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【書籍化】ジジババ勇者パーティー最後の旅  作者: 福郎
第二章

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滅び日、再び来たれり

「買い物しようぜ買い物」


 夕暮れ前にアニエス邸を後にして寮へ帰る途中、フランツは商店が多くある地区へ友人達を誘って足を運んでいた。


「なにか買うのか?」


「伝説の剣」


「言ってろ」


 その目的を尋ねたハーゲンだが、フランツの冗談を鼻で笑いながらも付き合っているのだから、なんだかんだで仲がいいのだろう。


「私も新しい魔法理論の本が出てないか知りたいわ」


「この前も買ってたよね?」


「なに言ってるのコニー。それは貴方が言った通りこの前の技術。求めてるのは今日の技術よ」


「なるほどー」


 エメリーヌは専門的な本屋に用があり、首を少し傾げているコニーに力説して納得させていた。


「そういえば旅をしたいと言っていたな。ならゴーレム馬車も買うのか?」


「いやあ、一人旅にゴーレム馬車を買うのは過剰じゃね? 大抵は乗合馬車で解決すると思う」


「ちょっと持て余すかもね」


 ハーゲンはフランツが旅をしてみたいと言っていたことを思い出し、ゴーレム馬車の購入を検討しているか尋ねた。しかしフランツとコニーの言う通り、一人旅程度でそれなりに高価なゴーレム馬車は過剰だろう。


「買うなら私が改造してあげてもいいわよ」


「理論上は合ってるわよって改造しないなら考えてもいいぞ」


 なおエメリーヌだけは少々斜め上の意見を持っていたが、フランツの脳裏では鮮明に彼女が、理論上では完璧な改造よ。と言っている姿が映し出されていた。


「そういや最近この辺りにできた飯屋に誰か行ったか?」


「あ、行ったよ。美味しかった」


「へー。今度行ってみようかな」


「私も行こうかしら。いろんな美味しいものを食べてみたいのよ……太らない程度に」


「自分で言っている間は大丈夫だろう」


 他愛のない会話を続ける友人達。


 どこまでも続く青空のように、この関係もそうなのだろう。


 だが……四人ともぴたりと立ち止まった。


 いや、周りにいた人間全員が空を見上げた。


「ウードめどこへ行ったのか。まさかアルジナ王国とは言わんだろうのう」


「受け入れますかね?」


「ひょっとしたら偏屈同士気が合うかもしれん」


 その少し前、デリーは執務室で危険人物の行方についてアルドリックと話をしていた。


「アルジナのことを嫌っておりますなあ」


「大戦中に、どうせ滅ぶんだからなんもしないと本気で言ってのけた国に好感なんぞある訳もなし。儂らみたいな小僧も雑用係で色々やっとったのに、それ意味ないから。と国家が言うとは思わなんだ」


