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『女王の逆鱗』


「パパ! 」


 女の子が、目の前のお父さんの胸に飛び込む。


「見つけて下さり、本当に、本当にありがとうございます!! 」


 と地面に頭が尽きそうな程、深くお辞儀する父親に


「いえいえ。たまたま娘さんがこの近くで歩いているのを見つけただけですので」


 と店長たちが店の前で話しているのを店内で見ながら、一時間程前のことを思い出す。







 店に入ろうとした俺達の後ろにいきなり現れたマリヤに、あっけにとられた俺と店長は一瞬、固まる。


「君は一体、誰なんだい? 」


 店長が驚きつつ尋ねるも、マリヤは無視する。


 よく見ると、マリヤの鎧やマントがかなり汚れていて、顔には擦り傷と血がこびりついていた。


「マリヤ、その傷は」


 と俺が話した時、マリヤのマントが揺れて、後ろから、小さな女の子が顔を出す。


 女の子は涙目で少し脅えながらも、マリヤのマントを掴んで、様子を窺うように見る。


「その子は……もしや」


 店長は何かを察したように言うと


「とにかく中に」


 と言って、店のドアを開け俺達を中に招き入れた店長は、急いで携帯電話を取り出し、電話をかけ始める。


 動揺した女の子に、エルピスが寄り添うように店の奥の方に連れていく。


 マリヤが息を吐き、勢いよくテーブルに腰掛け、脚を組む。


「もしや、お主……怪物と戦ったのか?!」


 驚きながら問いかけるヒル子に


「見たらわかるでしょ」


 つっけんどんに返事を返す。


「倒せたのか? 」


 と俺が聞くと、マリヤは苛ついたように俺を見て、舌打ちをする。


「逃げられたわ」


 と言って、そっぽを向く。


「どんな怪物だったのじゃ?!」


 ヒルコが聞くも、


「あんたらに言う必要なんてないわ。どうせ言っても無駄でしょ」


 とマリヤは答える。


「あ? どういう意味だよ」


 相変わらず見下したように喋るマリヤに、カチンときた俺は声を荒げる。


「言葉通りの意味よ。あんたら程度じゃ、足手纏いにしかならないってこと」


「お主! どこまで高慢なのじゃ!」


 とヒル子が憤慨するも


「そのとおりじゃない。だから、私が独りで戦ってるんでしょ」


 マリヤはそう言って机から降りると、俺達に見向きもせず


「それじゃ」


 と言って立ち去ろうとするマリヤに


「待ってくれ!」


 と俺は言う。


「なに? 疲れたから帰りたいんだけど」


 俺は何を言うべきか迷う。


 聞きたいこと、言いたいこと。たくさんある。


 だけど、今の俺じゃ、マリヤに何を言っても無駄な気がする。


 けど、ここで帰すわけにはいかない。


 例え、憎まれてでも、こいつをここで引き留める。


「逃げられたっていうけどよお、要は倒しきれなかったってことだろ?」


 敢えて馬鹿にするように俺が言うと、マリヤの足が止まる。


 ゆっくりと振り返ったマリヤの黄金の眼が、光を帯びはじめる。


「……へえ。戦いの場に立つことすらできないあんたが、よく言えたわね」


「実際、独りじゃ勝てなかったのはそうだろうが」


 マリヤの全身から赤い波のようなものが見え始める。


 明らかに不味い兆候だ。


 伝わってくる殺気に、内心ビビるも、なんともないような顔をする。


「太陽! 不味いのじゃ! ブチ切れておるのじゃ! 」


 ヒル子が慌てるも俺は続けて言う。


「マリヤ、お前もわかるだろ。独りじゃ勝てねえならどうすればいいかをよ」


「何が言いたいわけ? 」


 マリヤの手にどこからともなく現れた真紅の槍が握られる。


「一緒に戦おうぜ! 」


 殺気を間近で浴びながら、最後まで俺は言いきる。


「俺とお前、二人でなら……勝てる! 」


 そう叫ぶと、マリヤがじっと俺を見る。


 俺は負けないように虚勢を張ってた黙っていると


「……今夜、あの公園で待ってなさい」


 そう言いのこすと、店から出ていった。


 マリヤが出ていったのを見て、ようやく俺は息を吐く。


「太陽! 生きた心地がしなかったのじゃ! 」


「だな。やばかったぜ」


 俺は手近な椅子に倒れるように座り込む。


 こうでもしなければ、マリヤと共に戦うことはできない。


 そう思ってやったが、何とか気はひけたみたいだ。


 殺されそうだったが。


 店長が奥から戻ってきて


「親御さんに電話をしたよ。警察と一緒にもうすぐ来るそうだ」


と俺の様子を見て、店長は目を丸くする。


「あれ、どうしたんだい? そんなに汗をかいて」


 との店長の言葉に、俺は苦笑いする。








 その夜、俺はぞうさん公園に着くと、公園の中央のいつもの場所に行く。


 蝉はいつの間にかいなくなり、コオロギの鳴き声が静かな公園に響く。


 ヒル子が俺の横で浮かびながら、欠伸をする。


「公園に来いといったが、何が目的なんじゃ?」


「さあな」


 ヒル子と俺は喋りながら、歩く。


「まさか……お主を呼び出して、殺そうとするのではないじゃろうな」


「んなわけねえだろ」


 と言ったものの、冗談とは言えないくらいに、マリヤをキレさせてしまったのも事実だ。


「でもまあ、あの子が助かってよかったのじゃ! そのことは感謝せねばの」


 と話していると


 「遅い」


 と言葉が聞え、マリヤが目の前に降りてくる。


「うぉっ。びっくりしたのじゃ! お主どこから現れたのじゃ!」


 とヒル子が聞くも


「うっさいわね、どうでもいいでしょそんなこと」


 とマリヤの態度にヒルコが憤慨し、ぐぎぎぎ、と歯ぎしりする。


「何時とか言ってねえじゃねえか」


「何、口答えする気? 」


「……悪かったよ。これで満足か?」


「不貞腐れた態度がむかつくけど、まあいいわ」


 マリヤが夜空を見上げる。


「ノーデンス。こいつと私を異界へ連れてきなさい」


 マリヤが言った途端、その言葉に答えるように渦巻状の扉をした門が現れる。


「先、行くわ」


 とマリヤが入る。


「本当に女王様って感じじゃのう!」


 ヒル子がふくれっ面になりながら、文句を言う。


「だな」


 俺はヒル子と一緒に、マリヤに遅れて門に飛び込む。


 一面が無色の床がどこまでも広がる、ノーデンスの異界。


 目の前に立っているマリヤが、俺を睨みつける。


「あんた、言ったわね。一緒に戦おうって」


 マリヤの眼に負けじと、強気で答える。


「ああ、それが」


 どうした、と言い終わる前に、マリヤの全身から赤い灼熱のオーラが吹きあがる。


「私が必要なのは、私に匹敵する力をもつ者」


 その迫力に思わず、気づくと後ずさりしていた。


「足手纏いは必要ない」


 マリヤがその手に槍を握りしめる。


「あんたが女神の守護者だというのなら、予言に謳われし勇者だというのなら……」


 マリヤが深く地面に沈み込むように、槍を構える。


「今ここで、証明してみなさい。もし、できないのなら……」


 マリヤの黄金色の双眸が、獰猛な獣のように、爛々と輝く。


「ここで、死ね」


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