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激突!ダンジョンコアの死闘! そして覗き見た過去の、星の記憶、真なる暗黒・大魔神王

 戦いが始まったがこのダンジョンコア、勇者パーティーが今まで戦ったことのないタイプの恐るべき存在だ。

 気が抜ける実況付きなのである。


『あいたぁっ⁉ なんだ⁉ なにされた⁉ いたたたたたっ!』


 戦いが始まった途端、光の巨人は全身に痛みを感じたが、原因がさっぱり分からずただひたすら混乱した。


『なんか不備があった⁉ よくよく考えると直接戦うのは初めてだから、今まで知らなかっただけか⁉』


「おいマックス。気が合いそうだぞ」


「本当にな……」


 混乱の元凶であるサザキは、コアの巨体を切り刻みながら、戦場で似たような文句を言うことが多いマックスを揶揄う。


『攻撃⁉ 不可視の攻撃なのか⁉ 全然分からねえんだけど理不尽過ぎるだろ!』


 ようやく自分が攻撃をされているらしいと気が付いたコアだが、推測は外れである。

 無色透明な攻撃が襲っているのではなく、認識出来ない速度で先手を打たれ、切り刻まれていた。


『おんどりゃああ!』


 誰が攻撃しているかも分かっていないコアは、とりあえず七人いる誰かが原因だろうと適当に思い、排除するため駆けた。

 城を優に超える巨体なのにかなり速く、このまま突っ込めばそれだけで軍隊程度は蹴散らせるだろう。


『え? なにそれ?』


 だがその前にコアは、ララの頭上で展開された超巨大な魔法陣にポカンとした声を漏らす。


『ぬああああああああああ⁉ ちょっ⁉ け、削れてる! なんか存在そのものが削られてる! 反則だろそれ⁉』


「はあ……」


 魔法陣から飛び出したか細い消却の概念は、轟音や衝撃波を発生させなかった代わりに、コアが大きな悲鳴を上げた。

 しかも思わず両手で迸る破壊を防いだコアだったが、単純な破壊ではなく存在そのものを消し飛ばす魔道の深淵に混乱し、こんなことが許されていいのかと罵倒した。

 その原因はかつて存在した超越者の性格をなんとなく察してしまい、大きな溜息を吐いていたが。


『ぬああっ⁉ え? そういやなんで半裸⁉ 流石に服ってのを着ることは知ってるぞ! だがしかぁし! 武器を持ってないのに何が出来るのかなあ!わはは!』


「はっ!」


『ぐげっ⁉ なんかごっそり削られた! どゆこと⁉ 俺だから何とかなってるけど、それ生物にやっちゃいけない技じゃね⁉』


 続いてコアは近寄ってくるシュタインに困惑しつつも、素手なことに慢心を爆発させる。だが次の瞬間には拳を叩きつけられた足がごっそり抉られ、笑っていられない状況に陥った。

 そして無波の技を生物に使ってはいけないというご意見は至極正しい意見だが、戦いに反則が存在しないのもまた事実である。


『しかも武器がいっぱいきた! ちょっと待て! なんで一つ一つがヤバイ威力持ってんだよ! 俺のこと袋叩きにして楽しいかコラぁ! 武器は一人につき一つか二つだろー! あいたたたたたっ!』


「駄目だ、さっきから共感しか感じねえ……」


 更にコアは、様々な武具を引き連れて周囲を飛び回るマックスにブーブー文句を垂れ流し、似たような感性を持つ彼から同情を引き出すことに成功してしまう。


『へ? 頭に違和感……いつの間に?』


「……」


『ぐぎゃあああああ⁉ 光に還った⁉ マジでなんだそりゃ! 絶対使い方間違えてるって! 光ってのはもうちょっとこう、あれだ! 温かなもんだろ! 毒じゃんそれ!』


(まあそれは……)


 違和感を感じたコアは、いつの間にか自分の頭部にいた光の暗殺者エルリカに気が付いたが手遅れで、光消滅魔法が頭に突き刺さり悶絶する。

 更に光の使い方が明らかに違うぞと正論を言い放ち、自覚があるエルリカを心の中で苦笑させた。


『い、い、いつまでもやられっぱなしだと思うんじゃねえぞおおおお!』


「闇よ」


『は? ちょ、それ……』


 ほぼ泣きが入っているコアだが、それでも迷惑客に打ち勝つため大きく腕を振りかぶり、地面へ叩きつけようとしたが、その前にエアハードから溢れ出した闇にポカンとした声を漏らした。

 悪ではない。淀みではない。

 どこまでも透き通っている静謐な闇夜の如き黒は、ダンジョンコアの知識に該当するものがあった。しかし、知識ではそれの使い手など存在する筈がなく、はっきりあり得ないと断言していいような力である。


