禁煙地域
「貴方が捨てたゴミは、タバコの吸殻。貴方はこの街の条例に反した。よって、我々【執行部】により、貴方を一時拘束、連行させてもらう。」
言い終わり、さっと右手を挙げた。
「はっ?何を言って・・・」
言いかけた男は、自分の置かれた状況に改めて驚いた。
いつの間にか、自分と車の周りに似た格好の者が数名立っており、囲まれていたからだ。
「な、何なんだ!何だ、お前ら!!」
自分の置かれた状況に混乱しつつも男は小柄な女性に言い寄った。
「【執行部】と言ったはずだが?」
変わらぬ冷たい目線を向けたまま、女性は左腕に付けられた腕章を指して見せた。
確かに、腕章には【執行部】の文字が書いてある。
「【執行部】?」
混乱している男に対して女性は話を続けた。
「貴方はここが【禁煙地域】と知らないのか?この街ではいかなる者であってもいかなる場所であっても【喫煙、およびタバコのゴミ捨て】を禁じている。貴方はそれを二つ犯している。よって我々【執行部】が動いているのだ。」
はぁ、とため息混じりに続けて話出す。
「これより、貴方は我々に従い、連行させてもらう。貴方の拒否権はない。お解りいただけたろうか?」
「二つ?俺はゴミを捨てただけだろ?条例は確かに前の街で聞いたが、喫煙していないじゃないか!」
そう訴えてる男だが、女性は
「【いかなる場所であっても】と言ったはずだが?」と返した。
「【いかなる場所】?」
まさか!
はっとして、自分の車に振り返った。
「そう、貴方はこの街に入ってから車内で喫煙をしているな。」
男の背中に女性の冷たい言葉がかかる。
「しかも煙を車外へ排出させている。それはこの街で喫煙したのと変わらぬ行為だ。」
確かに、男は車内でタバコを吸った。窓を少し下げて外へ排出もさせている。だが、しかし。
それを誰が見ていた?
確かにすれ違った車はあったが、男のそれを確認できているとは思えない。
じゃぁ、一体いつ?誰が??
男が悩み、言い及んでいると、その回答をくれた者がいた。
「あんた、この街に入って何も気づかないのか?」
車の助手席側に立っていた男だった。
先の男とは違い、細身でありながらも見える眼光は鋭く、隙のないような立ち姿をしていた。男は空を指差し、続けた。
「この街はいくつものカメラで監視しているんだよ。あんた街に入る前、タバコ吸っていたろ?その時からマークされていたのさ。」
言われた男は空を見上げた。
「何か飛んでる?あれは、、ドローンか!?」
「正解だ。」
女性の冷たい声が続く。
「この街では、上空を常にドローンが飛び、街に入った危険視された対象者を街を出るまで追い続ける。貴方は入る前、喫煙をした事で対象者としてマークされ、今に至る。お解りいただけたかな。」
と、何やら片耳を押さえて「了解した。」と発した。よく見ると耳に無線機のような機械を付けているようだ。
先程の「了解した。」は何らかの報告に対しての回答だったのだろう。
「連行しろ。」
と、女性は言うと周りが近づいてくる。
「ちょ、ちょっと待て!」
弁明しようとする男に、今までよりさらに冷淡に女性は言い放った。
「怪我をしたくなければ大人しく従ってもらおう。貴方にかける時間はない。タクロウ、後は任せる。カナメ、ヨシキ、2人は私に付いてこい。」
そう言うと女性はその場を離れようとした。
タクロウと呼ばれた男がいつの間にか側に立っていた。先程の助手席に立っていた男だった。
「大人しく着いて来てもらえると助かる。」
他に2人ほど、男の周りを取り囲んでいた。
逃げ出せるわけない、男は観念した。
まさか、タバコ吸ってこんな目に遭うなんて。
あの時、興味を持たずに違う道へ進めば良かった。後悔したが遅すぎた。
「まったく、この世は違反者ばかりか。難儀な事だ。」
そう女性は言い捨てると、先の2人を連れてこの場より去っていった。
男はただ、呆然としつつもこれから自分がどうなるのか、すぐに解放されるのか?不安な気持ちに押しつぶされそうになり、たまらずその場に崩れ落ちた。