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【書籍化】ジジババ勇者パーティー最後の旅  作者: 福郎
第三章

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語らい

「あまり驚いていないようだな」

「少々変則的だが似たような例を知っている」

「ふむ。なるほど」


 かつてのモンク殺し黒煙が話しかけると、シュタインは魚を焼いている火の前に座り口を開いた。


「奴が最も精力的に動いていた案件は信徒の願いの実現と、場所を間違えた彼らの魂をどうするかの二つ。そしてあの性格を考えるに、お前たちが含まれていても不思議ではない」

「そうか……そうだな」


 腕を組んだシュタインの言葉に、黒煙が躊躇いながらも頷いた。

 ほぼ正気を喪失しかけていた大魔神王は、自身を確立するためではなく、捨てられてどうしようもなくなった怨念や魂たちの救済を必死に考えた。

 ただ、神々の姦計で一度自身の体に取り込んでしまっていた魂を放出するのは非常に難しく、怨念の灰汁抜きをしつつ保管するのが精一杯だった。


 ここで予想外の事態が起こる。その灰汁抜きの過程で生まれた魂無き尖兵は別として、黒煙を筆頭とした明らかに自由意思がある魂たちが生まれたのだ。

 妙なところで几帳面な大魔神王は、新たに自分が生み出した魂も保護の対象とみなし、黒煙たちが役目を終えた際はなんとか浄化を行なう必要が生じた。


「殴って解決するのを好む割には多才だった」

「ああ。そういう方だった」


 続けられたシュタインの言葉には、黒煙は躊躇いなく頷く。

 幸か不幸か、魔軍を作り上げ、死者の怨念を何とか宥めていた大魔神王は、原初混沌の切れ端としてやたらと魂の扱いが上手く、どうやったのか無や消却の力で吹き飛ばされた眷属の魂すらも回収できていた。

 しかし当然傷ついていたし、完全に使い潰すという発想を抱かなかったため、黒煙たちの魂は保存されたまま、問題を先送りされていた。


 あの日。勇者パーティーと大魔神王が対決するまでは。


「あの日ほど驚いたことはない。あらゆる現象が想定外の極みだった」

「だろうな」


 未だにその時の夢を見るシュタインが過去を振り返る。

 ただでさえ数千年の怨念で正気を無くしているのに、その原因の魂から不純物を取り除いて吸収したことで、もうまともな思考も出来なくなっていた大魔神王が全く意図していなかった奇跡。

 尤も理性があった時でさえ、己の体を定命の存在がカチ割れるなど予想できなかっただろう。


 勇者パーティーの一撃は、浄化を果たした魂にとって檻だった大魔神王の体を裂き、神々の愚計によって囚われていた者たちと黒煙たちの魂は、本来あるべき自然の中へ還っていった。


「第三と四は大変だったが……」


 思わずシュタインが天を見上げる。

 そこで終わらないからこそ、大魔神王だった。

 不純物が取り除かれたことで完全な制御を取り戻し、自身の中で眠っていた魂たちを考慮しなくていい大魔神王は、一瞬で不純物の怨念を吸収。混じりけのない本来の黒点と化してもなお、嘆き、訴え、縋りついた者達が遺した望みを果たすため、言葉通り死ぬまで戦い抜いた。


「ただイレギュラーが起こったらしいな」

「ああ。終戦直後から意志と肉を持っていた」


 シュタインが魚を食べる黒煙を観察した。

 通常、自然に還った魂が意志を持ち、しかも精霊と化しているのに老いる肉体を持っているのは、焼却なんていう権能を持っていたモンク殺し時代と同じく異常も異常だ。


「しかし俺は、厳密に解釈すると黒煙の要素がある別個体だろう」

「確かに」


 黒煙の意見をシュタインも肯定する。

 魂から主要な成分だった怨念が取り除かれ、その上で一度世界に還っているのだ。黒煙の言う通り、正確に述べるとモンク殺し黒煙と、精霊黒煙は別個体であり、思考も若干ながら差異がある。


「どうしていた?」

「修行だ。楽しくて仕方なかったが……弟子に俺の技術を伝える機会も恵まれた」


 シュタインが単なる世間話を振ると、会話についていけてなかったサイラス少年に意識が向けられる。


「どうやら似ていたらしいな」

「ああ。それこそ七十年前を思い出した」


 黒煙のぽつりとした呟きが答えだ。

 サイラスと組手をしたシュタインが、どうにも七十年前の記憶と、つい最近の演算世界の記憶が刺激され、確認をしに来てみれば案の定だ。


 ついでに述べると、修練を重ねた黒煙の技術を継げるほどにサイラスの才能が飛び抜けていることを意味しており、モンクの新たな未来にモンク殺しの技術が関わっている、少々奇妙な事態が発生していた。


「それでどうする?」

「同名の精霊と話しただけだ」

「そうか」


 黒煙が最後に尋ねると、シュタインは端的に答えた。

 大戦時の使命を宿したままのモンク殺しなら、確実に息の根を止める必要があった。しかしここにいるのは魂から違う、似て非なる精霊なのだから、世間話以上の必要性を感じなかった。


「ただし」

「む?」

「弟子に見せられていないものがあるなら、喜んで比武に応じる」

「ふむ……」


 付け加えられたシュタインの言葉に、黒煙は少し考え込む。

 確かにサイラスには、教えられることを全て教えた。しかしそれは、あくまで教えられる範囲のことだ。


「わわっ⁉」


 慌てたサイラスが距離を取ると、爆発的な闘気が黒煙から発せられる。

 ゆっくり。まるで揺らめく煙のように武が立ち上がった。


「……」

「……」


 名実共にモンク最強の男の闘気と同等の圧。


 モンク殺し黒煙。


 否。


 モンク黒煙が現れた。

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― 新着の感想 ―
向かい合って天帰掌してそう⁽小並感)
強敵と書いて友と呼ぶ。 そんな者と、お互いの人生の最期に拳で語り合う。 それはとても素晴らしいことなのでしょうなぁ。
これ以上の見取り稽古は無い
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