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隠居も忙しい

 リン王国の王都が武芸者大会で盛り上がっているように、王城もある意味で盛り上がっていた。


 と言うのも、各地から観戦しに来る者の中にはエルフやドワーフなどが混ざっており、その中には大戦に参加した高名な戦士。もしくは高位の指揮官的立場の者達がいて、王城に挨拶をしに来ていた。


 この対応に王城の人員は総動員されており、上は王から大臣。下は使用人や衛兵なども忙しく駆け回っていた。


 ただ今現在は一通りの対応が終わり、私的な交流が主となっている。


 例えば大戦に参加した者達によるお茶会だ。


「これはゲイル殿。お久しぶりですな」


「アモリ殿、お久しぶりですな」


「久しいな。元気そうでなによりだ」


「バメイ殿もお変わりないようで」


 隠居しているゲイルに会いに来たのは、ひょろりと背が高く同じく青い瞳と金の髪を持つエルフのアモリと、ずんぐりむっくりした筋肉質の体で、赤毛の髪と髭が顔を覆っているドワーフのパメイだ。


 そして長命種なのに皺のある顔から分かる通りかなりの高齢で、正確な年齢は本人達も分かっていない程だ。


 この両者は大戦中のエルフとドワーフの部族の指導者的立場で、今は公的な立場を離れている人物だったが影響力は維持しており、ゲイルと似たような立場だった。


「ずっと後回しになってた針金山周辺もようやく元に戻ったわい」


「青の森の植生もです」


 近況を報告するパメイとアモリ。


 煮え立つ山、頂の園、大国であったリン王国などはなんとか死守できたが、そのほかの拠点は幾つか陥落しており、エルフやドワーフにとって重要な場所も損壊していたのが大戦だった。


 それがようやく完全に復興したのだから、大魔神王が残した爪痕は大きかった。


「お互いよく生きていたものだ」


「全くですな。今も夢に見る時があります」


「私もです。朝は空が赤くないようにと祈りながら窓の外を見ます」


 パメイが長い髭を揺らしながらしみじみと呟くと、ゲイルとアモリが同意した。


 パメイ、アモリ共に指導者的立場ながら、大戦において戦場に立ったことは一度や二度では済まない。それだけ命ある者達は劣勢で、指導者層が直接出陣しなければ士気が保てなかったのだ。


 だからこそ、グリア学術都市の一件を知らされた立場のパメイとアモリはブルリと身を震わせた。


「絶対に、絶対にあってはならん。大魔神王が復活するなど……」


「ええ」


 冗談ではなくパメイとアモリは、下手をすれば大魔神王が復活して、魔の勢力が勝利した演算を押し付けられる寸前だったことを知った時、腰を抜かしてへたり込みかけた。


 パメイの脳内には、太古から存在する特殊な炉を守るために布陣したドワーフの軍勢に対し、山々を見下ろしながら進軍してくる暗黒の巨人を思い出した。


 そしてアモリは、世界に根を張る霊樹を貪るために飛来した、百万に分裂する悪しき毒龍を思い出す。


 いずれも勇者パーティーが討伐した怪物だが、戦いの余波だけで山も森も悲鳴を上げて軋んだ決戦だった。


 だからそれすら容易く上回る大魔神王の復活など、ドワーフとエルフにとっては悪夢以外の何物でもない。


「一応、似たようなことを考える馬鹿がいないか調べさせてはいるが、どこまで効果があるやら」


「そうですな」


 顔を顰めたパメイの呟きにゲイルも顔を顰める。


 世界は広く、大戦後に命ある者達も随分と増えた。その全てを調査して管理することなど不可能であり、邪な企みを完全に察知することもまた無理だ。


「まだ噂で僅かに引っかかっただけですが、どうも忘れられた死の神に関する遺跡で人の出入りがあったようで、死者の復活を目的にしている者がいるのではないかと報告が上がっていました。尤も精査していない情報ですが」


「忘れられた死の神?」


 エルフは僅かながら異変を察知したようだが、ゲイルとパメイは困惑した。


 太古に起こった神々との争いで敗れ去った勢力の神は、忘れられた神と呼称されることが多いが、長命なエルフやドワーフすら殆ど知らない程の昔に起こった争いであるため、伝承が僅かに残っているだけだ。


 そしてエルフの調査に引っかかった遺跡は、伝承から多分死を司っていた神……だと思う。という曖昧さであり、そんな遺跡に用がある者なんて、死者の復活……なのではないか? というこれまた曖昧な判断だ。


 しかし死や復活というものに過敏になっている一部は深刻に捉えており、これから正確な調査が行われることになっていた。


「とは言え死と復活を司る類の神々が消え去って久しい。遺跡に入った者が実際にいるとして、得るものがあったかはかなり怪しいでしょう」


「確かに」


 尤もアモリの言うように、それほど古い神の遺跡から今更得られるものがあるとは思えず、あくまで念のための調査だった。


 それから暫く。


「それではこれで」


「達者でな」


「ええ」


 アモリとパメイは色々と世間話をした後、恐らく会うのが最後になるであろうゲイルと別れを交わした。


 だがゲイルの来客は続く。


(はあああ。緊張する)


 例えば彼の双子の弟とか。


 ついでに言うと街にいるオスカーの来客も続く。


「久しぶりですね」


「アモリィィ!?」


 兄弟同然に育ったアモリとか。

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― 新着の感想 ―
[一言] そういえば既に死んでる勇者一行が一人いたなぁ、、、、
[一言] 死の神か…… なんかそういう存在に頼む事がありそうなやつが一人思い当たるの気のせいですかね オスカーパイセンめちゃめちゃ人脈広い人じゃないっすか……w
[一言] 直接その脅威と遭遇していないと、その恐ろしさが理解出来ない。 どこにでもそういうのが一定数いるもんですね。
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