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『天守閣へ』


 俺の目の前に、石垣の上に渡櫓を載せた櫓門が、堂々と構える。


 この門の先、外なる神(アウターゴッド)が降臨している。


 俺はごくりと唾を飲む。


 俺は、締め切った木の扉を両手で押し開ける。


 ゆっくりと扉が開いていく。


 俺は門を抜けると、何十体もの樹の怪物がひしめいていた。


 待ち構えられていたのだ。


 だが、


「そんなの、最初から覚悟してたんだよ、こっちはぁああ」


 俺は門を抜けると同時に駆け出す。


 怪物がこちらを向きだす。


「先手必勝!」


 左手を上げて、叫ぶ。


「イマジナシオン!」


 黄金の光が空に伸び、俺は白銀の鎧を纏う。


 召喚した剣を右手に持ち、目の前の樹の怪物の脚を切り裂く。


 怪物どもが慌てふためくさまを見ながら、俺は左手にある石段に向かう。


 目指すは、外なる神(アウターゴッド)が降臨した、天守閣。


「最短ルートで突っ走る!」


 俺は地面を砕き、高速で石段を十段飛ばしで駆け上がる。


 通りすがりの怪物の脚の間をくぐりながら、脚を切り裂く。


 途中、右に曲がった石段を登り、少し開けた場所でも怪物が押し寄せる。


「邪魔だぁあああ!」


 通り道を塞ぐ怪物だけを斬り、上に通じる新たな石段を上る。


 一気に飛び降りるには高く、堅牢な石垣が左右を塞ぎ、道なりにしか上を目指せない。


 不意に頭上に気配を感じた俺は、何体もの樹の怪物が俺に向けて飛び降りてくる。


「っち!」


 俺は咄嗟に石垣向けて飛び、石垣を足場に空中の怪物を斜めに切り裂く。


 着地して、再び俺は石段を昇る。


 昇っていくにつれて、闇が段々と濃くなっていく。


 石段の上、左右を石垣に挟まれた、屋敷の入り口のような門が現れる。


 小学校の時の遠足を思い出す。


 何度も来たから、覚えている。


 ここさえ抜ければ、本丸、そして天守閣はもうすぐだ。


 だが


「しつけえんだよ。くそ野郎! 」


 門を塞ぐように、大量の樹の怪物がやってくる。


 ここで時間を食ってる場合じゃねえ。


 「なら!」


 俺は怪物の群れに向けて、飛び上がる。


 怪物が体を上に向け、頭頂部の枝から触手を伸ばすも、俺は剣で切り払う。


 そのまま、奥の樹の怪物の天辺に飛び乗り、そのままもう一度飛び上がる。


 繰り返していき、俺は飛び上がって門に飛び移る。


「あばよ!」


 門を飛び越えた俺は怪物の群れを後ろに残し、着地した俺は石垣をぐるりと回る。


 そのまま一気に駆け抜けた俺は、ようやく最後の石段を昇り切る。


「着いたぜ」


 砂利が敷き詰められた本丸に入る。


 そこは敵地のど真ん中だった。


 天守閣を見上げる広場全体に、俺を取り囲むように樹の怪物が待ち構えいた。


 俺は剣を構えたその時だった。


「よくぞ、ここまでたどり着いた!」


 威勢のいい女の声が頭上から聞こえる。


 見上げると、天守閣の天辺に、背の高い緑のドレスを着た、大柄でふくよかな女が立って、俺を見下ろしていた。


「てめえ、何者だ!!」


 俺は剣を向けると、周囲を囲む樹の怪物が殺気だつ。


「やめな!」


 女が叫ぶと、樹の怪物が動きを止める。


 大柄な貴婦人風のドレスを纏った女が、太い腕で自分の胸を指さし


「妾は外なる神(アウターゴッド)太母神マグナ・マーテル、シュブニグラスの化身、バビロンである」


 バビロンと名乗った女、その威風堂々とした姿に圧倒されるも


「てめえが外なる神(アウターゴッド)……」


 シュブニグラスの化身、バビロンは、けらけらと笑う。


「ようやく相まみえた。八剣太陽。お主が来るのをずっと待っておったのだ。妾は」


 バビロンは敵意を感じさせない、おおらかな笑いで俺を見下ろす。


「まあまあその剣は下すがよい」


「何を言ってやがる! てめえがこの街に攻めに来たんだろうが!」


 と叫ぶも


「勘違いするんじゃないよ。妾はお前たちを滅ぼしに来たわけではないのだ」


 滅ぼしに来たわけじゃない?


「は? んなの。信じられっかよ」


「ならば聞こうか。お主は、この街の人々が死んでるところを見たか?」


 そういわれると、確かにそうだが


「それは、まだ完全に俺達の世界、現実世界を侵食できてないからだろ!」


「そうじゃ。妾はこの街を滅ぼす気がないからこそ、完全に侵食しとらんのだ。言うておくが、妾が本気を出せば、この街は一瞬で異界に沈むぞ」


 バビロンの言葉の真意がわからない。


「てめえは、あんな樹の怪物を街に放ってるじゃねえか!」


「あれらは妾の子どもだ。妾が命令しない限り、人間を食べやしない。確かにお主に関しては、我が子らが歓迎してもうたが、お主はそれぐらいでやられる玉ではないはずだ。許しておくれ」


 バビロンのまるで子供を見るような母の眼と穏やかな声に戦意が削れていく。


 自分の中の何かがおとなしくなっていく。


 母ちゃんに諭されるようで、調子が狂う。


「……話だけなら、聞いてやる」


 返事をするつもりがないのに、口から声が出る。


「よいよい。それでよいのだ」


 バビロンが頷く。


「妾は、お主たち人間のことは、自分の子供みたいだと思ってるのさ。まだ生まれたてのねえ」


 舐められた俺は何とか戦意を振り絞り叫ぶ。


「子供、だと。てめえは邪神だろうが!」


「そうかっかしなさんな。お主たちは、この遍く星々に囲まれた青い星の上に、寄る辺なく生まれた子供さ」


 まるで母のような馴れ馴れしい物言いに、何とか抗うように拳をつきあげ、叫ぶ。


「意味わかんねえこと言ってるんじゃねえ!」


「お主は元気だねえ」


 バビロンが大声で笑う。


「てめえの目的は何だ?! 何故現実世界に攻めてきた?!」


「ふむ。そうさね」


 胸の前で腕を組んで、左手を顎に添えて一言


「お主ら、人間の保護だ」

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