『協力者』
星々と満月が夜空を照らされながら、俺たちは自転車で橋を越えていく。
ちらりと後ろを見ると、エルピスは顔を横に向け、橋の上から見える川を眺めていた。
川の水面には、キラキラと星明かりと月の光が映っていた。
そこから十分程漕ぎ続け、目的地に着く。
広々とした駐車場の真ん中に、テトリスの長方形に正四角形がくっついたような建物が見える。
辿り着いたのは、ゲームショップEDENだった。
一台も停まっていない駐車場を抜け、俺は自転車を止める。
エルピスを先に、次に俺も自転車から降りる。
俺は店の前の閉じ切った自動ドアのすぐそばまで歩き、ケータイで電話をかける。
わずかな時間で相手が出る。
「……おや。太陽君。こんな時間にどうしたんだい? 」
「店長。こんな遅くにすみません。今、店の前にいるんすけど、どうしても相談したいことがあって」
俺が言うと
「ふむ……。少し待っててくれるかい。すぐに下りるよ」
店長は何も聞かずに電話を切ると、ほんの2、3分で自動ドアの前のシャッターが上がり、普段着のシャツとエプロン姿の店長が現れる。
「やあ、太陽君。と……」
眼鏡をかけた店長がエルピスを見て、ぽかんとする。
「ええと、この子は一体……」
「夜遅くにすんません、店長。でも急いで話したいことがあるんす」
店長は俺とエルピスを見て
「とにかく、外にいるのもなんだから入りなさい」
と自動ドアを開けて中に招き入れられる。
俺とエルピスは顔を見合わせ、入っていく。
明かりの灯った照明のついた店内で、俺とエルピスはカードゲームスペースのテーブルの上に座る。
店長は俺たちの向かいに座ると
「説明してくれるかい? 」
俺は頷くと、エルピスとの出会い、そして今日までの全てを話す。
店長は途中で質問を挟むこともなく、まじめな表情で俺の話しを頷く。
俺が話し終えたのを見ると
「なるほど……」
店長が机の前で両手を顔の前に合わせる。
「信じられないってのも当たり前っす。だけど」
「まあ待つんだ」
と手で店長は俺を制止する。
「先に言っておくが、私は君を信じるよ」
「まじっすか? 自分でも頭おかしいことを言ってるのは自覚してるんすけど」
俺が半信半疑で尋ねると
「これが他の誰かだったら迷わず警察を呼ぶところだが、君とは十年来の付き合いだからね。それに……」
店長は俺の隣にいるエルピスを見る。
「この子の様子を見れば、君を信用していることはわかる。とはいえ」
店長は立ち上がり、俺の左手首、イマジナイトを指す。
「最後の確証が欲しい。そのためには。そこに眠っているヒル子という女神。彼女を呼んではくれないかい? 」
俺は頷くとイマジナイトを通じ声をかける。
「ヒル子、来てくれ」
俺の呼びかけの僅か後、微かな光と共に、手のひらサイズの大きさのヒル子が現れる。
「なんじゃ、太陽……我は眠いのじゃが」
ヒル子のことを見ながら、店長は目を丸くする。
「……驚いたよ。まさか女神という存在と出会えるとは……」
「ヒル子。眠いだろうが起きてくれ」
と言うと、ヒル子が店長を見る。
「ほほう、こやつが……」
「はじめまして。ヒル子様。太陽君と親しくさせてもらっているキャンベルと申します。お目にかかれて光栄です」
と店長が胸に手を当てながら頭を下げると
「ほほう! 中々殊勝な奴ではないか! 太陽、この者か! お主を助けてくれるかもしれないといった者は! 」
店長はかしこまりながら
「話しは全て太陽君から聞きました。その上で一度あなたとお会いしたいと思い、太陽君にお願いした次第です」
「ふむ。我はヒル子! 女神の守護者である太陽を導く女神である! よろしく頼むのじゃ! 」
俺はエルピスを見て、店長に言う。
「店長。俺はこの子、エルピスを護る女神の守護者だ。彼女を護るためにどんな相手だろうと戦う。そのための力はある。だけど……力だけしかねえ。これからどうやって護っていくのがいいか、上手いやり方が思い浮かばねえ。だから、俺に知恵を貸してほしい」
俺は立つと、勢いよく頭を下げる。
「……太陽君、頭を上げるんだ」
と店長の言葉に頭を上げると、店長が微笑む。
「君の話の通りであれば、放っておいていい問題ではなさそうだ。なにができるかわからないが、僕でよければ力を貸そう」
店長が頷くと、俺はほっと息を吐く。
そんな俺たちを見て、ヒル子が叫ぶ。
「話しはついたようじゃの! それでは、作戦会議とゆこうではないか! 」