表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/158

旅の雑談2

「この宿屋街も賑わっていますねえお爺さん」


「そうだのう婆さんや」


 相変わらずよちよち歩きをしながら宿屋街を見渡すエルリカとフェアドは、賑やかな周囲の光景に目を細める。


 旅する人間に商品を売り込もうと意気込んでいる商人や、旅の途中で獲った獲物を売ろうとしている猟師。宿泊客がわんさかとやってくる時間のため忙しそうに店を出入りしている宿屋の従業員。旅で疲れて文句を言っている若者。見回る衛兵など様々な人間が宿屋街で騒いでいる


 ただ、フェアド達の目的地であるグリア学術都市への道中なためか、他所の宿屋街ではあまり見かけない一行もいた。


「あれは……学生さんかの?」


「そうみたいですねえ」


 フェアドとエルリカの視線の先にいる一団は年若い青少年達で、眼鏡や本、魔力を宿しているアクセサリーを身に着けている。


 それに加え理知的な雰囲気を醸し出しており、いかにも学び舎に所属しているといった様相だった。


「里帰りでもしてたんだろうさ」


「なるほどのう」

(ララについてどう学んでいるか聞いてみたいところだが、後頭部に魔法が飛んでくるから無理だの)


 ちらりと一団を見たララがそう言うと、フェアドは頷いたが内心では彼女から破壊光線が飛んでくるであろうことを考えていた。


 大魔神王を討伐したのみならず多数の高位魔法使いを弟子として育て上げ、自身は前人未到の領域に到達している消却の魔女ララは、間違いなく人の世が続く限り名が伝えられる偉人中の偉人である。


 しかも彼女は学生達が所属しているであろう魔法学院の再建にも手を貸しており、名誉学園長のような立場であるときたものだ。


 学生達がどう教わっているかなど、態々聞く必要はないだろう。


「教鞭をとったことはないのか?」


「ないね。精々学園が持て余してたのを弟子にしたくらいだ」


「ああ、そういう関わりね」


 マックスは単なる興味でララと学術都市の関わりを尋ねたが、答えは再建を手伝ったのと何人かの弟子を引き取った程度だ。


「魔法に関してだけは私と世間の常識はちょっと違うから、私が教えたら寧ろ妨げになるのさ。実際弟子は変わり者ばっかりだしね」


「ふむ」


 シュタインは魔法に関して“だけ”世間と常識が違うというララの言葉に異を唱えたかったが、賢明にも息を漏らしただけで我慢した。


 確かに勇者パーティーで比較すると常識人だが、あくまでトンデモ集団の中の話であり、所々その常識とやらが怪しいことをシュタインは知っている。


 それはともかく、実際ララの魔法は常人では理解ができないため単なる学生は付いていけず、奇跡的にまともなアルドリックを除いて彼女の弟子は変わり者が多かった。同時にララに全く頭が上がらない集団であるが。


 余談だが基本的に勇者パーティーは独自の道を歩み過ぎて再現性がない。


 サザキは子供のような馬鹿げた理論を実現。


 ララは足を踏み入れただけで精神が崩壊するような深淵の位階。


 シュタインは生と死ではない常人には歩めぬ道なき道。


 マックスは特殊な血統の覚醒と才能。


 エルリカは神殿勢力が総力を挙げて生み出した殺しの芸術作品。


 そしてフェアドは天然にして異常な光。


 このような面子なため、類似の存在を育て上げることが難しいのだ。


「入学試験はあるのか?」


「あるにはある。危険な奴を隔離するためにね」


 これまた興味本位でシュタインが魔法学園などに入学試験はあるのかとララに問うと、妙な答えが返ってきた。


「と言うと?」


「魔法使いは偏屈が多いけれど、その偏屈が極まってる奴が教えた才能ある子供は色々と危ない。早い話が場所と技量を考えずにデカい魔法をぶっ放したり、師匠はこれが普通の魔法だって言ってたから、魔法障壁を貫通して校舎に飛び込むようなのを使ったり。だから人死にが出る前に一人一人試験して確かめる」


「そういった子供はどうなる?」


「魔法を使わさないで徹底的に常識を教え込む。それでも改善しなけりゃ強制的に魔法を封じるかもね。それと危険な子供にした原因の師匠も捕らえられるかもしれない」


「妙に実感があるな」


「実際私らのかなり上の世代が別の国でやったのさ。今より偏屈魔法使いがよっぽど多かった時代だから、魔法だけ教え込んで後は知らんをやったのがね。出来上がったのは殲滅魔法を基本魔法と思い込んだ天才だ」


「それで……?」


「基本魔法を見せてくれと言われたから、基本だと思い込んでいた殲滅魔法をぶっ放して三十は死んだとか。術者は周りに人間がいたのは基本の魔法程度は簡単に防げるからだと思ったらしい。記録によるとそいつは打ち首。師匠は投獄さ」


「なるほど」


 単に試験の話しを聞いただけなのに、思わぬ裏話を聞かされたシュタインは顎を擦った。


「そいつ本当に打ち首か?」


「まあ怪しいね」


 別のことに興味を持ったサザキの問いにララは肩を竦めた。


 大魔神王が腰を上げる前の時代において、世界は戦乱で満ちていた。そんな中で殲滅魔法を使える魔法使いともなれば国が放っておくはずがない。ましてや犯罪者ならば、恩赦という餌をぶら下げて都合よく使おうとするのは十分考えられることだ。


「色々あった時代らしいからのう」


 フェアドは大馬鹿と呼ぶ存在が()()()原因を思い返しながら、自分達よりもずっと前の世代と時代を見るように目を細めて空を見上げた。


 全ての悪の原因が魔なる存在という訳ではない。寧ろ生きとし生ける者が原因の方が多いだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] まあね、馬鹿やったの人間だけじゃないもんね…… (キレた大馬鹿の同位体とその仲間を見つつ)
[一言] いったい殲滅魔法を使う魔法使いの名前は何ララなんだろう
[一言] キレた原因って、誰が何をやらかしたんだろう・・・。 まあ、確実に碌でもない事なんだろうなぁ。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