やはりいつも通りのジジババ
「いい天気じゃのう婆さんや」
「そうですねえお爺さん」
「ひっく。あれ? 酒は?」
「飲んだらなくなるってことがまだ分からないらしいね」
「世界を支えた神の伝承があるということは、その体になるまで鍛えられる器具があるはずだ。まさかいきなり、何の準備もなしにそんなことはしないだろうからまず間違いない。私も使ってみたいものだ」
「なに言ってんだお前?」
王都へ向かう勇者パーティーはやはりいつも通りだが、王都への道のりは少々普段とは違った様相だった。
「なんか、武芸者が多くないか?」
ここ数日、徒歩で王都へ向かっている逞しい者達を追い越すことが多く、マックスは妙だなと首を傾げた。
「あれじゃねえか? 果たし合い殺し合い大会」
「そんな物騒な名前の大会がある訳ねえだろ……」
ただサザキはコニー達の会話から、王都で武芸者の大会が開催されていることを最近聞いていたので理由を思いついたが、マックスの呆れ通り決してそんな物騒な名称ではない。
「まあ俺の弟子は出ないだろうが、少し行ってみたい程度に興味はあるな」
(サザキ一門大会……怖いこと考えちまった! 王都が更地になる!)
多少興味を持っているらしいサザキを見たマックスは、とんでもないことを想像してしまった。
サザキとの関係もほぼ断っていたマックスは、彼の弟子を詳しく把握していないが、それでも王都のど真ん中でサザキ一門が勢揃いして戦えばどうなるかくらい分かる。
「あまり武芸者の世界は知らんのじゃが、他流試合は好まれんとか聞いた覚えがあるの」
「万が一負けたら自分の名前だけじゃなくて師と看板の名前が傷つくからな」
「ほほう。看板か」
「私が生まれる前の話だが、同じ理由で他宗派のモンクとの試合を好まない者達が煮え立つ山にもいた」
フェアドとサザキの会話にシュタインも混じった。
武に重きを置いた組織は大きくなればその名の意味が増すものであり、気軽に敗北などできなくなる。そのため他流試合に負けて名が傷つくことを恐れ避ける傾向があった。
「ま、大戦を経験してる奴が多い流派なら話は変わるだろ。なんせ負けってのは死ぬことなんだから、看板とか名前を気にしてる場合じゃなかった」
(本当に……)
サザキの言葉に、神々という途轍もなく大きな看板で右往左往していた宗教勢力出身のエルリカは、心の中で疲れたように同意した。
負けたら名誉もなにもなくただ滅びるしかなかったのに、例え死のうが神の教えを順守しようとしていた者達もいたのだから。
「思い出してきたな。確か爺さんが武芸者の大会が好きでよく開催してたらしい。親父も連れ出されて観戦してたとかなんとか言ってた気がする。その流れを汲んでるならかなり長くやってるな」
「まあ。それは随分と歴史がありますね」
「んだ。軽く百年前とかそんな話だ」
王都に近いせいかマックスは、かつて父が語っていたことと、武芸者の大会がかなり昔から開催されていたとを思い出す。するとエルリカは中々に伝統があるのだと驚いて目を見張った。
「出るか?」
「馬鹿言え。まるっきり最後の思い出に登録だけしにきた爺じゃねえか。受付に優しくされて終わりだ」
ニヤリと笑うサザキの言葉にマックスは肩を竦め、受付の担当者にお爺ちゃん昔はすごかったんですねえと言われている光景を想像してしまう。
「儂も優しくされて終わりじゃの。シュタインならギリギリ受け付けてくれるかもしれんが」
フェアドもまた自分が受付に向かった光景を想像したが、よちよち歩きで小柄な爺など、ご家族は来ていますかと言われて終わりだ。ただ、高密度な筋肉の体を惜しげもなく披露しているシュタインは、見る人が見れば侮れない達人の体と評するだろうから、ひょっとすると受け付けてもらえる可能性があった。
「おいおい。俺俺」
「断言するんじゃが、酔っ払いが来たと思われて追い返されるか、衛兵が詰め所に連れて行くぞ」
サザキは自分に指を向けて俺なら受付てもらえるとフェアドに主張したが、酒瓶を常に手放さず酒臭い老人など、下手をすれば浮浪者として扱われるだろう。
「地元じゃ、サザキの爺さんがまた酔っ払ってるで処理されるんだがな」
「ああそうだね」
肩を竦めるサザキに対し、地元の住人がその慣れとやらの境地に至るまで散々付き合わされたララは投げやりな言葉を発した。
「そうなると参加されるのは、名を上げたい若手の人達でしょうか?」
「まあその辺りだろうね。あとは冒険者とかも活躍すれば仕事が舞い込むから参加するだろうさ」
大魔神王の擬きとの戦いで動きを見せたように、そこらの達人顔負けの直接的な戦闘力を身に着けているエルリカが首を傾げると、ララは酒飲み亭主に視線を外して大会の参加者を考える。
(マックスの父親と祖父が観戦していたとなると、今の王も大会の会場に足を運ぶのではないか? ならばその首を見れば、王冠が首を鍛える器具という説を検証できそうだな。いや待てよ、王の服は豪奢なものに決まっているが、暗殺の危険性を考えると鎧のように重く硬いものだろう。それを常日頃から身に纏っているということは、日常的に凄まじい鍛錬をしている可能性がある。やはり王とは筋肉がなければ成立しないのだ!)
なお、会話にあまり参加していないシュタインは、マックスが聞けば白目をむきそうな自説を積み重ねていた。
「む? 見えてきたの」
そんないつも通りの一行が話している間にも馬車は進み、目的地が見え始めた。
小国の領土より大きいのではと冗談めかして語られることが多い巨大都市、リン王国王都。
「ふう……」
まだ城壁だけしか見えないが懐かしき故郷を前にマックスは、万感の思いが籠った溜息を漏らすのであった。




