表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
135/155

未知と恐怖は別物である

「ほげっ⁉ なんか炎が来てるんだけど!」


「上の怪物共に比べ、随分単純なものになったの」


 マックスが嫌そうな顔をしてフェアドが首を傾げる。

 どこからともなく、大迷宮の空間を埋め尽くすような真っ赤な炎が噴出して勇者パーティーに襲い掛かるが、言ってしまえばそれだけだ。

 強力な怪物の姿はなく、頭を悩ますような仕掛けもない単純すぎる炎など、彼らにすればなんの怖さもない。


「先程からどうしたのでしょうかね?」


 現に疑問を覚えたエルリカが、片手間で炎を光で消滅させているのだから、勇者パーティーの足が止まることなどない。

 寧ろ階層が深くなっているのに、明らかに大迷宮が単純になっているため、その進行速度は上がっていた。


「階層の区切りも閉ざされてるときた。ま、意味ねえけどよ」


 階層を区切っている、いわゆる主がいる場所の門は固く閉ざされ、入って来るなと主張せんばかりだったが、皮肉気に笑うサザキに切り捨てられる。


「階層の主も出てこない、単純な筋肉構造になっているな」


「とは言え我々のやることも変わらない」


 シュタインが自分なりの表現をすると、エアハードが口を開く。

 モンクと暗黒騎士の言う通り、大迷宮は先程からずっと勇者パーティーを阻もうとしているのだが、その度に単純な力押しで突破していた。


「ふむ、空間のずれ? 捻じれ? そんな感じが起こっておるぞ」


「一度繋がってたものは、閉じたところでなんとかなるよ」


 フェアドが顎を擦り、濃い霧のように人を拒む空間の断絶を眺めると、ララが夫そっくりな皮肉気な笑みを浮かべて、無理矢理こじ開けた。

 大迷宮が各階層を繋げている階段まで封鎖しても、定命の存在どころか神すら到達できていない魔道の深淵にいる魔女にとっては、健気な抵抗でしかなかった。


「お婆さん。推測が出来たらしいな」


「ふん」


 唐突なサザキの問いにララは鼻を鳴らした。

 一見すると特に変化がないように見えるララだが、付かず離れずの夫婦を維持している酔っ払い剣聖は、彼女が自分の中での推論を組み立てたことに気が付いたらしい。


「階層が続いているのに怪物共が出なくなり、代わりに大迷宮が私らを邪魔してるってことは、なんらかの判断基準がある。ここまではいいね?」


「ああ」


 迷路のような壁どころか、広大な空間を押し潰すような一塊の岩が現れたのに、それすらも魔法でぶち抜いたララが呟くと、ついに最後の酒を飲み干してしまったサザキが悲しそうな顔で頷いた。

 

「そして一番可能性が高そうな判断基準は攻略の速度だ」


「なるほど。我々の速筋は大迷宮の想定する筋肉以上だったのか」


「若い頃の俺なら、うっ……頭が……大迷宮の想定以上の速筋ってなに? り、理解が……って言いそうだなあぁ」


 ララが真面目な推測を口にすると、シュタインも大真面目に持論を展開して、マックスの思考回路を一時的に麻痺させる。


「その判断基準で導き出した結論は……」


「子供の遊び場に大人が来るな。とっとと帰れ。と言ったところかね」


「……」


 そんな脳筋を気にしないどころか、会話を成立させることも可能なエアハードは、ララにしては奇妙な例え話だなと一瞬思った。

 しかし、サザキが絡まないララはあまり遠回しなことを言わないため、まさかそんなことがあり得るのかと黙ってしまう。


「……そのような視点の話なのですか?」


「さて、はっきり分からない方がいいのかもね」


 エルリカは思わず、泥らだけで遊んでいた息子が洗濯物に突っ込もうとした時のことを思い出しながらララに尋ねたが、彼女は肩を竦めて自分の推測が間違っていてほしいと言わんばかりだ。


「では見ない方がいいかもしれん、答えを確認しようかのう」


 フェアドがひと際大きな門を見上げる。

 フルメンバーの勇者パーティーが到達した。

 前人未踏。今現在の神すら知らない大迷宮の底の底、第千階層。


 大魔神王に直接仕えた最高幹部に匹敵する怪物すら現れないのならば、勇者パーティーを足止めできる筈がない。

 なるほど、現存する神ですら由来を知らない未知こそが大迷宮ではある。だが彼ら七人が戦ったのは、誕生が世界の成立と同義だった原初混沌の落とし子、大魔神王なのだ。

 冗談や例えではなく勇者パーティーは事実として、この世界に存在していた最古最大最強を打倒した後であり、今更苦戦する筈もなかった。


「そりゃ!」


 フェアドが軽く力を込めて剣を振り下ろすと、ガチガチに固められている筈の門は吹っ飛び、ついに勇者パーティーが大迷宮の最下層に到達する。


 だが……。


『子供用の遊び場に大人が来るな! 景品も一つしか受け取らねえ迷惑客め! 出禁だ出禁!』


「ええぇ……」


「はあ……」


 世界最大の謎の一つのままにしておいた方がよかった存在が叫び、フェアドが気の抜けた声を漏らし、ララは大きな溜息を吐いた。


(幻聴だったのは間違いないんだけど、聞こえた通りだったかも……)


 なおマックスはどこか遠くを見ていた。



-未知っていうのは、なんでもかんでも怖さや凄さに直結してる訳じゃないんだよね-

“緑隠れ”オスカー

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
現在の情勢を事細かに教えて 頭バグらせたいな(笑)
「なるほど。我々の速筋は大迷宮の想定する筋肉以上だったのか」 特になにも思わず読んでたけど、マックスがツッコミいれておかしいよね?って気がついた…… 筋肉!筋肉!筋肉!
前も書きましたが、マジックバッグでもあげればいいんですよ。 収納量無制限、時間経過も無し、破損せず、自動的な整理整頓と検索、紛失防止、予め指定した相手への自動相続などの各種便利機能もアリで。 通信と情…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