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『予言』

 巨大な槍を手に、見下ろしてくるマリヤの髪が炎のように揺れ、背中のマントがはためき煌めく黄金の光が、蝶の鱗粉のように放たれる。


 戦乙女というより戦女神のような圧倒的なまでのオーラを纏った美しく凛々しいその姿に、俺は目が離せない。


「……あんた、本当に女神の守護者なの? この程度の奴らを倒せないだなんて」


 心底見下したような目をするマリヤの目が、莉々朱さんの目と重なって、内臓を抉られるような痛みを覚える。


「なんじゃ! いきなり失礼じゃぞ! 」


 ヒル子が怒りながら、現れる。


 ヒル子を見て、マリヤが目を丸くする。


「へえ。まだ生き残りの女神がいたの」


「うむ、そうじゃ! 」


 とヒル子が胸を張ったものの、


「まあ、何の力も無さそうなその様子じゃ、どこのだれかは知らない、無名の神でしょうけど」


「なんじゃとーーーーーーーーーー! 」


 マリヤの態度に、ヒル子がキレる。


 戦いが終わり、異界の壁が砕けていき、怪物も塵になっていく。


「よっと」


 マリヤは怪物の頭から一回転して飛び降りながら、俺の前に華麗に着地する。


 屈んだ状態から立ち上がったマリヤと俺の瞳が重なり合う。


「……ふん」


 彼女はそっぽを向く。


「太陽! 助けてもらったとはいえ、こんな失礼な奴は置いて、さっさと行くのじゃ! ノーデンスが待っておる」


「あ、ああ。そうだな」


 我に返った俺は返事をした時、マリヤの耳がぴくっと動く。


「ノーデンス? 」


 マリヤがヒル子と俺を見る。


「知ってんのか? 」


「大帝の用命なら、私にも関係あるわ。案内しなさい」


 俺の質問にも返事せず彼女の見下したような面に、最初は緊張した俺も、段々俺も苛々しだす。


 莉々朱さんと同じ色の瞳でも、全然別人だ。



 俺とヒル子が先に立って、橋を渡るその後ろを、マリヤは何も喋らず景色を見ながらついてくる。


「なんじゃ、あの娘は! あまりにも無礼じゃ! この我に対しても舐めてかかって……」


 とヒル子が愚痴っていた。


「全くだぜ。確かに助けてもらったけどよ」


 と話していると


「聞こえてるわよ! これだから弱い人間は嫌いなのよ」


 弱い、という言葉に俺は思わず後ろを向く。


「あれはたまたまもう一匹に不意打ちされて捕まっただけだ! あんたがいなくても、何とか勝てたさ」


「よく言うわ。私が助けなかったら、やられてたじゃない。せいぜい感謝しなさい、人間。それくらいなら、できるでしょ? 」



「馬鹿にするのも大概にしやがれ。俺は、ニャルラトテップっていう邪神を倒したんだぜ! 」


 と言うと、マリヤは腰に手を当てて冷たい目つきをして


「信じられないわ」


 と言うと、再びそっぽを向く。


 俺も話す気が失せ、前を向いて歩く。


 橋を渡り切り、ぞうさん公園に辿り着く。


 その頃には日は沈み、夜の帳が降りていた。



「ここは何なの? 」


 公園の入り口で、マリヤが聞いてきたので俺は仕方なく返事をする。


「公園って言って、まあ子供達の遊び場や、憩いの場みたいなところだ」


「ふーん。こんな小さくて雑草しか生えてないような場所が遊び場、ね。人間って哀れね」


 いちいち癇に障る言葉を言ってくるマリヤに、キレそうになったその時だった。


 公園の明かりが一斉に消えていく。そして目の前に、渦巻く波のような門が開かれる。


「これが入口ね。それじゃお先」


 といつの間にか前にいたマリヤが手を振って、入っていく。


「我らも遅れん内に行くのじゃ! 」


 遅れて俺も飛び込む。


 一瞬で、俺はだだっぴろい闇色の空間にいた。




「ふむ。揃ったようだ」


 厳かな声が響き、頭の上に、ノーデンスの姿が映る。


 ヒル子が憤慨しながら言い。

「ノーデンス! こやつは一体何なんじゃ?! 」


「ノーデンス、こいつ本当に女神の守護者なの? 」

 

 マリヤが腕を組みながら、俺を目で指さす。


「エルフの姫よ」


とノーデンスが言った時、険しい目つきでマリヤが臆することなく口を開く。


「今は女王よ」


「それは失礼。お主たちに紹介しよう。彼女は、マリヤ・レーヴァヒルド。神話世界に暮らすエルフ族を統べる女王である。今回、女神の守護者たるお主の役目を助けるために、儂が招聘した」


