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【書籍化】ジジババ勇者パーティー最後の旅  作者: 福郎
第三章

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巻き込まれない筈がない者達

「どうだい安いよー!」

「買っていってくれ!」


 賑やかな市場をうろうろする勇者一行。特に山での生活が長かったフェアドとエルリカ。大迷宮にいたエアハードはその活気を全身で感じながら歩く。


「こうも大規模な市場は新鮮だ」

「うむうむ」

「そうですねえ」


 エアハードの呟きにフェアドとエルリカが同意した。

 大戦において物資とはすなわち前線に送る物と同義で、街で大規模な市場を開く余力は誰にもなかった。それを思えば戦後七十年でよくぞ復興したものである。


「ふうむ……」


 フェアドのひ孫への武器を諦めたエアハードだったが、軽い土産は必要だと思い続けている割と常識人でもあるため、つい足を止めて市場を眺めたのが悪かったと言えばいいのか。

 大鎧と他の面々の距離が若干空いたことで、一見すると年寄り集団のカモが出来上がった。


「お爺さんお爺さん。これはどうだい?」

「ふむ?」


 物珍しそうにあちこちをきょろきょろしているフェアドをターゲットにした行商が売り込みをかけた。


「錬金術師と魔法使いが生み出した見えない杯だよ!」


 よりにもよってフェアドの鉄板ネタで。


「……」

「わははははは!」


 かつて見えない剣を掴まされそうになった勇者が口を尖らせ、それを寸前で食い止めた剣聖が爆笑する。

 だが今回は少し話が変わった。


「話を聞く価値はあるようだぞ」

「ほ?」


 興味深そうに商品を眺めているのはシュタインだ。

 細められた彼の眼は一見するとなにもないところを注視していて、フェアドもつられて目を凝らす。


「ほうほう!」

「まあ」


 フェアドとエルリカもはっきりそれを認識した。

 単なるガラスではない、非常に透明度が高く集中しなければ分からない程の杯が商品として並べられていて、確かに嘘偽りなく見えない杯だった。


「これに酒なんかを入れて、浮かんでるような酒を見て楽しむってものさ」

「なるほど……これは中々凄いもんじゃ」


 店主の説明に、透明という単語に拒否感があるフェアドでも、その楽しみ方に納得した。

 確かに杯の中にある酒が浮かんでいるような光景を想像すると神秘的で物珍しく、シュタインも牛乳を入れてみたらどうなるだろうかと考えた。

 が、である。


「これ、壊れやすいじゃろ」

「これに酒なんかを入れて、浮かんでるような酒を見て楽しむってものさ」

「困ったの。時間が巻き戻ってるかもしれんぞ婆さん」

「なんということでしょう……」


 明らかに薄く脆そうな外見から正解を導き出したフェアドが尋ねると、店主は先程と全く同じ説明をして誤魔化した。


「降参だよ爺さん。でも発想は面白い商品だろ?」

「うむうむ。こんなものがあるんじゃのう。昔、透明な剣を掴まされそうになったから偏見を持っておったわい」

「ははあ。確かにこの材質が生まれた当初は、透明な武器を作ったらどうなるんだ? みたいな意見があったけど、悪党の手に渡ったらどうすんだって冷静になってたな。それに言う通り脆いから人より先に砕け散るよ」

「なるほどのう」


 店主は不必要に話を伸ばさずお手上げだと言わんばかりに手を上げ、フェアドと少々の雑談を交わす。

 一方、様々な事業に何でもかんでも手を出すようなマックスが強く興味を持ち、どうしたもんかと顎を擦っていた。


「マックス、結構そういうのが好きだろ」

「ちょっと興味がある……土産に買おうかな。ララさんどう思われますかね?」

「うちの馬車なら大丈夫だろうさ」

「なら買うわ」

「ありがとうございます!」

「俺、兄貴、おばはん……そんなところか。三つ頼む。しかし本当に活気があるな。なにかあるのか?」


 それに気が付いたサザキが話を振ると、マックスはララに尋ねた後に購入を決心した。

 どうやら国元にいる兄と青きドラゴンへの土産にするようだ。


「なんだお客さん、知らないのかい? 勇者様が空にいる敵へぶん投げた剣が競りに出されるから、いろんな連中が来てるのさ」

「ぶっ⁉」

(学術都市の道中に小耳に挟んだやつかー!)


 商売になったお陰で口が更に軽くなった商人が、人の多い理由を説明すると、噴き出したマックスとフェアドの心の声が一致する。

 サザキとララの息子、ファルケに会いに行く途中、勇者パーティーは確かにそのうわさを聞いていたが、この交易国家の話とは思っていなかった。

 しかしこの交易国家や煮え立つ山周辺は、まだ駆け出したばかりのフェアドが大暴れした土地であり、探せば勇者に所縁がある物品は幾つか出てくるだろう。


「ま、七十年も前の話なんだ。鑑定だってしようがないから、暇人がちょっと来てるだけの話で、ここはいつも賑わってるよ」

「な、なるほどね」


 騒ぎの原因となっている勇者がいるとは思わない商人は、商品を梱包してマックスに手渡すだけだ。

 そしてフェアドもどれだけの剣をぶん投げたか全く覚えていない以上、それは偽物だと言うことも出来ず、天を見上げるしかなかった。


(こりゃ絶対、騒動に巻き込まれるわ……)


 なおマックスは、これで自分たちが巻き込まれない訳がないと達観していた。

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― 新着の感想 ―
マジで一瞬見落とすレベルの透明度なら割ととんでもないなその器……
なんならこの透明の器もモノホンの『勇者御用達』かつ『リン王国御用達』の品として値段何十倍にでもして売ることもできるわけよ、ほんとなら。後々にでもこの商人が運良く気付ければだけど。
言ってしまえば「勇者が飲んでたお茶のペットボトル」くらいのものだからねぇ そりゃ使ってはいたけども、という……
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