再会3
マックスとゲイルが墓参りをしている最中、ドラゴンの司祭であるコンは青き龍と勇者パーティーの会話に立ち会うこととなる。
「大魔神王の復活を阻止したとか。いえ、復活とは少し違うかしら」
「そうですのう。あくまで再現体。本物なら復活しようとは思わないでしょう。ケリをつけようと言った以上、それを反故にする奴ではありますまい」
学術都市の一件は青き龍のエリーの耳にも届いていたが少し言い直し、フェアドも大きく頷いた。
「私は大魔神王の考えを詳しく知りませんが、貴方がそう言うのならそうなのでしょうね」
ほんの一瞬だけ、コンだけではなくエリーも身を震わせる。
破壊の権化は生物全てにトラウマを刻み付けたが、それは神話に名高き龍ですらも例外ではない。
特に大魔神王が形態を変化するなどというのはエリーも予想外のことであり、全ての者が天界を陥落させた状態ですら、弱体化していたのかと驚愕したものだ。
「結局のところ、人も、ドラゴンも、神もなんら変わりません。物事は眼で見たことしか分からず、各々に考えと野心、思い込みがあり、自分の中にある物差しで全てを把握した気になる。それは私も同じ」
エリーとて、恐らく命ある者が負けると思っていた。だが大魔神王の真の力は、恐らくと言う曖昧な表現を鼻で笑うものであり、更にはそれを打ち倒したのが人間だったのは、未だに理解が及ばないものだ。
「王都は賑やかでしょう。それを貴方達が自分で見ることができてよかった」
「ほっほっほっ。目が丸くなりました」
「ほほほほ」
話題を変えたエリーに、フェアドとエルリカが朗らかに笑う。
平和を勝ち取った勇者と聖女が、その成果を見ることができない状態だったのは、エリーの心にも引っかかっていたことだ。
「……お弟子さん達の話はよく王城でもされてますよ」
「まあ、頑張っているのでしょう」
続いてエリーは一瞬悩んで、サザキとララに弟子の話題を提供すると、ララが当たり障りのない返答をした。
これはエリーがマックスから、仲良く夫婦旅行だのなんだのと言っても、碌な回答が得られないと教えられているからだが、この夫婦が素直ではないのは弟子に対してもだった。
「煮え立つ山では特に変わったことはないようです。アルベール殿もきっと待っているのでしょう」
「恐れ入ります」
最後にエリーは、シュタインが気になっている情報を口にした。
事実、シュタインの帰還を知っても煮え立つ山はいつも通りで、一部の高弟と彼の師であるアルベールがその時を待っていた。
(それにしても……一つの時代にこんな人間が集まるなんて。これを単に運命と片付けていいものかしらね)
そんな彼らをエリーはひっそりと評する。
大戦でマックスへ手を貸した時のエリーは、この天才児が成長すれば歴代のリン王国王家で最もドラゴンの力を使いこなし、人として最強の名をほしいままにするのではないかと思った。
だが大戦最後期におけるマックスはドラゴンの力を使いこなすどころか、エリーすらも凌駕する高みに至ったのに、後世で龍滅騎士が最強だと断言されることはなかった。
それはエリーの前の前にいる勇者パーティー全員が、全存在の常識からかけ離れた存在であるためだ。なにせドラゴンの一部すらも、フェアドや勇者パーティーは神の生まれ変わりに違いない。そうでないとあの強さは説明できないと思い込んでいる者がいるほどである。
(勇者パーティーという呼称は、世が続く限り最も偉大な名として残るでしょうか。それとも意味が薄れる?)
奇しくもエリーは、フェアドとサザキの先輩であるオスカーと似たようなことを考える。
勇者パーティーは人だけではなく、ドラゴンや神すらも凌ぐ世界の存続という偉業を成し遂げて、知らぬ者はいない存在と化したが、それがいつまでも正しく認識されるかは分からなかった。
「戻ったぞー」
それから暫し、エリーと勇者パーティーの話はマックス達が戻ってくるまで続けられた。
(楽しそうでよかった)
マックスを見たエリーは心の中で微笑む。
純粋に人付き合いが面倒で各地を転々としていたマックスだが、それが人生の最期なのはあまりにも寂しいとエリーは思ってた。
しかし今の彼はフェアドの誘いに乗って騒がしい旅をしており、エリーはそれが嬉しかった。
「あと、そうだな」
その時マックスが、エリーとゲイルを見てなにかを言い淀み少し頭を振る。
「あー。久々に二人に直接会えて嬉しかったぜ」
父との反省から、言えるうちに言っておく必要があると思ったマックスは二人に言葉を伝える。
「それは……それは、私もだ」
「私もですよ」
涙腺が緩んだことなどないと評される厳格なゲイルの目が僅かに光り、人間を模しているだけのエリーの目も同じだった。
「そんじゃまあ、また今度な」
気恥ずかしくなったマックスは、話はこれで終わりだと言わんばかりに足を速め神殿を後にする。
その日のマックスは久々に限界を超えて酒を飲み、次の日は頭痛に悩まされたが晴れやかな表情を浮かべていた。
なお一緒にそれ以上を飲んでいたサザキは元気いっぱいだった。