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誓い

 

 漆黒の闇と毒々しい紫の色に、世界が染まっていた。


 光を通さぬ暗雲が空を塞ぎ、雷鳴が鳴り響く。


 そこはさながら冥界のようだった。


 現実世界と異なる世界、異界。


 その中心には、雲を衝くかのように巨大な天守閣が聳え立つ。上空には、まるで龍のような長い胴体が、世界を覆いつくすように、揺れている。


 天守閣へと至る城門の前には、蹄のような巨大な脚を持ち、樹木のような異形の怪物が、群れを成す。


 その中心で、白銀の鎧とマントを羽織った騎士が跪いていた。


 「あんたはよくやったよ。人間にしては、大したもんだ」


 城門の上から騎士を見下ろすように一人の女が立っていた。

 

「だけど、そろそろ限界だろう。ここらで諦めたらどうなんだい? 」


 その言葉に敵意は感じさせない、どこか親し気で、ある意味心配しているような気楽な口調だった。

 

 騎士は膝をついたまま、身じろぎせず、黙って聞いている。


「あんたがそこまでして戦う理由が、どこにある? 」


 純粋な疑問。


 その問いかけに対し、騎士がようやく顔を上げる。


 鎧の半分がひび割れ、兜が砕け散り、中から黒髪、そして顔の半分が見える。


「誓ったんだよ……」


 白銀の騎士、八剣太陽は、自身を支える剣を握る手に力を込めて、ゆっくりと膝を上げる。


 眼の中の炎は、燃え尽きることなく。


「誓った? 」


「ああ」


 何度もふらつく太陽を、興味深そうに女は眺めている。


 騎士を囲む怪物も主に従うかのように身動きをせず、立っていた。


「誰に? 」


 太陽は叫ぶ。


「初恋の……あの人に! 」


 太陽は、手にした剣を、両腕で引き抜き、立ち上がる。


「だから、俺は……負けられねえ、負けるわけにはいかねえんだよ! 」


 そんな太陽を見て、女は興味深そうに目を細める。


「青年。君は何者だ? 」


 太陽は、背筋を伸ばし、胸を張り、声を張り上げ、叫ぶ。


「俺は……女神の守護者! 八剣太陽(やつるぎたいよう)!! 」


 両手で握った剣を暗黒の空に向けて、突き上げる。


 白銀の鎧から、閃光が走り、周囲の怪物共を畏怖させる。


 太陽の燃える瞳が、白銀の剣が、黄金の光を放ち始める。


「ならば見せてみよ、八剣太陽! 太母たるこの妾の前に、どこまで抗えるか! 」


 女の吼えるような叫びと同時に、世界が揺れる。


 天守閣の上空、とぐろを巻く邪神が動きはじめ、太陽を囲む怪物の群れが奇声を放ち、迫りくる。


「例えどんな相手だろうと! 俺たちの世界に、指一本触れさせやしねえ! 」


 世界を滅ぼさんとする邪神から、全てを護るため。


 たった一つの誓いを胸に。


 今再び、勇者は立ち上がる。 

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