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いつもどおりのにちじょう

「勇者パーティーで最強なのはやっぱり勇者様だよな」


「なんだ急に? と言いたいことだがいつものことか。ふむ……そうだな。勇者様でいいと思う」


 暇で特に話題もなかったせいか、休み時間に唐突に話題を思いついたフランツが勇者パーティーの最強議論を持ち出したが、彼の突飛な言動に慣れているハーゲンは淡々と勇者が最強だろうと肯定した。


「僕もそう思う」

(ひいひいお爺ちゃんも、あいつは多分斬れねえんだよなあ。とか言ってたし)


「貴方達ね……ここ一応ララ様が関わってる場所なんだけど……」


 コニーも高祖父の言葉を参考にして二人の意見を肯定したが、エメリーヌはララが関わっている魔法学園に通っている身で、しかも火力において比肩する者がいない偉大なる魔女を候補に挙げないのはどうなのかと苦言を呈する。


「ふ。最強議論は客観的じゃないといけないのさ」


「はあ……男の子って本当にこの手の話題が好きよね」


 そんなエメリーヌの意見に対して、フランツは妙に男らしい笑みを浮かべて持論を展開したが呆れられた。


「単純な戦果でいえば竜滅騎士様も凄まじいものだがな」


「そうだよね。討伐した魔龍の一覧を見たけど凄かった」


 ハーゲンは次に華々しい戦果を挙げた竜滅騎士の名を挙げ、コニーも同意した。


「勇者パーティーには身分を隠した王族とかが参加してたと見た」


「そんな訳があるか。宣伝すればいいのだから隠す必要がない」


 フランツは真実を言い当てたが、常識的に考えてあり得るはずがないだろうとハーゲンが食い気味に否定した。


 世界を救った勇者パーティーに王族が参加していたとなれば、戦後に王族の祖国の発言力は途轍もなく高まるだろう。だが大々的な宣伝がされていない以上、常識的に考えれば王族が参加していたとは思えない。


 だが真実はあってはならない王族の双子の弟が参加していたというもので、フランツの予想は正解していた。


(実際にはあり得るのではと思わすのがフランツの凄まじいところだ)


 そんなフランツの鋭さを知っているハーゲンは、内心でだけ勇者パーティーに王族が参加していたのではと思ってしまう。


(本人は単なる冗談だとしか思っていないみたいだが、どこまで鋭いんだ?)


 人付き合いが苦手だと自覚しているハーゲンだが、入学初日から声を掛けてきたフランツとの付き合いはそれなりにある。しかしその限度までは把握し切れていなかった。


「あーあー。勇者パーティーが学園を見学したりしないかなあ。いんや、来たとしてもお忍びかな?」


「うん。そうじゃないと歩けないと思う」


 フランツは両手を後頭部に回しながら特大の非日常を希望したが、冷静に勇者パーティーが名乗ることはないだろうと予測した。


 それもその筈でコニーの言う通り、もし勇者パーティーが名乗って学園を訪れようものなら学園がひっくり返ったような騒ぎとなる。下手をすれば全授業を中止して、出迎えの準備に関係者全員が駆り出されることになるだろう。


「サイン頼んでも誰も書いてくれないだろうなあ」


「そんな恐れ多いことを頼むな」


「分かんねえぞ。俺らよりずっと偉い人も欲しい筈だ」


 ありもしないことの延長を想像するフランツにハーゲンが突っ込む。


 アルドリックがくしゃみをしたかは誰も分からない。


「そういやエメリーヌの師匠は勇者パーティーについてなんか言ってないのか?」


「話題もなかったから会ったことがないんじゃないかしら」


「へー」


(あるいは口に出したくない程嫌っているか。だがいくら偏屈とはいえ、勇者パーティーに対しそんな人間が……あるかもしれんな)


 フランツの問いかけに対するエメリーヌの答えに、ハーゲンは少し聞いただけでも分かる彼女の師の偏屈さから、勇者パーティーを嫌っているのではと推測する。


(閉じた世界で煮詰まったら碌なことにならないんだ)


 ハーゲンもまた閉じた世界で感性が煮詰まると、人間の常識から外れた行動や考えに至ることを知っている。


 それを危惧している魔法学園は、校舎という閉鎖的な空間で全てを完結させないため、外部との交流にも積極的だ。


 そんな校風があるからこそ、剣と魔法を使えるファルケという例外を受け入れ、魔法だけではなく剣も武器であり技であると教えているのだろう。


 学び舎とは机の上の勉強だけではなく、世界の基本とも言える人との交流を学ぶ場でもあるのだから。


「おいハーゲン。なんかさっきからずっと考え込んでないか?」


「気にするな。そういう年頃なんだ」


「なんだそりゃ」


「男の子特有の時期ってやつなのかしら?」


 フランツに話を振られたハーゲンは実際に考え込んでいたが、態々言う必要はないことであるため、何でもないと首を横に振って考えを打ち切ったが、エメリーヌからは首を傾げられた。


「あ、そうだコニー。予定通りでいいんだよな?」


「うん大丈夫」


「よし、それじゃあ予定通りコニーの家に行こうぜ」


 ふとフランツは思い出したようにコニーに予定の確認をした。


 複雑な話ではなく単に連休を利用してフランツ、ハーゲン、エメリーヌがコニーの家に遊びに行くだけの話だ。


 そう。複雑な話ではない、いつもどおりのにちじょうだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 一番やべえ奴らの描写がないんだよなぁ…… なんかふと気づいたら「なぜか」アルジナ王国が次元のはざまに取り込まれてたとかありそうで怖い
[一言] そんな勇者様PTが来るなんてあるわけ無いじゃないですか!!
[一言] 高い可能性の直近の過去を現実で繰り返してる状態かなぁ? こう、レジストできるか範囲外でもないかぎり、可能性網羅するまで閉じた世界でループ的な?
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