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【書籍化】ジジババ勇者パーティー最後の旅  作者: 福郎
第三章

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剣士の事情

二話連続投稿の二話目になります。

 東方諸国からやって来たダイガとカリンの兄妹は、重要な使命を帯びていたが、この地ならそれを果たせると思っていた。


「あの刀しか頭にない男が、勇者の剣を見過ごすのはあり得ん……」

「はい兄上。奴は間違いなくここにいます」


 険しい顔でダイガが呟くと、妹であるカリンが頷いて同意する。

 どうやら彼らが追っている相手は勇者の剣に強い興味を持っているらしく、必ずここにいると確信している程だ。


「それにいいことを聞けた」

「はい。キーランという男がオークション会場の纏め役とか」


 再び兄の言葉に妹が頷いた。

 二人は聞き込みを続けた結果、オークションの纏め役を突き止め、どうにか接触できないかと考えたようだ。


「問題は取り次いでもらえるかだ……」


 ダイガに懸念があるとすれば、絶対に今現在忙しいオークションの纏め役が、自分達に会ってくれるかという点だ。

 それに二人が追っている者を抜きにしても、勇者の剣が狙われているのは十分にあり得ることで、寧ろ変に接触しようとするダイガとカリンが怪しく思われる可能性もあった。


 それから少し。

 オークションの纏め役にして、付近一帯の顔役でもあるキーランの屋敷は非常に大きく、どう考えても直ぐに会えるような立場の人間でないことが分かる。


「失礼。東方諸国の生まれ、ダイガと申します。館の主、キーラン殿にお取次ぎを願いたい。それと、勇者の剣を狙っている者がいるとお伝えいただきたい」

「……キーラン様は不在ですがお伝えしておきます」

「いつ頃、お戻りになられますか?」

「さて、お忙しい方ですので分かりませんが、今日という話にはならないでしょう。宿を教えていただければ、こちらから連絡します」

「分かりました」


 ダイガが入り口に詰めていた者に要件を話すと、ごく普通のやり取りで終わった。

 確かにダイガとカリンは急いでいるがいないものは仕方ないし、なんの紹介もない彼らがキーランが戻ってくるまで待たせてもらうと言っても揉めるだけだ。

 それに彼らは、人だけではなく物も探しているため、素直に宿泊している宿を告げて立ち去った。


 事態が急に動いたのは、その日の夜だった。


「今からですか?」

「はい。キーラン様が緊急の要件だと判断され、お話を伺いたいと言うことでした。よろしいでしょうか?」

「願ってもない事です」


 宿に戻ったダイガとカリンは、日も暮れて呼ばれるとは思っていなかったため、キーランからの使いが来ると酷く驚いた。

 しかしそれだけ事態を重く受け止め、話を聞いてくれるのなら不都合はない。二人の兄妹は急いでキーランの屋敷に向かい面会することにした。


「キーラン様。お客様をお連れ致しました」

「おう」


 家宰に案内されたダイガとカリンは、扉を通して野太い声を聞いた。

 その声から生まれたイメージにがっちり当て嵌まる男、キーランはとにかく厳つかった。

 七十歳ほどの高齢ながら、毛髪が無いせため岩で作ったような角張った顔。鷹のような鋭い灰色の瞳は強い意志を感じさせ、脂肪ではなく筋肉で膨れ上がった体は、これでもかと強者の雰囲気を醸し出している。


(強い……!)


 ダイガとカリンの二人が慄いた。

 キーランが身に宿した闘気と覇気は、まさに周囲一帯の顔役に相応しく、腕が立つ剣士の兄妹をして、打ち込んでも即座に反撃されるイメージしか湧かなかった、


「勇者の剣が狙われてるって?」


 そんなキーランが、名も聞かず単刀直入に用件を尋ねた。

 声音は随分と平静で急な客人への侮りはなく、また過度な緊張もない。まさに大物と表現するのがぴったりで、ダイガとカリンは地元でもあまり見ない水準の男に気圧されそうになる。


「はい。狙っている者の名はゴーノ。恐れ知らずにも虹色七刀の模造品を作った上で妖刀に改悪し、複数名を惨殺しています。刀、剣に対する執着が尋常ではなく、勇者の剣を狙っているのは間違いありません」

「ふむ、俺の闘気と比べてどの程度の腕だ? 一応、俺は煮え立つ山の真ん中くらいにいるモンクなら倒せるが……例えが分かり難かったか」


 腹に力を入れたダイガが用件を詳しく説明すると、あまり外の国と交流が活発ではない東方諸国出身の兄妹には分かり難い話が返ってきたが、キーランの言葉は別種の驚きを兄妹に齎す。


