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狂拳

皆様評価していただき、日間ハイファン3位ありがとうございまあああす!

「破ッ!」


 百人を超える戦闘修道士、モンクが一斉に拳を突き出す。


「破ッ!」


 足を天に伸ばす。


 誰も彼もが鍛え抜かれた肉体を持ち、太陽光を反射して鋼のようだ。


「破ッ!」


 いや、実際にモンクの体が光り輝いている。


 モンクは“生波(せいは)”と呼称される、自然や生きとし生ける全ての者が持つ命の輝きを体内で凝縮して力に変える際、副産物として体が光るのだ。


 それにしてもモンクとは中々不可思議、もしくは矛盾を持つ存在である。


 宗派によって考えは異なるが、神に仕える者達は刃物を扱って命を奪うことを禁じられている場合がある。だが混沌とした時代において、自らの身は自らで守らなければならない。


 そこで誕生したのが、刃物を扱うことなく徒手空拳で戦うことができるモンクという存在だ。


 ここに少々の矛盾がある。鍛え抜かれた鋼の体に、神への信仰心と生波による強化術が合わさったモンクは、刃物を扱う賊より圧倒的な殺傷力を秘めており、岩や人の頭蓋程度は簡単に粉砕することができるのだ。


 一方、特にそういった教義がない者達は剣を持った。当たり前である。


 話が若干逸れた。


 ここ、“煮え立つ山”と呼ばれる大きな山は、戦神や闘神を祀る祠や神殿が存在しており、様々な宗派のモンク達が切磋琢磨している。そして伝説では、モンク達の体から発せられる蒸気や湯気が山全体を覆っているようだから、煮え立つ山と命名されたとか。


 そんな煮え立つ山の頂上に建設された神殿では、時折だが各宗派の代表者的なモンクが集結して会議が行われるが、今日は少々雰囲気が違う。


「……告白しよう。未練がある」


 五十代から六十代、更には八十代の達人モンク達を前に、青年のように見えて御年三百歳を超えた異常なる者がぽつりと溢した。


 人間でありエルフのような長い命を持つ訳でもないのに、三百歳ながら豊かな金の髪と全く濁っていない青い瞳、張りのある白い肌は、生命エネルギーである生波の行使を極め切ったが故に老化が止まったことを意味している。その領域まで到達したのはまさに、最初のモンクの一人と呼ばれる“轟く大地教”大司祭、アルベールだからこそだろう。


 アルベールを含めた数人は最初にモンクの道を切り開いたことで、宗派を超えて全てのモンクから尊敬を集めており、今も彼の呼びかけで達人達が集まったのだ。


 そんなアルベールだが流石に精神的疲労は蓄積し続けていたため、そろそろ人生に幕を引こうと考えていた。


 しかし、その前に唯一の心残りを弟子達に告白した。


「神への信仰心がない。故に拳を封じなければと思った。だができなかった。尤も単純に奴の拳を封じられるのかという疑問はあったが」


 アルベールの心残りは袂を分かった狂気の弟子のことだ。


 そう、狂気としか言いようがない。


 神に仕える戦闘修道士がモンクであるなら、神への信仰心がないなど論外も論外であり、それは最早モンクではないのだ。


 だからこそアルベールは、狂気の拳を封じなければならなかったが、問題だったのはその弟子がモンクとして論外なくせに、間違いなく一つの完成形に至っていたことだ。


 そしてその弟子はアルベールが事を起こす前に山を下り、あっという間に手出しができない存在と化してしまった。


「未練だ」


 アルベールは再び未練があると呟く。


 それもその筈。論外であるはずの狂拳は山を下りて以降も、破門や除籍をされておらず、未だ轟く大地教に所属している。煮え立つ山にも席がある。


 改めて述べるが神を敬わない論外が、いつでも戻ってこれるようにしておくなど、これをアルベールと轟く大地教の未練と言わずなんと言う。


 しかし……やはり、道を無理矢理でも正した方がよかった。


 可能かどうかはさておき。


 ◆


 煮え立つ山から遥か遠方に、神地と呼ばれる土地が存在する。煮え立つ山と同じように戦神や闘神を祀る神殿や祠が複数存在しており、霊験あらたかな地で修行するため各地から武芸者が訪れて修練を行っている。


 そして神地は煮え立つ山と同じように、アルベールとは違う人間を開祖とするモンクの修練場が存在しており……。


 地獄と化していた。


「破ッ!」


 生波によって輝くモンクの突き。


 無意味。


 蹴り。


 無意味。


 手刀。


 無意味。


 足刀。


 無意味。


 全てが無意味。


 漆黒の輝きは全てを食い尽くす。


死波(しは)に手を出すなど! 愚か者め!」


 モンクが神に仕えていながら悪態を吐く。


 しかし、吐かずにはいられない。


 生命エネルギーである生波と対をなす死波は、そのまま死と破壊のエネルギーを意味しており、モンクにとって禁忌の力だ。


 それを宿して黒く輝く魔のモンクが、生波こそが正道などと嘯く軟弱者の頭蓋を砕く。神への敬いを持てと言う愚か者の胸をぶち抜く。


「ぎゃっ!?」


 悲鳴と断末魔は常に正しきモンクであり、全く勝負になっていない。


 狂拳を防ごうとしても腕ごと砕かれ、仕留めるために拳を突き出そうとしてもその前に命を奪われる。


 一撃で光のモンクは亡骸と化す。


 対になる存在なのに、必ずしも生波と死波は均衡ではない。寧ろ死と破壊のエネルギーである死波は、こと戦いに限定すれば明確に生波を上回っている。


 つまり正しき生波のモンクは、弱肉強食という自然の摂理を無視する、正しいと言っているだけの愚か者なのだ。


 それをついにただ一人となった狂拳が証明した。

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― 新着の感想 ―
[一言] 闇落ちモンクは間違いなく閻魔様に裁かれる
[一言] そういえば、昔やっていたゲームの僧侶も、刃物はダメ、という事で、メイスやモーニングスターで敵をぶん殴っていたなぁ。
[気になる点] メイス愛好家「刃物が駄目ならメイスを振ればいいのでは?」 [一言] 突き詰めるところまで突き詰めれば生と死、善や悪などといった不純物のない純粋な力に昇華するんかな?(阿修羅の先例を見な…
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