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普段通りでも世間とはスケールが違う

前回、間違えて無能王子を投稿しちゃってすいませんでした!

「高僧の方々が慌ててないか?」

「僕もそう思いました」

「“頭”に向かわれてましたよ」

「頭に?」


 煮え立つ山で修行している若いモンク達が、雲の上の立場である高僧たちの慌ただしさに気が付き、ひそひそと話し合っていた。

 彼らの言う“頭”とは、煮え立つ山の大雑把な区分で、足、腹、胸、首、頭に分けられている。そして勿論、頭が山頂付近、最も位が高いモンクの修行場で、アルベールもここに住んでいる。

 そんな頭に各区分の責任者をしている高僧たちが集まるとなれば……。


「比武の日程がズレたかな?」

「そうかもしれませんね。一団の道が途中で悪くなった可能性もあります」


 行事の打ち合わせや、話し合いの延長だと思うのが現代の若者だ。


 大戦真っただ中や、終結直後の時代に高僧たちが慌ただしく集まれば、即座に煮え立つ山全体が緊張したことだろう。

 だが顔つきに精悍さはなく、まだまだ発展途上の若者達は大戦の恐ろしさを聞いてはいるものの実体験がない。かつて煮え立つ山が陥落寸前に陥ったことも知ってはいるが、その痕跡もまたどこにもない。

 そのため高僧たちが慌てたような雰囲気を纏っていても他人事なのだが、これから修練を重ねて一人前のモンクになるので、何事も長い目が必要だった。


 いくら大戦に巻き込まれた世代とは言え、若者の時からどんな戦場にも動揺せず、とりあえず当たって相手をぶった斬る。怪物達の手によって概念が乱れようと、世の理がぐちゃぐちゃになろうと、ただひたすら一直線に駆け抜けた寒村の子倅と、その仲間達が異常なだけである。


「……」


 一方、二十人程の高僧たちは無言で山頂付近に集まり、その時を待っていた。

 平均して百歳前後だが、生波の達人故に六十歳ほどで外見年齢が止まっている者が多く、動物の皮や布などを雑に纏っている。

 そしてこの年齢になって今を生きているということは、大戦の経験者を意味しており、勇者パーティーだって直に見ている。


 そんな世代は当然ながら、仮想敵が大戦に現れた怪物達であるため尋常ではなく、それぞれがサザキの弟子達と渡り合うことが出来るだろう。

 つまりは、ジジババ達が旅に出てから初めて出会う、接近戦に長けた達人たちの集団だった。


 つまりつまりは……気が付けた。

 モンク達の首が、胴が、斬られた。


「っ⁉」


 血の気が引いたモンク達だったが、斬られていたことが錯覚だと認識して、山頂にやって来ている者の間合いに驚愕する。


「剣聖……か?」

「お、恐らく……」


 剣聖の癖は殆ど知られていないが、勇者パーティーで斬ることに特化している者を挙げるなら真っ先にサザキの名が思い浮かぶ。

 そのため彼らは、自分達を間合いに収めて斬ったのがサザキだと気が付けたが、その理由が癖だと知れば苦笑いするだろう。

 単なる癖で、自分達はなにも出来ずに敗れ去ったのか。流石は勇者パーティー。と。


「来られた……ぞ?」

「七? アルベール師を合わせて八人の筈だが……」


 階段から足音が響き、アルベールが勇者パーティーを連れてやって来たと判断したモンク達は、超人的な感覚で足音の数が合わないことに気が付いた。


 エルフのモンク、ラオウルの報告で勇者パーティーが勢揃いしたことを知っている彼らは、当然七人全員がここに来ると思っていた。しかし、どんなに感覚を研ぎ澄ませても聞こえてくる足音は一つ足りなかった。


 ちなみにサイラス少年だが、流石に山頂にまで連れて行かれることはなく、ずっと下で入門の手続きを行っていた。


 話を戻すが、足音の答えは直ぐ分かった。


(まさか常時浮いていたのか⁉)

(魔法は詳しくないが、それでもあり得ないことは知っているぞ!)

(天に近いここで出来るものなのか⁉)


 集団の中に階段を歩かず、浮いて移動している魔女が混ざっていたのだ。

 多少魔法に詳しい者なら、空に近い煮え立つ山の山頂付近で、浮いている者がいると聞けば、単なる冗談だと判断するに違いない。

 空は定命の者の領域ではなく、かつて神が敷いたルールが色濃く反映されるため、飛行魔法の類は尋常ではない技量を要求されてしまう。

 そのため煮え立つ山の山頂で、僅かでも浮いて移動している消却の魔女ララは、モンク達には理解できない存在だった。


 なお理由は、単に長すぎる山の階段にうんざりして、神を超える技量を発揮する方が精神的に楽だったからだ。


 癖で人を間合いに入れる旦那と、面倒だから最高到達点の技量を発揮する妻。実にお似合いである。


 もう一つ余談だが、足音のみならず気配も完全に消せるエルリカは、わざわざ普段の生活でそんなことをすると、逆に怪しまれることを自覚している。結果、普段は正真正銘のよぼよぼお婆さんと化しており、達人級のモンク達すら隠された技量を見抜くことが出来ない。

 彼女はまさに、人々が思い浮かべる勇者達を後方で癒し続けた聖女なのだ。

 表向きは。


 そして勇者、龍騎士、暗黒騎士もまた続き……。


「ただいま戻りました」


 “無波”のシュタイン。いや、この場合は……。


 “煮え立つ山”のシュタインが同胞達にも帰還を報告した。

7月18日よりDREコミックにてジジババ勇者の配信が決定!あと三日っす!よろしくおねがいしまああす!

挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
サザキの癖、久々に見た気がする へへ、この婆さんならおれでもかtr……ジュ
さすサザキ。 しかし癖で放たれた錯覚による斬とはいえ、ちゃんと知覚できたのは、それなりに腕の証左なんでしょうね。ありがたくない実力認定(笑
殆どの神が大魔神王に滅ぼされてもルールは生きてるんだなあ…
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