「煮え立つ山……少しだけ聞いたことがあります。しかし真ん中にいるのは並程度のモンクだったような……高僧ではなく?」

「馬鹿言え。上にいる高僧は五十年は鍛えた連中が至る最高到達点だぞ。俺が挑んでもボコボコにされて、その日はふて寝だ」


 思わずカリンが僅かに知っていることを口にすれば、キーランは呆れたように肩を竦めた。

 これには兄妹共に酷く驚いたが、キーランは自分の力の限界をよく分かっている。

 練り上げ、練り上げ続け、ただひたすらに鍛えたモンクの高僧は、控えめに表現しても人外の領域に両足を突っ込んでいるのだ。

 モンクの高僧を相手に、絶対勝てると断言すれば馬鹿と阿呆の代名詞として語られるのは間違いなく、兄妹が圧倒されているキーランでも、十秒持てば上出来だろう。


 故にこそ、高僧すらも歯が立たなくなった最後期のモンク殺しは、未だに一部の人間にとって恐怖と絶望の代名詞だった。


「……ゴーノは刀鍛冶のためそれほど大した腕は無い筈です。しかし幾つもの妖刀を所持していて、刀身を見たら意識が無かったと言い残して果てた者がいます」

「見たら駄目ってことか? 面倒な……」


 ダイガが少ないながらも得ている情報を開示すると、キーランは顔をしかめた。

 命のやり取りをしている最中に、相手の得物から目を離すのは自殺行為に他ならず、その点だけでも十分な脅威だろう。


「まあ最悪、そいつが勇者の剣を手に入れても、本物だった場合かつ、悪党なら剣が消し炭にしてくれるとは思う」

「勇者とはそれほどまでに?」

「俺ぁ直接は知らない世代だが、大戦に参加してた連中が言ってた話を信じるなら、きっとそうなるだろうさ。ただ、盗まれた日には俺らの面子がそれこそ消し炭になるから、最悪も最悪の場合だ」


 顎を擦ったキーランにカリンが尋ねた。

 東方諸国は長命な種がほぼいない国のため、大戦は資料で確認する出来事と化している。

 そして七十歳ほどのキーランも実際には体験していないが、まだまだ大戦の名残が濃い時代に生まれているため、勇者のハチャメチャな武勇伝はよく聞いたものだ。

 それ故に、剣が本物ならば悪党を勝手に消してくれるだろうとは思っていたが、キーランにも立場と面子があった。


「よし、お前達の運用で面倒が無いように雇って立場を作る。そいつを殺したいのか捕まえたいのかは知らねえが上手くやれ。そしたら俺の方も顔を潰されずに済む」

「ありがとうございます」


 事態を重く見ているのか、キーランは兄妹が思っていたよりもずっと話を受け入れてくれて、この日の会談は終わった。

 ダイガとカリンは……だ。


「ということらしいっすわおやっさん」

「お前も忙しいだろうに悪いな」


 二人の客人が帰ると部屋の隅にいた老人。サザキが影から出てくるように現れた。

 実はこの街の顔役は、サザキとララの息子であるファルケや弟子達と同世代で、街中を彼らと走り回っていたこともある。

 そして裏町でゴロツキをやらせるには惜しいと思ったサザキが、多少ながらキーランの面倒を見ていた時期もあった。


(俺程度にビビってた奴らに、なんでおやっさんが興味を持ってるんだ?)


 キーランが内心で首を傾げる。

 久しぶりに会ったサザキに、とある兄妹の話を聞いてほしいと頼まれたキーランは、小遣い付きのお使いを頼まれた昔を思い出して承諾した。

 しかしファルケを筆頭としたサザキ一門の化け物ぶりを知っているキーランは、幾つもの修羅場を潜り抜けているとはいえ、自分程度に気圧されていた二人に、サザキが興味を持っている理由が分からなかった。


 ただ、これは比較対象が悪い。

 サザキ一門は勇者パーティーという例外を除けば人類最高到達点の集団であり、全員が歴史に名を残す傑物だ。

 会えたら周囲に自慢できるし、武芸の腕を褒められたらその道での栄達は約束されている。それにどこかの国を訪れたら王宮からの使者が来て、賓客として招かれるだろう。

 それほどに、サザキ一門の実績は重いのだ。


「長く生きてるとな……妙な繋がりに肩を叩かれるもんなんだよ」


 サザキの呟きは窓から見える月のように儚いものだった。

デフレ。もしくは通常環境のお話。今まで全部、インフレしてるジジババのせいで話がおかしかった(*'ω'*)

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※ 神と殴り合ってる外れ値と人類の範囲で戦っている人を比べてはいけません
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