第二次グリア学術都市の戦い
『キイイイイイイイイイイ!』
魔の尖兵が不快な金切り声を上げながら、グリア学術都市へ進軍する。
一匹一匹が象のような巨体なのに万を超える軍勢は、都市の周辺を揺らして城壁を打ち破ろうとした。
それをさせまいと、あらゆる魔法が城壁の上で行使される。
“焼却”のアルドリック。
それなりに早い時期にララへ弟子入りし、変わり者だらけの魔法使いの中では非常にまともな感性であるため、兄弟弟子達から頼りにされている男だ。
そして貧乏くじを引かされるのではなく、自分から態々引きに行く傑物であり、断じて勇者パーティーのファンをやっているだけではない。
名の通り焼却の力を宿す大魔法使いなのだ。
「炎よ!」
忌まわしき赤き空に負けぬほど。いや、更におどろおどろしい赤黒い炎の奔流が、アルドリックの光り輝く五指から放たれた。
偉大なる原初の力にして最終的には破壊に行きつく炎という概念は、城壁から一直線に魔の尖兵を目指す。
そして迷宮産のドラゴンの炎を押し戻し、魔法的防御の乏しいそこらの城壁なら容易く融解させる滅びの力は、魔の尖兵の強靭な外皮や装甲に僅かな抵抗も許さない。
『!?』
炎に飲み込まれた尖兵の群れは断末魔すらなく蒸発し、この世に存在した痕跡すら残さず焼却された。
「お見事」
兄弟弟子であるケイシーはそんなアルドリックを横目で見ながら、破壊に特化し過ぎて戦略級の怪物以外は問答無用で焼却する友人を称賛しつつも自らの魔法を完成させる。
「雷よ降れ!」
炎と並ぶ最も古き力の一つ。天から大気を揺るがしながら複数の神鳴りが魔の軍勢に着弾した。
当然ながら直撃した尖兵は即死し、その付近にいた者達も巻き込まれて生命活動を一瞬で停止する。
このように攻撃魔法はイメージしやすい自然現象に類似する場合が多い。その方がしっかりとどのようなことが起こるか想像しやすく威力も上がるのだ。
ならばこそ彼女は少し変わっていた。
「滅べ!」
アニエスの叫びと共に魔の尖兵の一部が塵になった。
彼女の穏やかな一面しか知らない若手の魔法使い達は、かつての二つ名も知らなかった。
それを知っている六十代から七十代以上の魔法使いが、絶対にアニエスに喧嘩を売らない理由も。
“滅び”のアニエス。
彼女は自然現象ではなく滅びという概念を敵に押し付けることができる変わり者なのだ。
魔法的、もしくは概念的な防御策を持たない存在は、アニエスに滅びを押し付けられると即死してしまい塵となる。
この概念への権能に片足を突っ込んでいる力は完全なものではなく、対抗する術もまた魔法でどうにかできるが、それでも好き好んでこんな力を持っている者に歯向かう者などいないだろう。
そんな弟子を育てた師は正統派だったが、絶大なる力を持っている。
「……」
表では威厳ある老魔法使い。裏ではおちゃらけた爺。戦場では冷徹なデリーが冷たい目で城壁から魔の軍勢を見下ろすと、ブジュリ。ブチリと水分のある物体が潰れる音が鳴り響く。
魔法や魔力を見れるものがいれば、デリーの輝く六本の指から行使される重力の渦を認識できただろう。
大戦後に“圧壊”の二つ名で知られるようになった偉大な老魔法使いは、世界を構成する大原則の重力を操れる。
これは超深層位の技量と合わさり、一部のドラゴンが持っていた完全魔法無効化の権能といった極僅かな例外を除き、様々な防御を無視して対象を圧し潰すことが可能だ。それ故に単なる尖兵程度が抗うことは不可能で、例外なく液体となるまで圧し潰されていた。
そんな魔法使い達が城壁で攻撃を続ける中、異彩を放っている者がいる。ただ一人城壁から降りて、魔の軍勢と相対しているファルケだ。
(今更親父と似たようなことをするとはな)
今頃は酒瓶を抱いて路地裏で寝っ転がっているだろうファルケの父サザキは大戦中に、俺の後ろに行けたらお前らの勝ち。通さなかったら俺の勝ち。そんなことをとある戦場で言ってのけ魔の軍勢を殲滅し、その戦いではついに一兵たりとも後ろに通さなかった伝説がある。
今現在ファルケの背後にある城壁はララを含めた伝説級の魔法使いが関わっているが、絶対というものはなくたどり着けないならそれに越したことはない。
だからこそファルケは、己の横から後ろに魔の軍勢を行かせないことにした。
呼気を漏らさないファルケの斬撃が飛翔する。
まるで伸びたような刃は尖兵の醜い体をするりと断つと、その後ろ、更に後ろ、もっと後ろにいた尖兵を両断した。
それに留まらない。
剣を握る彼の五指が光ると風が舞う。
ふわりとファルケの服が風で揺れるが、彼を知らない魔法使いが見れば絶句するだろう。
ファルケの体を中心にして円になるよう展開された風の剣。その数は百。しかも全てが独立したものだ。
単に魔法を発動するのではなく、異なる百の剣一つ一つを操作して展開するなど、はっきり言って人間の業ではない。
言ってしまえば百の脳がなければ成立しない筈なのに、ファルケはそれらを完璧に制御していた。
そしてファルケに操られている風の剣は、言葉のきっかけも必要とせずまさしく風のように飛翔し尖兵に襲い掛かる。
切断。両断。斬る。切る。
一切合切の抵抗を許さず全てを切り捨てる。
尽くを切り捨てる。
戦場を舞う剣の前には全ての抵抗が無意味。
風で編まれた剣の全てをファルケが操っているということは、サザキをして親の贔屓目なしに免許皆伝を与えた達人の中の達人が百人いると言ってもいい。
ただでさえ魔法使いの攻撃によって数を減らしている魔の尖兵がこれに抗えるはずもなく、ファルケの横を通り抜けるどころか彼が持っている剣が直接振るわれる間合いにすらたどり着けず、次々と息絶えていった。
一騎当千の剣が百本に加え、ファルケ本人の肉体があって成立する奥の手の剣術まであるのだ。両親とは系統が違いながらも、間違いなくファルケは頂の上に立つ者であった。
勿論活躍しているのは彼らだけではない。
大地を埋め尽くすような魔の尖兵は、城壁の上から行使される様々な破壊の力を受けてどんどんと数を減らしていく。
氷に閉じ込められ砕かれる。
大地の槍に貫かれる。
爆発で木っ端微塵になる。
奇妙な力場のせいで捻じ曲がる。
その他様々な破壊の力を受けて魔の尖兵は力尽きる。
それは戦後に再び命ある者達に危機があっても……自分達が死んでいたとしても戦えるようにと願い弟子を育て上げた者にとっての集大成だった。
「勝ったか」
誰かの呟き通り。
殲滅された魔の軍勢に対し命ある者達の死者はなし。
「おおおおおおおおおおおおおおお!」
若い魔法使い達の勝鬨の声。
第二次グリア学術都市の戦いは、命ある者達の完全勝利という形で終結した。
第いいいいいい次グリア学術都市の戦い
-単なる研究者の集まり。単なる学生の集まり。単なる学び舎。馬鹿め。その単なると思い込んだものに弾き返されたなら世話はない。だから農村の子倅に頭をカチ割られる羽目になったのだ。結局大魔神王は、最後の戦いの直前まで人という種を見くびっていたaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa-




