を待っていた。


 エルピスが陽芽に抱き着かれ、母ちゃん、親父と一緒に家に入っていく。


「おーい、ヒル子! 」


 俺はヒル子を探すも、どこにもいない。


「なんだ、もう寝たのか」


 左手を見て、イマジナイトの中に戻って寝ていると思った俺は、ドアを閉める。








『太陽。本当に……よく頑張ったのじゃ』


 夕日を背負い浮かぶヒル子は、目を細め笑みを浮かべながら、太陽を見守っていた。


 太陽が家に入るのを見届けると、ヒル子は屋根に止まっていた三本脚の烏と一緒に何処かへ飛んでいく。





 リビングのテーブルにみんなで座る。


 鼻孔をくすぐる香ばしいスパイスの匂いに、俺は涎が出そうになる。


 目の前には熱々のカレーが山盛りになって、皿に乗っていた。


「今日はカレーよ! 」


「やったー!」


 万歳する陽芽と一緒にエルピスが笑う。


 レグルスは既にテーブルの下で、キャットフードをがつがつと食べている。


「母ちゃん! まだかよ! 待ちきれないぜ!」


 と俺がスプーンを持つと母ちゃんがエプロンを椅子にかけて座る。


「はいはい。わかったわ。それじゃ、せーの!」


「「「「「いただきまーす!!!」」」」」


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