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再会2

「……」


 七十年以上ぶりに再会した双子の兄弟は静かなもので、互いに何から話せばいいのやらと様子を見ているかのようだ。


(顔立ちこそ似ているが雰囲気は全く違うの。ゲイル殿は威圧感があり、マックスには全くない)


 一方、ゲイルとの挨拶を終えてあとは見ている側になったフェアドは、両者の違いにすぐ気が付く。


 戦後のリン王国を立て直しために王として奔走したゲイルは相応の威圧感があり、そこらの人間では直視できない威厳が備わっている。


 一方のマックスは戦後に行商人をしていたこともあって雰囲気は柔らかく、生来の気楽さもあってゲイルとは正反対だ。


「……まあ、あれだ。すっかり爺だな。お互い」


「……七十年以上会ってないから余計にそう感じるな」


「……」

(話がぎこちねえええええ! 誰か潤滑剤になってくれねえ!? 酒か! 酒を飲めばいいかサザキ!? おばはんもニコニコしてるだけじゃなくてなんか話してくれ!)


 恐る恐る話始めるマックスだが、内面はベラベラと喋りながら助けを求める。色々と想定はしていても、いざ生き別れの兄弟と対面するとどうすればいいか分からなくなっていた。


(参ったな……)


 尤もそれはゲイルも同じだ。


 青年だった頃の容姿を最後に会っていなかったマックスと再会したことで、いかなる時でも冷静な名君と称えられていた彼は、どう話せばいいのかと戸惑っていた。


 そんな二人だが、勇者パーティーで一番のお喋り兼お調子者を自認するマックスの方が段々と本調子に戻ってきた。


「……とは言っても九十ちょいには見えないよな。俺もお前も六十代くらい?」


「……そんな訳があるか。服で誤魔化さなければな年齢相応だろう」


「これは流行りの服なんだぞ」


「王城からあまり出ない俺でもそれが若者の流行ということくらい分かる」


「おいおいなに言ってんだ。気持ちが若けりゃ着こなせるのさ」


 確かにマックスの言う通り二人とも年齢を考えると若々しく見えるが、それでも六十代は言い過ぎでありゲイルが突っ込む。そして目立たないように地味な服装をしているゲイルに比べ、マックスは相変わらず妙に若者風な姿をしているので、多くの者が本当に双子の兄弟かと疑問を覚えるだろう。


「しっかし中々忙しいみたいだな」


「いや、流石に普段はそこそこ暇だ。武芸者の大会が終わればまたゆっくりできる」


「ああね。爺が過労で倒れたら洒落にならんからそりゃよかった」


「その時は外部に漏れないよう言いつけておく」


「そうしておいた方がいいな。リン王国は年寄りに厳しいなんて噂になるぞ」


「違いない」


 つい先ほどまでのぎこちなさはどこへやら。マックスがゲイルの忙しさについて話すと軽口に発展した。


(兄弟、家族か……あまり仲が良かった記憶はないものの、もう少し兄貴達や両親と話していた方がよかったな……)


 フェアドは彼らの会話を聞きながら、大戦中に死去した家族を思い出して僅かに後悔する。


 寒村で余裕がなかったため仲がいいとは決して言えなかった家庭だったが、それでも肉親は肉親であり、もう少し話をすればよかったと思う。最後の別れの言葉を交わす余裕もなかったため尚更だ。


「ふふ」


「よろしいのですかエリー様?」


「ええ。私はよく話してますから」


 ゲイルとマックスを幼き頃から知っている青き龍は会話に混ざることなく見守り、エルリカに柔らかく微笑んだ。


 尤もこの龍がするマックスとの会話は、以前にも述べた通り近所のおばちゃんのようなものだったが。


「ところでだが……」


「ああ」


 それから少し。


 色々と話し終えたマックスが言葉を濁すと、ゲイルは控えていた司祭のイーモとコンに目配せする。


「こちらへ」


 龍の神殿のトップであるイーモは神殿の最奥へ足を向け、マックスとゲイルだけが続く。


 この神殿はリン王国王家と密接な関わりがあるため、王家にとって最重要のものが安置されている。


「ふう……ここか……」


 最奥に到着するとマックスがぽつりと呟く。


 重厚かつ多重の防御策が施されている扉の奥にあったのは幾つもの棺だ。


 眠っているのは当然ながら歴代リン王国国王。それと龍の力を強く発現した者達である。


 青きドラゴンの力を受け継ぐ者達の遺体は、一種の聖遺物と言っていい力を宿しており、悪用する手段だってある。そのため龍の神殿はそこらの要塞よりも強固な聖域と化して、歴代リン王国国王の遺体を守っていた。


 そして最も手前にあった。


 刻まれた名はトーマン・リン。


「……父上。ちょっと顔見せに寄りましたよ」


 マックスの、ギャビン・リンの父であり、再会することなく病み果てて亡くなった男の名だ。


「ダチがあちこち顔を見せに行ってましてね。まあ、なら俺もそうするかと思ったんですよ。それで王都にも来たという訳です」


 聞くべき人間は棺の中だがマックスは話し続ける。


「ゲイルには悪いんですが、自分のやりたいことだけやってましたから気楽なものですよ。本を書いて在庫を抱えましたがのんびり行商したり、釣りの季節だと聞いて釣りしたり。美味い食べ物があると知って向かうこともしょっちゅうでした」


 本来は産まれた瞬間に殺されている筈の男は、戦後の月日を軽い口調で纏めた。


 語ることはそう多くない。


 何かを伝えようにも、全ては七十年以上前に終わった話であり過去なのだ。


「もっと色々話せればいいんでが、すいませんね。男の再会と墓参りなんてこんなもんでしょう」


 それをマックスは男なんてこんなもんだと表現して頭を掻く。


「墓はここで手続きされてるみたいなんで、またその時に話しましょう」


 歴代の王族で最も強く龍の力を発現したマックスは、死後にここで眠ることが確定している。


「それでは父上、これで失礼しますよ」


 マックスは積み重ねた思いがあったものの、やはり彼らしく簡素に父へ言葉を送り、振り返らず墓所を後にするのであった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] マックスだったら、死後、龍として復活しそうな気がします。 死と言うより、クラスチェンジ的な。
[一言] すでにお墓が用意されているとは。 でも、マックスの性格を考えると、本当はどこか適当なお墓でもよかったのに、とか思っていそう。
[一言] マックス、龍の力のせいで長生きさせられそうw
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