違反車両
「やべ、間に合うかな。」
若い男はそう呟いて、アクセルを捻り、バイクの回転数をあげていた。
今から、バイク仲間とツーリングに出かけるのだが、待ち合わせ時間を勘違いしてしまったため、間に合いそうにもなく、道を急いでいた。
「まぁ、少し飛ばせば10分くらい遅れるくらいかな。」
と、さらにアクセルを捻る。
甲高い音がマフラーから響き渡る。
「やっぱ、マフラー変えると気分いいな。」
男のバイクは新しくはないものの、それなりに人気のある車種だった。バイクに乗るならこれ。ずっとそう思い、免許取得して購入した、かけがえのない相棒だ。
「頼むぜ、相棒(笑)」
バイクはコンビニ前を過ぎ去り、橋を渡り進んだ。
「うっさいなぁ。」
その過ぎ去るバイクを睨みつけ、1人の女性が悪態つく。見た目は160くらい。長い髪を後で束ねており、スラリと健康的な脚を恥ずかしげもなく出している。スタイルよく、身体のラインがくっきりとした格好をしていた。それは当然だろう。最近人気のスポーツ自転車のウェアを着用しているからだ。流れる汗を軽く拭き、ボトルの中の一口飲んだところで空になった。
「走る公害でしかないわね。」
そう言うと、コンビニ中へ飲み物を調達しに入っていく。中には似たような姿の男女が先に入っており、何やら談笑しながら買い物をしているようだった。女性の仲間のようだ。
「先のタバコのヤツといい、ほんと、環境に悪い奴らばっかりね。」
先程まで車のそばでタバコを吸っていた男の姿を思い出し、眉をしかめ、女性は仲間の元へと向かって行った。
男の前を2台、車が連なっていた。
渋滞か何かなのか?と、最後尾で走っていたが、それが1台先の車が原因とわかるまで、そう時間はかからなかった。
「うわぁ、遅い車に捕まったなぁ。」
と、ぼやくも流石に一挙に抜き去る気は起きず、しばらく着いて走る事しか出来なかった。
「前の車、抜いていかねぇかな。」と思っていると信号で停まる事になった。
「どっちか曲がれ!」
男の思いが通じたか、前の車は信号を左へ曲がっていった。待ち合わせ場所へ向かうにはまっすぐに進む方が近い。同じく左折しようものなら、市内に入ってしまう。予定よりさらに遅く着いてしまう。そう、思った男は仕方なしに真っ直ぐ進んだ。前を走る車はやはり、遅い。
「わざとゆっくり走ってねぇか?」
少し苛立ち、後ろを走りながら抜きどころを探っていた。ど、ゆるりと左側に曲がる道を抜け、長めのストレートに変わった。車が中央側に動き、左側にスペースができた。
「ここだ!」
男はアクセルを捻り、バイクの回転数を上げて、車の左側から勢いよく抜けていく。
「やっと解放された。」
その勢いのまま、男のバイクは走り続けた。
次の信号を左へ曲がれば、待ち合わせ場所のコンビニは近い。
その時、信号が赤に変わってしまい、仕方なくウィンカーを上げて停車した。