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【書籍化】ジジババ勇者パーティー最後の旅  作者: 福郎
第二章

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いつもどおりのにち常

 コニー、フランツ、エメリーヌ、ハーゲンは学生である以上、その本分は学びでありそれがいつも通りの日常だ。


「俺この授業を楽しみにしてたんだよな」


「そう? コニーには悪いのだけど、魔法を使える私達に意味があるのかしら?」


 満面の笑みを浮かべて授業を楽しみにしているフランツに比べ、エメリーヌは懐疑的なようで首を捻っている。


 どうやら二人の授業に対する関心は大きく違うようだ。


「例え魔法使いだとしても剣のことについてはきちんと理解しておく必要があるぞ。礼儀作法にも剣は関わっているしな」


「そういうもの?」


「ああ」


「そうなのね」


 だが懐疑的だったエメリーヌも冷静な表情のハーゲンに諭されると、一応納得したのか僅かに頷いた。


「そういやコニーはどのくらい剣が使えるんだ?」


「うーん。それなりにできる方だと思う。結構しごかれてるから」


「へー」


 フランツはそんなエメリーヌとハーゲンを気にせず、コニーの剣の腕前について尋ねたが、魔法使いなのに剣のことに興味がある。もしくは剣を扱えるのはかなり少数派だろう。


 魔法剣士というものは物語に出てくるものであり、実際に極めようと思ったら片方だけでも人の一生が費やされるのだから、二つ両方を高度に取得している人間など考えにくいのが実情だ。


「よーし。じゃあ行こうぜ」


 フランツを先頭にした一団は学園の外にある運動場へ向かう。


「時間だな。さて、授業を始めよう」


 運動場に集った生徒を確認したファルケは授業の開始を宣言する。


「私の名はファルケ。役割は魔法使いと剣の関わりを君達に伝えることだ」


 ファルケは新学期が始まったばかりで、次の段階にステップアップしようとしている年若い生徒達に自分の役割を伝える。


「最初に君達へ伝えるのは、剣は魔法使いを殺すのに十分な凶器であるということだ。もし師や誰かに、魔法さえあれば剣士など恐れるに値しないと教えられていたなら忘れなさい。それは君達が深層位の魔法使いになっても変わらない」


 そのファルケの教えはあまり響かなかった。魔法使いは明らかに破壊力という点で剣士より優れている上に、物理的な攻撃を遮断する魔法障壁が存在している以上、多くの点で魔法使いは優位なのだ。


「質問があります」


「どうぞ」


「先生の位階を知りたいです」


「深層位になる」


「え……?」


 どうせ大した魔法の腕がないから剣が恐ろしい凶器だと言っていると思った男子生徒が、ファルケの魔法の階層について尋ねた。しかしその返答は伝説一歩手前。現実的に考えられている最上位のものだった。


「剣も魔法も極論すれば何かを殺すために発展してきた手段だ。その手段に対して優劣を定めて思い込むのは非常に危険だ」


「意見があります」


「どうぞ」


 ファルケの言葉に納得がいかないのか、エメリーヌが少々顔を顰めて挙手した。


「私の師は魔法障壁を破れない剣士が魔法使いに勝つことは不可能だと言っていました」


 エメリーヌの脳裏に溢れるかつての光景。


 幾つもの大きなガラス。水槽。液体。本。魔法陣。


 暗い部屋の中なのにギラギラとした目で、いかに魔法使いが素晴らしいかを力説……いや、独り言を呟くウード。


 入学試験の件で自分の常識が世間の非常識だと思い知っているエメリーヌだが、剣と魔法の関係についてはウードが正しいと思っていた。


「それは排泄、食事、睡眠など生理現象や本能のことを忘れている。人はなにかを取り込む、または外に出す必要がある以上、常に魔法障壁を張ることができない。敵は常に機を窺っているものだ。開けた場所で名乗りながら真っ正面からやってくる奴は物語の騎士だけだ」


 ファルケの言葉にエメリーヌは詰まる。


 狭い世界で生まれ育った彼女は、実体験で多くのことを知らない。


 そのため自分ならどうするかという発想に少々乏しく、実体験として色々と足りないという認識もなかった。


 それは耄碌の末に実体験など必要ないと判断して、エメリーヌを放り出したウードに責任がある。


 そして行き場をなくして色々と欠如した実体験のまま、魔法こそが素晴らしいという発想に従って魔法学院の門を叩き、野放しは危険だと言う意味も含めての特待生として扱われ、学費も免除されて今に至る。


 だがこれでもマシになったのだ。


 明らかに浮いていた彼女に対してフランツが話しかけ、そこからコニーとハーゲンという友達の輪に加わったことで、欠如していた実体験は急速に社会を学びエメリーヌという個を確立した。


 彼女が魔法学院で学んでいたのは人、社会、社交性という根本にして基本的なものであり、その点ではコニーと同じであった。


「クローヴィス流派を筆頭に高位の剣士は魔法障壁を切り裂ける。絶対のものではないのだ」


「実際に見ないとなんとも言えません」


「では実演しよう。魔法障壁は張れるか」


「は、はい」


 見る。聞く。感じる。学ぶ。交流する。遊ぶ。


 それらを積み重ね既に漸進層という一流の位置にいながら、深層位すらも視界に入っている同年代において稀代の天才エメリーヌは、自身の魔法障壁をファルケに破られまた一つ学びを積み重ねていくのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 前見たような? 届くなら剣のが速いキリッ
[一言] ? もしかして、もうウードの術式の中?
[一言] おや、何やら各話のタイトルがだんだん……?
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