 唐突なノーデンスの説明に


「それはさっき聞いたけどよ、そもそもエルフって何なんだ? 」


 なんとなくゲームやアニメ、ファンタジー映画とかで知っていたが尋ねてみるも


「それは後ほど、女王本人に聞くがよい。そうそう時間もとれぬ故、要件を先にすまそう」


「くっそ、こいつ本当に説明しねえな」


 俺は舌打ちする。


「我もお主のよく言う、キレる寸前じゃが、それより予言について早く知りたいのじゃ」


 ヒル子の言葉に、俺は仕方なく抑える。


「そうだ。なんだよ、予言ってのはよ?」


 というと、マリヤが馬鹿にしたように俺を見る。


「んだよ? 」


「あなた、本当に何にも知らないのね。女神の守護者の癖に」


 俺はマリヤにキレそうになるのを抑え、何とかノーデンスの方を見上げる。


「予言とは、かつて神話世界にいたとある神が、世界の運命について語ったものだ」


「「世界の、運命? 」」


 俺とヒル子が同時に尋ねる。


「そうだ。その予言は三つある。一つ目は、『虚空の混沌より訪れし超越者が、神話世界を破滅に導く』」


「それってえのは」


「まさしく邪神のことじゃな! 」


 ヒル子の言葉に、ノーデンスは頷く。


「二つ目の予言は、『最も新しき女神が、女神の守護者との邂逅により目覚める。そして女神の導きにより、最も新たな勇者が目覚める』」


「俺と……エルピス? 」


「それに女神とは我のことか! 」


「そうだ。この予言に従い、儂はお主に授けたのだ。その左手にある神宝、イマジナイトを」


 初めての事実に俺は驚き叫ぶ。


「てめえ、何でそんなこと初めから言わねえんだよ! 」


「あの時言ったとて、信じられぬだろう。幾たびの戦いを乗り越えた今だからこそ、この予言が確かに思えるはずだ。故に今、伝えたのだ」


 俺は左手首にあるイマジナイトを見る。


 ふと視線を感じ横を見ると、マリヤが俺を見ていた。


「なんだよ」


「何でもないわ」


 マリヤのつんけんな態度に苛々していると


「続ける。そして三つ目の予言は、『勇者と運命の姫君が出会うとき、新たな扉が開かれる』」



「運命の……姫君……?」


 謎めいた言葉に俺とヒル子はポカンとする。


「何とも意味深な言葉じゃのう」


 運命の姫君、そして新たな扉、なんて抽象的なこと言われてもちんぷんかんぷんな俺とヒル子が顔を見合わせる。


「運命の姫君って誰なんだ? 」


「新たな扉が開かれるってどういう意味なのじゃ? 」


 俺とヒル子の問いかけにノーデンスは首を振る。


「その予言の中の言葉が、具体的に何を指し示しているかはわからぬ。だが、この予言の確かさは、これまでの出来事で証明されている。故に、運命の姫君を探すのだ、八剣太陽。それが邪神からエルピスを護るために必要なことだ」


 ノーデンスの言葉に、俺は素直に頷けないものの、エルピスのためと言われたら仕方ない。


 俺は不承不承頷く。


「こやつもそうなのか? 」


 ヒル子がマリヤを指さすと、マリヤが鼻を鳴らし


「くだらないわね。ノーデンス。言っておくけど、私はこの人間を手伝う気なんて、さらさら無いわ」


「は? それなら、てめえは何でここに来たんだよ」


 俺が尋ねると


「女神の守護者ってのが、どんな人間なのか見るためよ。それ以外ないわ。だけど……とんだ期待外れだったわ」


 そのあまりにも馬鹿にした態度に


「あー、そうかよ! 俺もお前に手伝ってもらう気なんて、さらさらねえよ!! 」


 とキレる俺だがマリヤは顔を向けることなく、ノーデンスを見上げる。


「旧き神々の長、大帝ノーデンスの命には従うわ。この世界に来る怪物は私が相手してあげる。だけどこれだけは言っておく。私はそいつを勇者だなんて認めないわ。こんな人間が、予言に謳われし勇者なわけがない。女神も可哀そうね。こんな力の無い人間如きが女神の守護者なんてね」


「てめえ! 」

「お主! 」

 エルピスを馬鹿にしたその言葉に、俺とヒル子が同時にキレる。


 だがマリヤは俺達を無視して歩き出す。


 マリヤは浮いている渦巻く波のように浮かぶ門の向こう側へと去っていく直前、振り返る。


 見下すようなその瞳の奥に何かが揺れるも、一瞬でその身体が門の中へ吸い込まれる。


 それが一体何なのかは、今の俺にはわからなかった。

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