速度違反
車を走らせながら男は後の車も警戒していた。
もし、追い抜きをかけて来たら少し驚かせてやろうか。多少、自分が怖い思いをすれば彼も運転を見直すかもしれない。
男の正義感が悪い方向へ向き始めていた。
すると、車は信号に捕まった。
「まだ着いてくるようなら、少し驚かせようか」男は信号が変わるのと後ろの車がどう動くのかと、少しドキドキしていた。
ほどなくして信号は青に変わり、男は真っ直ぐ走らせる。後ろの車は、左へウィンカーをあげて曲がって行ってしまっていた。
「なんだ、曲がったか。」
安堵しながらも、どこか制裁を与えられなかった事に残念な気持ちになっている自分に、戸惑いはしたが、また新たに緊張が走った。
「今度はバイクか。」
そう、男の車の後ろをいつの間にかバイクが付いて来ていたのだ。
「すり抜けでも、追い抜きでもして前に行ってしまえばいいのに。」
相手がバイクでは、進行方向を塞ぐことなどできない。それより、ぶつかってしまった場合、こちらの過失になる可能性が高い。
「五月蝿いバイクだな。」
バイクはマフラーを変えてあるのか、かなりの騒音を立てて後ろをピタリと走っている。
それでも男はスピードを上げることはなかった。ひたすら自分のペースで走り続ける。
しばらくは後ろを走っていたバイクだったが、痺れを切らしたかのように、さらに爆音になり男の車の脇を猛スピードで走り去っていった。
チラリと見ると、フルヘェイスで顔はわからないが、バイク自体はマフラーが変わっているのと、ナンバーを跳ね上げていた事くらい。
「ありゃ、違法じゃなかったか?」
ムッとしながら、走り去るバイクを睨みつけた。
「警察はもっとああいうのも取り締まって欲しいものだ。先の煽り運転していた男も、どっかで捕まって欲しいもんだな。」
と、先の方で誘導灯を振る姿が見えた。
「何だ?検問か?」
しかし、検問にしては少し雰囲気がおかしい。
そんな疑問を感じつつも、誘導に従い、車はちょっとしたスペースへと停車させられた。
窓を開け、近づいてきた者の姿を見て、男は驚いた。
誘導灯を振っていたのは警察ではなく、上下真っ黒な軍服のような格好をした者だったからだ。
「何だ?その格好は?警察でもないのに、なぜ検問みたいな事をしている?私に何か用か?」
近づいたその者は見た目おかしな格好はしていて20代くらいか。糸のような細い目が帽子とマスクの間から覗いているが、自分より年下だろうという考えもあり、強めに出ていた。
「私達は警察ではありません。【執行部】です。あなたが条例違反されたので連行する為、こちらへ誘導させていただきました。」
「連行?違反??私は何も違反などしてないぞ!連行だと?冗談も休み休み言え!」
そう、私は違反などしない。寧ろ違反しているのは周りではないか!怒り気味に言い返す男はに、近づいた者は、まぁまぁ、となだめるようにそして諭すように話始めた。