第3話 2の世界のソーン
お待たせしました。
あれから30分が経過した。
未だ<シス>からの反応は無い。
〘……ジ。……イジ!〙
「ん?」
《共有》が反応し他の世界から声が届く。
「ビル!もしかして計算終わったの?!」
〘あぁ、終わった。ただ、なかなか時間はないぞ〙
緊張が走り、零士の喉がなる。
「じ、時間はどれくらい残ってるの?」
〘総質量から計算し、世界接触までの移動時間は残り6時間といったところだ〙
「あとそれしか時間は……」
〘あぁ、この計算に間違いはない。どうする、他世界の皆にも伝えるか?〙
「うん、みんなの所にも伝えないと。この時間でも出来ることはあるはずだし」
〘そのあとはどうする?〙
「僕は、シスに語りかける。共有が反応するんだ。シスに、シスの中この状況を変えることの出来る何かがあるって」
〘お前がそう感じるなら多分そうなんだろう。私も私の周りに少し知らせにまわる〙
「わかった。みんなに他に伝えることはある?」
〘大丈夫だ、特には無い。さぁ時間はあまり無いぞ。やれることをやろう〙
「うん!」
スキル《共有》が切れて、またこの空間はモニターに映るシスと零士だけになる。
「ここで呆けてても何も変わらないよな。他のみんなにも消滅までの時間を伝えないと」
ホロモニターをもう1面展開し、そこに”2の世界”を映し出す。
”2の世界”は魔法で世界の全てが循環する世界だ。
<魔法で再現できないことはない>
それがこの世界の零士の同一個体、<ソーン・エーリオ>が信条であり、これまで体現してきたことであった。
転移や瞬間移動の魔法の再現、ストレージ魔法、ステータスの数値化及び展開魔法、極大魔法の最小化等々。
彼の実績はこの世界の一助を買っていた。
そのソーンがいるであろう自宅の魔法研究所をモニターに映し出す。
「あれ?家にいないなんて珍しっ」
映してみると、ソーンは自宅にはいなかった。
こういう時はとりあえず《共有》を飛ばせばどうにかなる。
「《共有》!ソーン!どこにいるんだー?」
{……うぅ、どうした……レイジ?俺は…頭が痛い…}
「あ、また魔力枯渇かな。どこで倒れたのよ?」
{第二産業街の、白い鳥亭の、うっぷ……角だ……}
「ってことは飲み過ぎただけかよ!!あれほど深酒はするなって言ったじゃん!!まだ若いんだから!!」
{や、やめろぉレイジぃ……直接脳内に聞こえるから余計響いて……ウォろろろろろろっ……}
「あぁぁ……」
とりあえず存分に吐かせたあと、蒼白で気味が悪かった顔色が少しだけ良くなったソーンを自宅に向かわせる。これでも第一賢者と魔導王の称号は持ってるんだよなぁ、と独りごちる零士。
第一賢者とは、ソーンのいる国から派遣される世界各国の賢者からなる連合体”魔法連合”の第一代表としての称号である。
その次の魔導王とは、魔法と機械を組み合わせた機構<魔導具>を、世界で最初に作り上げたソーンに贈られた独自の称号だ。ちなみに最初に作ったのは冷蔵庫である。何故冷蔵庫かって?冷えたミルクとエールが毎日飲みたかったからだよ!
とまぁ、そんな事は置いといて、話を進めなくては。
「とりあえず落ち着いた?」
{うぅぅ、まだ頭は痛いが大丈夫だ}
少しフランクに答えたつもりだろうが、芳しくはないようだ。
「いや、大丈夫じゃないから。部位ヒーリングして二日酔い治しな?」
{わかった。うっぷ、えーっと確か左脇腹と後頭部だな}
「そうそう、だいたいその辺に」
{うむ、《ヒール》}
暖かな淡い薄水色の光がソーンが手を当てた後頭部と左脇腹から溢れ出す。
「やっぱ魔法は便利だよなぁ」
{レイジの世界にはきっちりとした医学と薬学があるじゃないか}
先程の血の気が失せ白かった顔色にやっと血色が戻った。
「確かにそうだけど、魔法みたいにその場で良くなることはないからさ」
{そこは確かに魔法の利点ではあるな。それでレイジ、俺に何か用があったんじゃないか?}
「そうなんだ、ソーンにも他の世界のみんなにも伝えないといけないことがあるんだ」
そう言ってレイジは今回の事のあらましを説明する。
{ん〜、つまりはむちゃくちゃやばいって事か??}
「とんでもなくやばい!!って感じかな」
{そして、もう時間は6時間を切っていると……}
「うん、だから少しでも早く伝えないとと思って」
{わかった、ありがとうレイジ。《ハイヒール》!!}
ソーンはいきなり自らにヒーリング系上級魔法をかけだした。
{よし、これで酔いは完全に抜けた。レイジ、俺は連合にこの事を伝えに行く。まぁ伝えるだけでその先どうしたらってのは思い浮かばないけどな}
「そこなんだよね笑。僕も伝えることしか出来ないし」
{その対消滅も、起こるって分かったのだって昨日の今日なんだろ?じゃあしょうがないわな}
「うん……」
{なぁレイジ、お前はまだまだやることあるんだろ?だったら今ここで気を落とさず、とりあえず動くことだけ考えろ。そうすりゃ何か思い浮かぶ・・・かも?}
「っふ笑。そうだね。何か動くかもしれないね」
{そーいうことだ!}
「じゃ、また別の所と《共有》してくるよ」
{あぁ、俺も速攻転移して色々やってくるわ!}
「じゃあまた!」
{おう!またな!}
こうして、次があるかも分からない”2の世界”と別れを告げ、共有を終える。
「そうだよね、”また”だよね。またを目指さないと」
零士はそうつぶやき、またホロタブをいじり次の世界をモニターに映し出す。
「さぁ次が一番厄介だぞー。頑張らないと!」
そして零士はモニターにもう一度視線を向ける。
世界対消滅まであと5時間弱……
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