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『決戦:天守閣』

 燃え盛る灼熱の炎の翼を羽ばたかせ、俺は空へと舞い昇る。


 全身の炎が俺を昂らせ、力が滾る。


 手にした白銀の剣が、七つの枝刃のある黄金の七支刀に変わる。


 この姿になった俺は、


「負ける気がしねえぜ!」


 マリヤが俺を見上げる。


「まさか……それがあんたの……」


 俺が答えようとしたら、


「そうじゃ! 神の炎を纏ったこの姿こそ、太陽の真の力じゃ! これで我らはニャルラトテップを斃したのじゃ! 」


 ヒル子が自分のことのように胸を張る。


「太陽さん……」


 朔耶が声を漏らし


「へえ……中々やるじゃない」

 睡蓮がほくそ笑む。


「なるほどね。それが、ニャルラトテップの化身を滅ぼした力ってわけ」


 バビロンが俺を見定めるように見て、


「ああ、そうだ! 」


 と俺は手にした黄金の七支刀をバビロンに向ける。


「お前を滅ぼすための力だ! 」


 バビロンの表情から笑みが消える。


「もはや。この世界は要らぬ……妾がすべて呑み込もうぞ!」


 マリヤが空を見上げ、叫ぶ。


「来るわよ、太陽!」


 城の頂上、暗雲が引き裂かれる。


「な、何じゃ、あれはーーーーーーー?!」


 ヒル子が指さした先。


 城の頂上、天守閣から降りてきてたシュブニグラスの本体。


 それがほんの僅かだったことを思い知らされる。


 空全体を埋め尽くす、尋常じゃなく巨大な蛇のとぐろが雲を裂いて現れる。


 あまりのスケールに、俺達はみな声を失う。


 それはまさしく、神話の龍そのものだった。


「妾をただの邪神と同じと思うでないわ! 今ここにある身体も、本体のほんの僅か一部! このまま降臨し、世界全てを押しつぶしてくれようぞ!」


 空が落ちてくる。


 そして、本体から豪雨のように、シュブニグラスの子供が降ってくる。


「おらぁああああああ!」


 落ちてくるシュブニグラスの子供らめがけて、黄金の七支刀を振り払い、炎の嵐で焼き尽くす。


「食らいなさい!」


 マリヤが炎の竜を召喚し、シュブニグラスの子供を呑み込む。


「征くのじゃ! 」


 浮かぶヒル子の背後の紋章が破片へと分裂し、飛んでいく。


 ヒル子の額の赤い球から放った光線が、破片に反射し、その間のシュブニグラスの子供を切り刻んでいく。


 それでも、撃ち漏らしたシュブニグラスの子供が、地面の仲間たちに向かう。


「私が、護りますわ! 」


 地面では、桜の花びらが円形の結界となって、エルピス、レグルス、バーストを護る。


 朔耶が両手を合わせ、祈るように俺を見ていた。


 地面にいる咲耶たちに向かって、雪崩のようにシュブニグラスの子が押し寄せる。


「いかん! あまりにも数が多すぎるのじゃ! 