「どちらが正しかったかは証明されましたよ」


「まあの。尤もそのせいかただでさえ閉鎖的だったのに、余計閉じこもった国家になったが」


 接触しようとしても絶対に断ってくるアルジナ王国の対応を思い出して顔を顰めたデリーは、何気なく窓から青空を見上げる。


「引き続きウードの行方を追ってもらわんといかんな。何事もなければいいんじゃ……が……」


 デリーの呟きは窓の外の青空へ溶けていった。青空に溶けていった……はずだった。


 偶々空に視線を向けたデリーはちょうど変わるところを見てしまった。


「馬鹿な……」


 いったい誰の呟きだっただろうか。


 アルドリックだったかもしれない。あるいは……外に出ていたグリア学術都市の全ての人間の呟きだったかもしれない。


 だがその殆どは当事者ではなく、知識として知っているだけだ。


 一方のデリーは直接見ている。


 彼と同年代の者達は毎日毎日、朝起きるたびに祈って空を確認する。どうか青空でありますように、と。


 あの日が二度と訪れませんように、と。


 だがその祈りは打ち破られた。


 あの日が。


 滅びの日、再び来たれり。


 当事者の世代であるデリーの口内から全ての水分が失われ、皺だらけの顔こそが青かった。真っ青だった。


 代わりに……。


 色が変わる。空が変わる。世界が変わる。


 天が赤かった。真っ赤だった。青など一つもなかった。


 確か夕焼けの時間になりつつあるから、空が少々赤らんでいるのはそれほどおかしくないが、雲すらも血に濡れたような赤ならば話は全く変わる。


 生きとし生ける者にとってのトラウマ。超越者であるドラゴンですら二度と飛びたくない空。


 デリーの目はこれが自然現象ではなく魔法的な作用によるものだと見抜いていた。


 ならば原因は限られる。


「くそったれが!」


 デリーが一瞬で我に返ると若き日のような口調になり、評議会議長の執務室にある本棚を引き倒して、その裏に隠されていた魔法陣を起動する。


「魔法評議員議長デリーの名で赤一番を宣言! 全戦闘員は戦闘配置! 非戦闘員は学園へ避難せよ!」


 グリア学術都市だけではなく、リン王国など関係各所全てに声を届ける魔法陣を用いたデリーは、各国で共有されている最悪を想定した警報を宣言する。


 赤一番警報と呼ばれるこれが想定しているのは再び赤く染まった空。


 即ち意味するところは再びの大戦。そして……大魔神王の復活である。


「急げー!」


「早く避難しろ!」


 戦後七十年経っても未だに都市全体で大戦を想定した訓練を行っている関係者は、即座に訓練通り民間人の避難を行い始め、戦闘員として登録されている者は外に飛び出す。


 それはどんなに世代が変わろうとかつての大戦の恐怖が伝わり続けている証明だが、その恐怖があったからこそ全ての人間が迅速に行動していた。


 だが敵も迅速である。


 かつての大戦において大魔法使いが数多くいたのに、グリア学術都市が不意を打たれて後れを取った原因がある。


 空間が捻じ曲がる。一つの空間が捻じれる。十の空間が捻じれる。百、千、万の小さな空間がひび割れて捻じれる。


『ギギギイイイイイイイイイイイイイ!』


 パリンと割れて這い出た。


 昆虫と爬虫類を無理矢理捻じって合わせ、顔すらも様々な獣や昆虫を混ぜた醜い造形。鱗や毛皮が混在して斑模様となり、一匹一匹が象のように巨大な雑兵達が理性なき赤い瞳を光らせる。


『ギイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!』


 在りし日の暗黒の軍勢。万を優に超える尖兵が咆哮しながら、歪んだ角や爪、カマキリのような鎌を擦り合わせて不快な音も発する。


 かつてと同じだ。空間転移という禁術で送り込まれてグリア学術都市を奇襲したあの日と。


 大魔神王ですら一回だけしか行えなかった禁術だが、そもそも存在しないと思われていた空間転移魔法による奇襲は完全に成功してしまい、あと一歩でこの都市国家は陥落する寸前だった。


 その暗黒の尖兵を迎え撃つ大いなる魔法使い達は、金色に光り輝くグリア学術都市の城壁に集結してた。


 フードを被った魔法使い。幾何学的な紋様が描かれた仮面で顔を隠した魔女。こつりと杖を鳴らす老魔法使い。八十歳近いのに子供のように若い少女。興味深そうに魔軍を観察している眼鏡をかけた優男。


 その他様々な、ありとあらゆる偉大なる大魔法使いが二十人近く。


 いずれも全員が深層位という実質的な頂点であり一騎当千の強者。


「師匠が施した空間転移への防御策を無視してきたということは……本当に復活したか?」


 ぶっきらぼうな表情を消したケイシーも。


「さて、別の要因の可能性もある」


 焼却の名に相応しい炎を宿したアルドリックも。


「実戦はいつぶりだ」


 ギロリとした目のアニエスも。


「鈍ったつもりはない」


 剣を抜き放ったファルケも。


 多くがララの弟子かその一門、もしくは関係者の超精鋭。


「いつまでもガキと思うなよコラ」


 その他に千を容易く超える配置についた魔法使い達を率いるは、大戦において雑用係だった小僧。魔道の頂点と目される超深層位のデリー。


 全員の指が黄金の城壁にも負けないほど輝く。


「攻撃開始!」


「滅べ!」


「雷が降る!」


「静寂を今ここに!」


「尽く塵芥と成せ!」


「炎よ!」


 デリーの号令の下、魔法の真なる目的通り破壊が巻き起こり、ここに第二次グリア学術都市の戦いが勃発した。

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― 新着の感想 ―
[一言] 行きなり復活した魔王との大決戦!! はたして勇者PTは来るのか? 次回!!人類、勇者PT大勝利!!希望の明日へ向かってレディーゴー
[一言] 大切に守られてきた平和よりも自分たちの見栄の方が大事とか流石にクソ過ぎる……
[良い点] 衰えを感じるどころか研ぎ澄まされてる老兵いいよね
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