「おおっ!」


『でもそれで物理攻撃⁉ ひょっとして頭硬いの⁉』


 そんなあり得ざる力を溢れ出したエアハードだったが、結局行使したのは大剣をぶん回す力技で、足をぶった切られたコアは色々おかしいと絶叫する。


『だ、だがそれでもおおおおおおおおおお! 食らええええええええええ!』


「光よ!」


『しゅ、しゅ、出力おかしすぎいいいいいいい! 物理的に固まった光とか物理的に変だって気が付いた方がいいぞ!』


「せいっ!」


『め、迷惑客めええええええええええ!二度と来るんじゃねえぞ! ぎゃあああああああああああああああああああああああああああ!』


 なんとかして一矢報いるため、コアはよたつきながら拳を振り下ろしたが、法則を無視した光の盾に阻まれ……フェアドから迸った光に呑まれ消え去った。


 闇の軍勢が言いたくても言えなかったことを代弁し続けたコアは、ここに敗北したのである。


 それと同時に大迷宮を完全攻略した勇者パーティーは、まるで追い出されるかのように最奥から地上にはじき出され、周囲は静寂に包まれた。


『ひ、酷い……酷すぎる……ここ子供の遊び場なのに……ぐすん』


 だがすぐ、コアの情けない声が響き、理不尽な勇者パーティーに悪態を吐いた。


『ま、まあいいや……さーて。ちょっと覗いてみよっかなー。いやあ、原初混沌の欠片は言い過ぎっしょ。久々に笑わせてもらったわ』


 気を取り直したコアにはある権能と言ってもいい力があった。

 それは万が一迷宮が壊れた際の復元に利用する力で、過去の参照と言っていいものだ。それを使って、迷惑客が口にしていた偽物を確認しようとしていた。


『えーっと……この辺かな?』


 まさに神の如き力を使ったコアは星の持つ記憶を辿り、最も派手にきらめいている時間を見つけ出し……それこそ見てしまった。


 コアですら及ばない巨躯・極。

 砦を超え、城を超え、山を越え、天すら超える漆黒の大巨人が君臨していた。


  『いい加減にぶっ潰れろやあああああああああ!』


 暗黒の塊、憎悪の化身、世界の敵……大魔神王が吠える。

 だが、何度も何度も異様に長い腕を叩きつけているのに、七つの光は途絶えるどころか益々輝き、大地など容易く粉砕する拳を弾き返す。


『ははあ、なるほどねえ。こりゃ原初混沌の欠片と誤認する筈だ。っていうか、端の端の、そのまた切れ端くらいはあるんじゃね?』


 圧倒的なまでの質量が叩きつけられ、大地どころか星が裂けかねない力が爆発している光景に、大迷宮を作り出した者を知っているコアは、こりゃ凄いと言うだけに留まる。

 なるほど、混沌の端の端。更に端程度はあり得るが、それでも切れ端と呼称するには弱いため、直接関係しているとは言えなかった。


『がああああああああああああああ⁉』


『いやあ、それでもこれに勝ったのかあ。迷惑客だけどすげえじゃん。迷惑客だけど』


 大魔神王は溢れる光とぶつかり合っていたものの、決定的な一打を入れられずに追い詰められ、コアが見たところ勝負があった。


『ぐうううううううううう⁉』


 実際、漆黒の巨体からみるみる力が抜けだし、噴出する悪意。怨念。恨みつらみ。

 ありとあらゆる負の思念が解き放たれ、大魔神王の体がみるみる萎んでいく。


 そう、どう見ても勝負があった筈なのだ。


 腹が裂けた老人が、首だけの男が、四肢のない女が、八つ裂きにされた子供が、家畜の餌にされた乳幼児が暗黒から溢れ出す。


『お、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!』


 悶えに悶え続ける暗黒を構成する主要な、それこそコアが抜け落ちていく。


【仇を】【息子の仇いいいいいい!】

【恨みを】【妻が! 妻が殺されたんです! どうか! どうか!】

【お母さん何処⁉ 何処なの⁉】

【どうして……】【娘が……娘が……】

【殺してください!】

【お願いします……】

【聞き届けてください……】


 いったいどれほどの怨念。

 天に聳える巨体は全てが恨みで構成されているのに、それらが抜け落ちながらも訴え、聞き届けてくれた唯一の神に願う。

 乞う。

 頼む。

 祈る。

 頼み続ける。


『かみさま……』

『おうさま……』


 噴出する怨念の最後に、眼球がない少女とさらに幼い血まみれの女の子が現れる。

 寒村に生まれ世を知らず、偉い者への称号を使わなければならないと思い、碌に意味も分からずソレを神と定義した姉、王であると呼んだ妹だ。


 そして……祖父母を生きたまま焼かれ、父母を蹂躙の果てに殺され、最後は同じく果てた姉妹でもある。


