談笑2
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ララとエルリカが夕食を作るため、台所で作業しながら談笑している。
「ゴーレム馬車に乗ってきたのかい。徒歩じゃいつ終わるか分からないからそれが正解だね」
「お弟子さん達の作品ですか?」
「いや、あちこち動き回ってるから、流通や製造なんかで間接的には関わってたみたいだけど、設計はしてないみたいだね。若いうちから苦労を買ってるなら、もう言うことはないさ」
話題はこの魔道都市で作成されたゴーレム馬車のことだ。エルリカはゴーレム馬車が、ララの弟子の作品ではないかと考えた。しかしララの弟子達は独り立ちした途端、世界中を飛び回って様々な案件に関わっているため、腰を落ち着けて何かを設計するという時間がなかった。
「それにしても、魔法で調理するのは止めたんですね」
「若い時のように効率だけじゃ味気ないのさ」
エルリカにとってララが包丁を使って料理している姿は新鮮だった。七十年前ほどのララは料理器具を魔法で浮かせ、それらを駆使して料理の時間を短縮していたのだ。しかし、人間の感性が年齢を重ねるに従い変わるのは、狂気の深淵位階にいるララとて例外ではない。
ララは態々説明しなかったが、直接料理するようになったのは、サザキと子供への食事を作ったのが単に浮いた調理器具では素っ気なさ過ぎると考えたからである。
「それに、そっちこそ食事は単なる栄養補給でしかないと言ってた割には、きちんと作ってるじゃないか」
「まあちょっと、世間知らずでしたので」
尤も変化があったのは言い出したエルリカも同じのようだ。
戦士であり超人でもある女達だが、子供ができたことで感性が変わったのだろう。
◆
食事の準備も終わり食卓を囲むフェアド、エルリカ、サザキ、ララ。もしこの場にアルドリックがいれば感動のあまり卒倒して、ララに放り出されるのは間違いない。
だが世界を救った者達の食卓なのに珍しいものはなく、精々が魔法によって鮮度が保たれた川魚程度で、あとは単なるパンや野菜、スープだ。王侯貴族が食するような肉やワインなどはどこにもなかった。
「四人で食事はいつぶりかのう」
「お前んとこに子供が生まれて、全員が久しぶりに集合して以来じゃないか?」
フェアドはパンをスープに浸してちびりちびりと食べ、サザキは魚を綺麗に平らげる。
「あのやんちゃ坊主が隣の大陸に飛び出したのもついこの前みたいに思えるけど、今じゃ子供どころか孫までいるのか。つまりエルリカひいお婆ちゃんとフェアドひいお爺ちゃんという訳だ」
「ほほほほほほほ。いつの間にかひいお婆ちゃんになっていました」
サラダを食べながらニヤリと笑うララに、水の入ったグラスを置いたエルリカが上品に笑う。
ララの言う通りフェアドとエルリカの子供は中々のやんちゃと言うべきか、青年時代に冒険だと宣言してあまり交流のない隣の大陸に乗り込み、そこで一旗上げた人物だ。
「子は親に似るってやつだ」
ニヤニヤ笑うサザキの在りし日の記憶、暗黒の時代をどうにかしてやると宣言した馬鹿な若造と、その後に生まれ冒険だと突き進んだ若造はそっくりだった。
「人の子供のことは言えんだろうが」
「だっはっはっはっ!」
「ふん。青二才さ」
フェアドが似ているのはうちの子供だけではないとする、大笑いしているサザキと鼻で笑うララの子供は、両親の遺伝か剣術と魔法を高度に兼ね揃えた最高位の戦士だ。
通常は剣術も魔法も、どちらか片方だけでも極めるのに人生を費やす必要があり、その両方を高度に習得しているのは尋常なことではない。
そしてこのように、ジジババの話題が子供のことになるのはある意味世界の定めなのだろう。滅びの運命を切り裂いた勇者パーティーもその定めからは逃れられないらしい。巻き込まれた子供達はたまったものではないが。
「ああそうだ。弟子が送ってきたゴーレム馬車を弄っててね。それを使った方が色々と融通が利くよ」
「おお。それならお言葉に甘えさせてもらおう」
「弄ったって……まさか隣の大陸まですっ飛んでいくような奴じゃないよな?」
「暇つぶしに足回りと細かいところを弄っただけさ」
ララは自分の私物に改良したゴーレム馬車があることを思い出し、それを使って旅をしようと提案した。これに感謝したフェアドだが、サザキは妻と私的な時間を多く過ごしているからこそ心配になる。
実際ララもその心配を受ける理由の自覚はあるようで、サザキをあしらわず事実を説明した。
余談であるがそのゴーレム馬を預かっているアルドリックも、師匠の弄ったゴーレムかあ。と不安に思っているし、他の兄弟弟子達も同じ気持ちを抱くだろう。
「それで次は誰に会いに行くんだい?」
「シュタインだの」
「ああ……なるほどね」
ララがフェアドに今後の予定を聞くと、なんとも言えない表情となって天を仰いだ。
シュタインという名の人物に、大きな問題があることがその反応で分かる。
尤も勇者パーティー全員が問題児だったが……シュタインは常時問題を体に張り付けているといってよかった。
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