 俺は咲耶たちを守ろうと地面を向いた瞬間、轟音を上げて、竜のようなシュブニグラスの尻尾が飛んでくる。


 しまったと思った瞬間、巨大な光の壁が現れ、防ぐ。


「ぼーっとするでないわ! 」


 ヒル子が飛んでくる。


「わりい! 」


 今度は逆側から来るシュブニグラスの尻尾を、睡蓮の蛸足が三本で防ぐ。


「油断してる場合じゃないわよ」


「睡蓮! サンキュー! 」


 悪魔のような翼で飛んできたクティーラが並ぶ。


「このままじゃ、咲耶たちが!」


「太陽! 」


 マリヤは天守閣の真下の屋敷の縁にとまり、俺を見上げ叫ぶ。


「シュブニグラスの本体を、これ以上こっち側に来させたら、異界がもたない! 現実世界と完全に融合するわよ! 」


 俺は頭上に迫りくるシュブニグラスの本体を見上げると


「このデカブツをどうやって、倒せばいいんだよ! 」


「あれじゃぁ!」


 ヒルコが叫んで、本体を指さす。


 それは、天守閣の天辺、降りてきたシュブニグラスの本体である脳髄が連なる実をつけたブドウの房、それを縦に抉るようにできた深い傷。


 俺が、プラズマブレードでつけた傷だった。


「太陽! お主がつけたあの傷こそ、我らの唯一の勝機じゃ!」


 睡蓮が興味深そうに傷を見る。


「バビロン。外なる神(アウターゴッド)であるあなたをもってしても、再生できない。というより……」


 バビロンの手が睡蓮を指さすと、飛んでいる睡蓮めがけてシュブニグラスの巨大な脚が振り下ろされる。


 俺はとっさに睡蓮の前に飛び込み、黄金の剣で防ぐ。


「ぐっぅおおおおお」


 剣から発した黄金の炎が、シュブニグラスの脚を焼き焦がし、はじき返す。


「ありがと」


 睡蓮が俺の後ろから囁く。


「太陽! シュブニグラスの本体、その中枢はお主が傷をつけた場所かもしれぬ!  」


「何でそんなのがわかんだよ!」


「推測じゃが、降臨する際に最初にやってくるのは、頭の部分のはずじゃ! 故にあそこさえ潰せば、他の体は要はなさぬ筈じゃ!」


 俺はもう一度、天守閣に一番近いシュブニグラスの本体、人間の脳髄がつらなったブドウの房を見る。


 よく見ると、その上に縦に並んだ牙が両側にあるのが見える。


 あれが、顔。


 ってことは……


「奴の頭もそこにあるはずじゃ!」


 バビロンが大声で叫ぶ。


「よくわかったねえ! だけど、それがどうした! 貴様らが妾の本体を倒す前に、この世界が終わるわ! 」


 本体から巨大な脚が雨あられと振り下ろされるのを、俺達は飛びながら、何とか躱す。


 本体に近づこうにも、圧倒的なまでの手数で攻撃を受けるのに精いっぱいだ。


 頭上からシュブニグラスの本体が迫ってくる上に。


 地面を見ると、押し寄せるシュブニグラスの子供から皆を守る咲耶の顔が苦し気になっていく。


「くそがっ! もう時間がねえ!」


 俺を見上げるエルピスと目が合った瞬間、背中に衝撃を食らい、視界が反転する。


「太陽! 」


「太陽さん! 」


 地面に落ちてゆく。


 ヒル子、咲耶の叫ぶ声が最後に聞こえた。







「……はあ。仕方ないわね……」


 マリヤは天守閣を見上げながら、屋根瓦に槍を突き立てる。


「おや。エルフの女王。諦めるのかい? 」


 バビロンがせせら笑うも


「冗談。覚悟、決めただけよ」


「死ぬ覚悟ができたようだねえ」


 マリヤはバビロンを無視して、呟く。


「糞親父。あんたの槍、使わせてもらうわ」


 マリヤが心臓に手を翳す。


「ムスペルヘイムの護り手にして、我が父祖たる炎の巨人よ! 我が呼びかけに応えよ!」


 大気が揺れる。


 マリヤの心臓から溢れ出した紅蓮の炎が、四方八方に伸びていく。


 ツインテールが逆立ち、燃え上がる。


「な、なんだい?! 」


 バビロンが目を見張り、マリヤを見下ろす。


「裏切り者が鍛えし、九つの錠で封印された、世界樹の頂に座すヴィゾーヴニルを殺す 破滅の枝よ! 」


 マリヤが背中を一気に反る。


 マリヤの鎧、その心臓の位置が、赤い光を放ち始める。


「外なる神を滅するため! 出でよ! 神殺しの槍! 」


 ゆっくりと。心臓から何かが突き出る。


 マグマのように燃える鋭い黄金の切っ先。


 エメラルドの装飾。中心には古の文字が刻まれる。


 真紅のルビーが輝く。


 穂が全て見え、それに続いて鎖が巻かれた紅の柄が伸びる。


「まさか……、その槍は?!」


 バビロンが驚愕の叫びを上げる。


「ぐっがぁあああっっぁいあああああああああああああああ!!」


 絶叫するマリヤが両手で柄を掴み、一気に心臓から引き摺りだす。


「今此処にぃいいいい! 神々の黄昏を蘇らせん!」


 何重もの鎖で縛られた槍。


 マリヤが両手でその槍を天に掲げ、叫ぶ。


「神威顕現! レーヴァテイン!! 」

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