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戦後の世代

日間だけではなく週間ハイファンタジー1位ありがとうございあまああす!


本当に感動しております!

「宿はどこにしようかのう婆さんや」


「そうですねえお爺さん」


 フェアドとエルリカは、街をよちよち歩きながら困ったように辺りを見渡す。老いも若きもローブを着てフードを被っているような街なせいで、どこの宿も妙に怪しい取引所に見えて仕方なく、さてどうしたものかと悩んでいた。


(ど、どうしよう……)


 その遥か後方で、フードを深く被っている“焼却”のアルドリックもまた困り果てていた。


(サザキ様だけではなく、恐らく勇者様ご夫妻だ……)


 物陰から老夫婦を見守る七十代の老人という妙な構図だが、アルドリックにしてみればそれどころではない。ララの弟子である彼はサザキと面識はあるが、フェアドとエルリカとも面識がある。


 尤も偶にこの街を訪れるサザキと違い、フェアドとエルリカに関してはアルドリックが幼いころに一度会っただけだ。サザキがおらず、ララから昔の仲間が訪ねてくるという連絡を受けていなければ気が付かなかっただろう。


(師匠からは友人を見つけても放っておけと言われてるが、そういう訳にも……いや、私的なお時間をお邪魔をするのも確かにマズい……)


 そしてアルドリックにすれば、文字通り世界を救った者と、比較的平穏な時代に頭角を現した自分とでは格が違うと認識しており、よちよち歩きのよぼよぼ夫妻だろうが雲の上の人なのである。


(サ、サイン……いかんいかん! なにを考えている!)


 アルドリックは混乱している。


 七十代ほどの人間は、命ある者達と大魔神王の最終決戦前後、もしくは勇者パーティーが事実上解散した後の生まれで、大戦の当事者世代ではない。しかし勇者パーティーの武勇伝を聞いて育ったため、非常にファンが多かった。


 アルドリックもその一人で、子供の頃は木の剣と盾を持って勇者ごっこをしていた程だ。


 そのため今現在、九十歳のよぼよぼ夫婦に熱い眼差しを向ける、七十代老人という少し妙な構図が出来上がっていた。


(む? オーク?)


 そわそわしているアルドリックの視線の先で、フェアドとエルリカの向かいから巨漢がやってきていた。


 並みの男が大きく見上げるほどの背丈に緑色の肌。でっぷりと突き出ている腹に少し弛んだ皮膚のせいで肥満に見えるが、実は高密度な筋肉の塊。それがこの世界においてオークと呼ばれる種の共通事項だ。


 そんな横にも縦にも大きい巨漢オークの額をフェアドはじっと見て記憶を掘り返し疑問を覚える。


「“炎の渦”氏族がここに?」


 思わず声を漏らしたフェアドの記憶が正しければ、オークの額にある赤色の縦三本線は武闘派である炎の渦と呼ばれるオーク氏族のマークであった。しかし炎の渦はもっと南方で集落を構えており、まずこの近辺では見かけない筈だ。


 実際このオークは氏族から離れて生きている旅人のようなもので、近辺に同氏族はいなかった。


「ご老人、我が氏族を知っているのか?」


 オークが低く唸るような声を発する。威嚇している訳ではなく種族的に殆どの者が迫力のある声なのだ。


「うむ。大戦中に赤き湖の戦いに参加していての。そこでオーク連合と轡を並べた際に、炎の渦とも知己を得た。当時の氏族長、グガン殿の勇猛さは目に焼き付いておる」


「なんと。その老体から察するに大戦の戦帰りではあると思ったが、赤き湖の戦いにも参加されていたか」


 フェアドの説明を聞いたオークの目に、はっきりとした敬意の光が宿った。


 オークとは祖霊、先祖、親、子、氏族に恥じない戦いを求める存在であり、名誉を重んじる戦闘種族である。


 そんなオークの聖地にして、彼らの身体能力を強化する戦化粧の原料が採取できる名前通りの赤き湖は、戦略物資の拠点として扱われた。


 だからこそかつての大戦中、魔の軍勢は赤き湖に攻撃を仕掛けた。その結果、聖地死守のために世界中から結集したオークと生き足掻く生ある者達、勇者パーティーの連合軍が相対し、死闘が繰り広げられることとなった。


 余談になるがオークにとって人間は全く種が異なるため、異性としての対象にならない。そのため人間の戦闘集団に紛れても男女トラブルが起こらず、集団粉砕的な件で痛い目を見たことがある者達は、オークの戦闘力と価値観から信頼を寄せることが多い。


 話を戻すが総じて言えるのは、この世界においてオークとは非常に頼りになる者達なのだ。


「そちらのご婦人も?」


「ええ。従軍していました」


「不躾だがよければ握手していただきたい」


「儂なんぞでよければ喜んで」


「はい」


 エルリカも赤き湖の戦いに参加していたことを知ったオークは、手を差し出して握手を求めると、順番に二人の皴だらけの手をそっと握った。


 このオークも大戦の当事者ではないが、名誉を重んじるオーク種族にとって聖地を死守した戦いは、子孫にずっと教え込んでいる出来事だ。それを聞いて育った彼は当事者に握手を求めたのだ。


(オーク君! 羨ましいぞオーク君! ちょっと代わってくれないか!)


 見ていたアルドリックがまた混乱した。もしララがここにいれば、弟子の頭を引っ叩いていたことだろう。


 一応述べておくがアルドリックの魔道強度である深層位は、例外を除いた当代最高のものであり、どんな王国に赴いても素晴らしい待遇が約束されている。しかも世界中で選ばれし高位魔導士のみが出席できる、魔道評議会の出席資格も有している偉人だ。


「ママ―、あの人なにしてるのー?」


「しー。見ちゃいけません」


 現在は物陰から覗き見している、フードをすっぽり被った不審者だとしてもである。


 アルドリックのことは置いておこう。


 かつての大戦が終結して七十年近く。世代を複数跨ぐ年数だが、完全に人々の記憶から消え去るには短い。


 そして戦争の爪痕が大きければ大きいほど、勇者パーティーの功績が途方もないことを意味していた。



 ◆

 おまけ


 “焼却”のアルドリック

 -炎が舞う。舞う。舞う。舞う。ドラゴンすら恐れる。慄く-


 “赤き湖の戦い”

 -大魔神王はオークを舐めた。氏族間で僅かな繋がりしか持たないオーク達が、聖地死守という使命に突き動かされて団結した時、誰もの予想を上回る破壊をもたらした-

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― 新着の感想 ―
[一言] ジジババしかいない若い子がいないだと…あ、オークさん若いのか
[良い点] ジジババ達のほのぼの旅! これは和みますなぁ〜(*´▽`*) これは良作品の予感!次の更新も楽しみにしてます! [一言] アルドリックさん頑張れ!多分、声かけても大丈夫だから!!!
[一言] 握手したお爺ちゃんが勇者本人だと知ったら、このオーク氏、子々孫々まで語り継げそうですね。
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