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ひと段落と次の目的地

「なんか疲れた……すっげえ疲れた……」


 めでたく生涯出禁となったマックスが街に向かいながら、言葉通り疲れ切った声を漏らす。ついついダンジョンコアに感情移入してしまった彼は、心底同情していたのだ。


「どう報告しましょうか?」

「あった通りのことを書くしかないさ」


 困り顔のエルリカが呟くとララが肩を竦めた。

 一応この地はリン王国であり、勇者パーティーは王であるゲイルへ大迷宮の真実を報告する必要がある。しかし大真面目な報告書に、大迷宮は最古の存在が子供用に作った遊び場で、我々は管理人から出禁を言い渡されました。と書かなければならなかった。


「そういうこともある」

「うむ。世界は筋肉と同じく大きなものだ。我々の予想を超えることも多々あるだろう」


 淡々と歩き続けるエアハードが評すると、シュタインが同意するように頷いた。

 世間一般の人間が大迷宮に持つイメージとは無縁な二人は、崩れた幻想に対してもあるがままを受け入れていた。


「あまり詳しく知らねえが、最奥を攻略したら景品が出るんじゃねえのか? 酒とか酒とか酒とか」

「迷惑客じゃからのう」


 完全攻略をしたことで景品に酒を期待していたサザキは、面倒を見ていた少年に送る剣を揺らしながらニヤリと笑ったが、相方の迷惑客フェアドはなんとも言い難い表情を浮かべた。


「しかし、あの馬鹿に近しい者達が眠っているのか」

「大魔神王とは直接関係なかったけど、それでもあんな由来の奴が管理人とはな。魔法学園の連中が知ったら白目剥くだろうよ」


 どこか遠くを見る目になったフェアドと、いつも通りのサザキが会話を続けた。

 原初混沌の欠片から生まれた者達が、深い眠りについていることを知れたのは大きな収穫で、大迷宮を攻略した甲斐があった。それと同時に、途方もないスケールの天然らしいということも分かったが。


「それで次は煮え立つ山か」

「いきなりアルベール師との組手が始まることはない……筈だ」

「え? 断言してくれね? お前とアルベールさんの試合とか、煮え立つ山が崩れるだろ。絶対巻き込まれたくないんだけど冗談だよな?」

「半々といったところか。正直、普通にあり得る事態だと思ってほしい」

「え、ええ……」


 次の予定を口にしたマックスだったが、珍しいことに溜息を吐きそうな表情のシュタインが、非常に危惧していることを呟いた。

 幾ら和解を望もうと、シュタインが喧嘩別れのように煮え立つ山を飛び出した事実は変わらず、試合と称したアルベールが弟子を殴る気満々な可能性はあるのだ。

 その場合はモンクの開祖と、史上最高のモンクが激突する恐れがあり、心配性のマックスが絶対に関わりたくない事態と化すだろう。


「しかし……七十年か。筋肉の変わりようには驚かれるかもしれん」

「ほっほっ、確かに。細く絞っているからのう」

「うむ。単に筋肉の大きさなら半分にも満たないだろう」


 思わずシュタインは自身の体を再確認して昔を懐かしみ、フェアドが同意して頷いた。


 シュタインの体が荒い岩をそのまま人体にしたようだったのは昔の話。今現在の彼は枯れ木を捻じり合わせたような細い肉体と化しており、七十年前の印象で止まっている者達には驚かれるだろう。


「一応の確認だが山へ登る階段ごとにモンクが待ち受けて、倒さなければ上へいけないということは?」

「だっはっはっ! そりゃ流石に……あるんじゃねえか?」


 黙々と歩いていたエアハードが、ふと頭に浮かんだ想像について尋ねると、サザキが大口を開けて笑い出したが、途中で考え直し頭を捻った。


 今現在の煮え立つ山との関わりが薄い彼らだが、かつての大戦で交流したモンクたちは、まさにそのようなことを起こしそうな者達だった。

 それを考えると、修練や鍛錬と言いながら次から次へとモンクが現れ、弾ける汗! 唸る筋肉! 立ち昇る蒸気! と形容できてしまうお祭りが起こる……かもしれない。


「さて、リン王国には私から連絡を入れるよ。エルリカは伝手のある宗教勢力に報告を」

「分かりました」


 話が脱線してモンクの伝統に引き摺り込まれると、正気を失う自信があるララは、男連中の会話を無視して仕事の話を続ける。

 魔道の最深部という誰も彼もが正気を失う領域にいる消却の魔女をして、シュタインと似た感性のモンクが犇めく煮え立つ山の話題は、容易く踏み込めないのだ。


(緊張か……懐かしい感覚だ)


 話が一息ついたことで、シュタインは自分が陥っている感覚を正確に把握する。

 あらゆる戦場を駆けた。あらゆる怪物と対峙した。あらゆる技を受けた。

 そして最後は、大暗黒の頂点にして原初混沌の欠片と殺し合った。

 それでも恐怖とは無縁で、生と死の狭間を歩いてあるがままを受け入れたが、家に帰ることには緊張していた。


(だが、騒動は起こるだろうな)


 シュタインは勇者パーティーの一員として、煮え立つ山で何かしらの騒ぎが発生すると確信していた。

 世界の謎を暴いた勇者パーティーは、モンクが集う煮え立つ山に向かうことになる。

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― 新着の感想 ―
いやーまかさ町とモンクが敵対してたら、煮え立つ山が噴火してもうだめだと思ったら町人とモンクが筋肉で受け止めて事なきをえたとか感動的でしたね(°∀。)あひゃ
ゲイル陛下 え〜?(報告を聞いての当惑 えー(なんとか理解しての嘆息 えっ(出禁に対して。でも、どうせ無自覚にやっちゃうんだろうな……
魔道と筋肉じゃぁ方向性が異なり過ぎて、理解し合えないよ…(・ω・`)
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