竜騎士とモンクから見た仲間達
「あの二人、やっぱり面倒見がいいよな」
「ああ」
若人と話している戦友のサザキとララを、屋敷の中から眺めていたマックスがまたも面倒見がいいと評してシュタインも頷く。
「これは、廊下でどうされました?」
「お帰り。いや、ご両親の面倒見がいいなと思って眺めてた」
そこに休日だったが簡単な仕事があったファルケが帰宅して二人に遭遇し、マックスは特に用事らしい用事はないと手を振る。
「全員と関わりを断ってたからあんまり詳しく知らねえけど、かなり弟子も育ててたんだってな」
「ええ。いつも賑やかでしたよ」
マックスの問いにファルケは昔を思い出す。
基本的にサザキとララの弟子は内弟子だったため、ファルケはその多くと共に生活してきた。そのためララの弟子であるアルドリックや、サザキの弟子であるクローヴィスも含め大勢と兄弟姉妹のような関係で、よく家で騒いでいたものだ。
「我々の中で戦後の貢献を比べるならあの二人が頂点だろう」
「そう……なるんですかね」
大戦後はサザキ達ともある程度は交流を保っていたシュタインが評すると、ファルケはなんとも言えない顔になるが事実である。
大戦もほぼ過去のものになりつつある現代において、人という種が一定の強さを保っているのはサザキとララの弟子達が成長し、更にその弟子達が教えを広めていることが大きく関わっている。
大成した弟子達はかつての大戦に参加しても十分活躍できる腕前で、現代では勇者パーティーを除けば最強の戦闘集団なのだ。
「お前さんも貢献してる一人だけどな」
「勘弁してください」
ニヤリと笑ったマックスにファルケは慌てて手を振るが、教職として戦いの心構えや戦闘訓練を担当しているのだから間違いではないだろう。
(俺は表に出ちゃいけねえしな)
マックスは恥ずかしがっているファルケを見ながら、自分ではできない貢献だと思う。
王族の隠された弟など表に出てはいけないし、ドラゴンの力はリン王族直系に伝わる力であるため余人に教えることができないからだ。
尤も死ぬ前に世話になった人に挨拶しよう。父の墓参りくらいはするかと思っている程度には、世捨て人という訳ではない。
「単純に教えが上手いって視点ならララかね?」
「そうだろう。十指なんていう誰も理解できない位相にいながら、感覚ではなく理論で人に教えられるのは偉業だ」
マックスは恥ずかしがっているファルケに構わず、次にララの貢献について口にすると、シュタインも大きく頷いて肯定した。
自然と合一したシュタインをしてララのいる魔法の位相は説明できず、異常な世界にいる彼女はまともな意思疎通ができるはずがない。
それなのに多くの深層位階の魔法使いを育て上げたララの功績は偉業として称えられるべきだろう。
「フェアドの方は力の再現性がない以前に、教えるのが絶望的に下手なんだよな」
「確かに」
「いや、筋肉と対話しろって言うお前だけには言われたくないと思うぞ」
「私はきちんと理論があってのことだ」
「ララレベルの理論があってから言え」
ふと仲間の中心人物であるフェアドのことを思い出したマックスがしみじみと呟くと、人のことを言えないシュタインが同意して突っ込まれた。
「父も似たようなことを言ってました。自分から見てもフェアドさんはぶっ飛んだ感覚派だから、やろうとしてることを考えても意味がない。と」
「そうなんだよ。理屈じゃなくてなんとなくでごり押しするから、学者とか歴史家の天敵だと思うぞ。あれじゃあフェアド流剣術とかも成立する訳がない」
「やはりないのですか?」
「ないない。純粋な剣術ならお前さんの親父の方がよっぽど上っつうか頂点。構えてる時のあいつの前とか絶対立ちたくねえ。俺程度なら普通に首を落とされて死ぬ。シュタインなら相打ちに持ち込めるか?」
「さてな。そうならないことを筋肉に願っておこう」
ファルケが父の言葉を思いだすと、マックスは肯定しながらサザキの剣の腕前を例にしてわざとらしく震え、シュタインに同意を求めた。
実際、振り切った神速の刃は勇者パーティーの面々ですら対処困難で、殺し合いの場でサザキの前に立つことを望む者など誰一人としていないだろう。一方でフェアドの剣は体系的な物ではなく単に振り下ろしているだけだ。
「ぶっちゃけフェアドは肉体的にはあんまり才能がある方じゃないと見てる」
「同意する。才能という点だけで見れば煮え立つ山にいた若者達の方が上だろう」
「だよな。まあ、それでも俺が一番勝てねえって思うのはフェアドだけど」
「ああ。未だに見たことがない精神的筋肉だ。いや、エアハードも似てはいるが、あちらは少々殺意が強すぎる」
「俺は結構利己的な理由。シュタインも煮え立つ山の存続が目的。エルリカはなんとも言えねえな。エアハードは人間の世のために大魔神王は絶対、ぜーったいにぶっ殺すって考え。そんでララはまあやるだけやってみるかって感じ。サザキに至ってはダチが行くからって理由だけ。おい、こいつら大丈夫か?」
「本当にな」
仲間が戦っていた理由を思い返したマックスは、自分も祖国を第一に考えていたくせに思わず冗談抜きになんだこの集団だと疑問を口にしてしまい、シュタインも重々しく頷いた。
つまり勇者パーティーの中ですら、自分の意思で国や種族という単位ではなく、命という大きな括りを次に繋げ青空を取り戻そうと戦っていたフェアドは少数派なのである。
だからこそ絶望の世にあって、神すらも超えてしまった光を輝かせたのだろう。
「目的。特に命と青空のために突っ走っているフェアドより凄まじい存在を私は知らない」
「だな」
瞼を閉じるシュタインに同意するマックスの脳裏には今でも焼き付いている。
技術もなく技もなく、暗く昏い赤き曇天を己の精神から発せられる光りだけで突き進み、ついには人々の光りの総体となって大魔神王を打ち倒した男の背を。
「それにしても中々個性的な生徒達だな」
ふと話題を変えたシュタインの視線の先には、次代を担う若者達の姿があった。