 ブチブチブチッ。


 ただでさえ緩い暗黒の忍耐に亀裂が生じる。


 姉妹は……。

 神は人を救ってくれると思い込んでいた。

 王は人を守ってくれると思い込んでいた。


 しかし裏切られた。


 神は救うどころか人を貶した。

 王は守るどころか人を殺した。


『お前らはもういい加減寝ろ! いつまでも暗黒にいるんじゃね! 間違っても帰って来るんじゃねえぞ!』


 悪い意味で正しき神が叫叫ぶと姉妹を引きはがし、無理矢理光の領域に押し流す。

 自らは悪でいい。正義でなくていい。大いなる魔でいい。

 神に、王に、世の全てに喧嘩を売ろう。


『我こそが……!』


 姉妹との約束を守ろう。

 誤認されようが送られた名を使おう。


『我こそが世界の敵! 大いなる魔にして神の王! 大魔神王なり!』


 混沌の切れ端。

 原初の“闇”といっていい己を再構築する。


 怨念は抜け落ちようと、約束を交わしたのならば敗れるまで止まれない。止まらない。


『……認めてやるよ。フェアド。エルリカ。サザキ。ララ。シュタイン。マックス。エアハード。確かにお前達は俺と殺し合ってる』


『え? これ……これ……欠片どころじゃなくね?』


 ポカンと見上げたコアの視線の先にあった。あってしまった。


 暗黒、深淵、根源、根幹から抜け落ちてしまった純粋なる闇。

 おどろおどろしい姿?

 厳つい武装?

 世界に収まらない巨体?

 否である。

 指先で摘まむことが出来る、小さなみすぼらしい黒いガラス玉が浮かんでいた。


 暗黒をまき散らす?

 死を振りまく?

 世界が闇に包まれる?

 否である。

 どこまでもこの存在は、真っすぐぶん殴ることしか出来ない暴力そのもの。


 演算世界で勇者パーティーが、アレには付き合えない。頼むからこれ以上になってくれるなと心底思った別格。

 大魔神王第三形態。

 言ってしまえば原初の神・“闇”。


『終わりだああああああああああ!』


 硝子玉程に圧縮された原初混沌の欠片が……。


 単なる体当たりを実行した。


 馬鹿げた話だ。


 剣聖の斬撃を無視する。

 魔女の消却を突き進む。

 モンクの無を耐える。

 龍騎士の武具を弾く。

 暗黒騎士の闇を突破する。

 聖女の光を切り裂く。


 勇者の盾にぶち当たった。


 砕けた。砕けたのだ。

 あらゆる怪物からの攻撃を防ぎ続けた……光が結晶化した勇者の盾が木っ端微塵に砕けた。


 それと同時に衝突が勇者パーティー全員を吹き飛ばし、全身も切り刻まれたかのように裂けて出血する。


 だが最も重症だったのは。


 盾のみならず左腕……いや、それどころか胴体も三分の一が削られているのに、まだ立ち続け戦意を宿している勇者フェアドだ。


『あり得ねえだろうが!』


 驚愕したのは勇者パーティー。ではなく大魔神王だ。

 それも当然だろう。フェアドが形を保って生きているだけでも奇跡なのに、世界から、星から集まっている光が合わさり、欠損してた体どころか無機物の盾すら復元されているではないか。


『なんで今更そんな光が集まるってんだよ! この……このボケ共がっ! お前ら今まで聞こうとしたか⁉ 見ようとしたか⁉ 散々命を無視し続けて、自分が死にそうになったから慌てて結集して……!』


 結集する光が鬱陶しくて仕方ない大魔神王が叫び、更なる力が高まる。

 それは勇者パーティーも同じだ。世界の、星の、全ての命を背負い立ち上がる。


 唐突にぷつんと星の記憶が途絶えた。


『ちょっと待て一番いいとこじゃん! っていうか何で生きてんの⁉ そもそもあそこから勝ったの⁉』


 これにコアは絶叫するが、どうしてもこの続きを見ることが出来ず途方に暮れてしまう。


『それはそうとしてぜーーーーーったい出禁!』


 なお出禁の相手が更に厄介な存在であることを知り、コアは勇者パーティーを生涯出禁に認定した。

よく勝ったもんですわ……

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― 新着の感想 ―
…そういえば前のコピー戦の時言ってたね 大魔神王には『第四形態』まであったって
フェアドが寿命で死んでも修復されそうで怖い 欠片でもコレが解き放たれたらその世界の最大の驚異になってたな怖い怖い
こんなの見たらそりゃあ何でフェアドが人の形保ってるのか不思議になるわ…
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