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『encounter』

「おいおいおいおい、ラブレターかよぉおおおおおおお!!」


 健司の叫び声をきっかけに周囲で歓声が沸き上がる。


 俺は目の前の女の子を見る。


 彼女は少し顔を赤らめてはいるものの、その決然とした瞳は、告白とは違う何かを訴えているように見える。


「お、おお」


 俺がその白い手紙を両手で受け取ったその時



「お前達! 一体なにしとるんだ!! 」


 後ろの方から野太い叫び声が聞え、振り向く。


 全身ジャージ姿のお腹のつきでた大柄な体育教師、武田がのっしのっしと近づいてくる。


「おい、太陽! やべえ、武田が来るぞ! 」


 周囲の人垣が蜘蛛の子を散らすように去っていく。


 俺は後ろにいる女子高生をちらっと見る。彼女は近づいてくる武田を見て、表情が脅えていた。


 荒々しい見かけに加えて陰湿な武田に泣かされてきた生徒は多く、もしこの場であいつに掴まったら、俺たちだけじゃなくて、この女子高生に対しても何かやりかねない。


「健司! 俺達で武田を食い止めるぞ! 」


「まじ?! しゃあねーなー! その子の友達、紹介してくれよー! 」


俺は後ろを向くと、目線で女の子に早く行けと伝える。女の子は頷くと、校門から駆けていく。



「いやー、先生、お久しぶりっす! あれ、痩せました? 」

と健司が煽るように言う。


「八剣、鏑木い! またお前達か。覚悟はできとるんだろうな」


「何のことかわかんねえよなあ、健司」


「そうっすよ。ただ校門で駄弁ってただけっすよ」


と俺と健司はとぼけると、青筋を立てた武田が手にした竹刀を握りしめた。


「おや、武田先生。どうされたのです? 」


と、今にも折れそうな程細身の大人がやってくる。


「小暮先生! 」


やってきたのは、薄くなった頭髪と汚れたセーターを着た、俺と健司の担任教師である小暮先生だった。


「こやつらが何やら騒ぎを起こしてたもんだから、問い詰めてたのですよ」

武田の言葉に小暮先生が頭を傾げながら、

「騒ぎ、ですか? 彼ら二人しかいないようですが」

と答え、俺達の方を見る。


「鏑木君、八剣君。君達は何か騒ぎでも起こしたのかね?」

俺と健司は首を振りつつ

「いえ、先生! 何もしてません。ただ八剣君と一緒に帰ってただけっす!」


と健司が答えると、


「だ、そうですよ」

と小暮先生が武田先生を見つつ


「ほら、早く帰りなさい。君達は受験生なのだから」

と俺達に帰るよう促す。


 俺と健司は顔を見合わせ、


「うっす! 帰ります!」

と声を合わせて行って、急いで校門へ駆ける。


校門を出て、健司が息を吐きながら


「ふー、まじ危なかったわー」

と言う。


「確かにな。小暮先生がいなかったら詰んでたぜ」

と話しながら、歩く。


「あの聖心女子学園の女の子、まじ可愛かったなあ。ってか太陽。どこであんな子と知り合ったんだよ? 」


「まあ、ちょっとな」


とぼけた返事をして


「ってか健司。お前予備校は? 」


健司が時計を見て

「遅れちまう! 今度詳しく話し聞かせてもらうからなー」


と言って、健司が去っていった。


「ふぁぁあああ。太陽。何事じゃ? 」


 眠そうに欠伸をしながら、ヒル子がイマジナイトから出てくる。


「お前、ずっと寝てたのかよ」


「お主に付き合って夜中の街のパトロールで起きとるから、眠くて仕方ないのじゃああ」


目をごしごしと巫女服の袖でこすりながら、ヒル子が答える。

「ヒル子。夏休み、雨の中、怪物に呑み込まれそうな女の子いただろ? 」


「おお……、おお! おったのう! 」

「その子がさっきうちの学校に来てな、これを渡してきたんだよ」


 と手紙を見せる。


「なんと! それは恋文か! で何て書いておるのじゃ?」


 俺は封を開け、中の手紙を取り出す。


『八剣太陽さん。お話ししたいことがあります。明日の夕方、初めてお会いした、あの場所でお待ちしています』


「なるほどのう、我もお主の部屋にある漫画で見たから知っておるのじゃ! これは告白というのじゃろう! 」


 俺は手紙を見ながら、考える。


 文面だけならラブレターと見ることもできるが、手紙を渡してきたあの子の表情を思い出すと、どこか違う印象を受ける。



「それもよいが、太陽! 今夜ではないか! 」


「は? 何がだ」


「忘れておるのか! あの猫神のバーストが言っとったではないか。ノーデンスから預言について話すことがある、と」


「……、そうか、今夜だったか! 」


 自転車を学校に置いてきてしまった俺は今から戻って武田に掴まるわけにはいかないため、トレーニングがてら走りだす。






 黄昏時、ようやく俺の家がある高鷲町へと繋がる大きな橋に辿り着く。


 30分近く走り続けた俺は、流れる汗を袖で拭いながら、休憩がてら少し歩くことにする。




 視線の先、橋の中腹に人が立っていた。


 眩しい夕日の中、朧気にしか姿形が見えない。


 近づくにつれ、そのシルエットが鮮明になると、心臓が早鐘をうつ。


 段々と引き寄せられるように、近づいていく。


 夕日に照らされ燃えるような真紅の髪が、背中まで伸びている。


 煌めく黄金のティアラが、ツインテールを形作る。


 金の装飾の施された純白のマントが、吹いてきた風にたなびく。


 細く横に伸びた耳が、その存在が唯の人間ではないことを告げる。



 この世のものとは思えない幻想的な雰囲気の中、夕映えの下にいるその女性から目が離せない。


 橋の手すりに手をかけて、海を見つめるその女性の姿に、夏の思い出がフラッシュバックする。



 そして、その女性が俺の方を向く。



 心臓の鼓動が最高潮に響く。


 煌めく黄金の瞳に鋭い眼光。


「莉々、朱……さん? 」



 思わず俺は呼びかける。


「誰と勘違いしてるのか知らないけど、私はリリスという名前ではないわ」


 その女性は眉を細め、不機嫌そうに答える。


 よく見ると、確かに髪や金の瞳は似ていたものの、それ以外は莉々朱さんとは別の顔立ちをしている。


「す、すんませんした」


 軽く頭を下げる。


「まあいいわ。許してあげる、八剣太陽」


 俺は思わず顔を上げ、尋ねる。


「何で、俺の名前を? 」


 目の前のその女性は得意げに微笑み腰に手を当てて、


「気になるわよね、なぜなら私は……」


 と言いかけた刹那、女の耳がぴくっと動き、海の方へ顔を向ける。


「……お出ましみたいね」

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