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【書籍化】ジジババ勇者パーティー最後の旅  作者: 福郎
第三章

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歩み

「人生は何が起こるか分からないものだ」

「はい」


 夜の煮え立つ山で、アルベールが星空を見上げていたシュタインに声をかける。


「若い頃の自分に、お前は煮え立つ山を飛び出して戻らないと告げても理解されないでしょう。戦後の自分に、お前は煮え立つ山に戻ると言っても肩を竦められると思います」

「私も同じだ」


 シュタインの呟きにアルベールが頷いた。

 大戦前の子弟にシュタイン出奔という未来の知識を教えても理解されず、そして大戦後にシュタインが戻ると言われても納得されないだろう。

 それに加えシュタインはかつての宿敵と再び出会い、更に想像すらしていなかった隣の大陸への移動もある。

 だが人生は不思議なもので、勇者パーティーの全員が数奇な人生を送っていた。


「隣の大陸にいるモンクへの紹介状のような物を渡しておく。必要はないだろうが、まあ一応だ」

「ありがとうございます」

「向こうについてどこまで知っている?」

「基本的にはこちらと同じですが、大戦に費やしたリソースがない分だけ発達している。程度です」


 今更しんみりした空気を必要としていないアルベールが、雰囲気を変えるように本題に入ると、自分の名を認めた書状を弟子に渡す。

 そして問われたシュタインは、乏しい知識で隣の大陸を表現するが、かなり大事な部分は苦笑が伴う。


「大きな争いで滅びかけた野蛮で未開の大陸。そうこちらが評されていると知った時は、なんとも形容しがたい気持ちにさせられた。まあ、勇者の息子があれこれして、多少はマシになったと言いたいところだが……」


 アルベールの苦笑が深まり、シュタインは思わず顎を擦ってしまう。

 フェアドとエルリカの前ではやんわりとしたニュアンスしか話さなかったアルベールだが、勇者と聖女の息子は別大陸でかなりやらかしており、やはり別大陸は野蛮人の集まりなのだというレッテル貼りに一役買ってしまっていた。


「という訳で文化的に行くのだな」

「はい。できる限り騒がないよう心がけましょう」

「はははは。はははははははは」


 冗談めかした助言を行ったアルベールは、どう考えても不可能な弟子の目標が余程面白かったのか、久方ぶりに大口を開けて嗤う。

 存在しているだけでなにかしらの騒動に巻き込まれ、それを解決するのが確定している様な勇者パーティーが騒がないなど、物理的にあり得ないと言い換えられるだろう。


「まあ、誰もお前達を知らないというのも、面白い経験だろう」


 アルベールは愉快な気分を残しつつ付け足した。

 勇者パーティーのシュタイン。そう名乗ればあらゆる者がぎょっとして、忽ち群衆に取り囲まれるだろう。

 しかし殆ど全員がその名を聞いても、誰でなにをした奴なんだと問うような環境もまた、得難い経験になるだろう。


「それでだが……」


 話が一息ついたアルベールが笑みから真剣な表情に変わる。

 七十年前に本来なら伝えた筈だった。

 長い、長い、長すぎる間があった。


「皆伝を言い渡す」


 大戦前に全てを教え、後は吉日を選んで伝える筈だった言葉を、大戦後七十年経ってようやく直接口に出せた。

 シュタインの所属を残していた。名も残していた。

 しかし皆伝だけは直接伝える必要があったのだ。


「……ありがとうございます」


 シュタインも妙な謙遜をせず、素直に頭を下げる。


 今更皆伝とは言うなかれ。

 今、ようやく全てを伝えられた(皆伝)のだから。


 ◆


 次の日の朝。


 モンクの高弟たちが居並ぶ中、勇者パーティーは出発の準備を整えていた。

 ここ数日の彼ら高弟はシュタインとサザキの、そこそこ本気を出したやり取りや、シュタインとアルベールの比武など、まさに得難いものを目撃しているのだから、誰も彼もが背筋を伸ばし切っている。


 なおサザキは、こっそり観察していたシュタインと黒煙の演武に感化されたのか、ここ数日は美味そうに酒を飲んでいたものの、やはり動きに乱れはない。

 マックスがコッソリ思っている、あいつは絶対死後、酒の神になるという推測は間違ってないのかもしれない。


「ありがとうございました! 」


 その中には頭を下げるサイラス少年もいたが、勿論のことながら黒煙はいない。語ることを語り終えた宿敵同士なのだから、態々見送る必要など何処にもなかった。

 そしてこの少年がどこまで行けるかは、今は誰にも分らないことだ。


「海が穏やかなことを願う」

「アルベール殿、お世話になりました」


 アルベールは勇者パーティーが渡る海の天候が良くなるように願い、フェアドが代表として頭を下げる。

 尤もこんなことを言っている両者だったが、多分駄目だろうなあ。荒れる海になる筈……と色々察していた。


「では行ってまいります」


 最後にシュタインが口を開く。

 別れではない。旅立ちとも少々違う。


「ああ行ってこい」


 アルベールも同じ気持ちだったのだろう。


 かつてはもう帰ってくることはないだろうと背を向けた故郷。

 今は帰ってくるために、シュタインは歩み始めた。

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