禁煙地域
「あの橋の先が、さっき聞いた街か」
男はコンビニの駐車場で煙草を吸いながら橋を見つめた。
海沿に架かる長い橋。
その向こうに人口十八万ほどの地方都市が広がっている。
どこにでもある街。
ただ一つだけ違うのは、その街には独自の条例が存在することだった。
――煙草一本吸っただけで大変な目に遭う。
昼に立ち寄った定食屋の店員とのやり取りを思い出しす。
「あの街に行くんですか?」
定食屋の店員が皿を下げながら尋ねる。
「用があるわけじゃないけど、通過するかな。」
「やめた方がいいですよ。条例が厳しくて有名なんです。」
「条例?」
「特に喫煙者は気を付けた方がいいですね。」
喫煙者の自分にとって煙草は生活の一部だ。
車を走らせる時も。
コーヒーを飲むときも。食事の後も。
男は無類の愛煙家だ。
男はドライブをすることが好きだった。仕事休み、タバコを咥えながら、窓を開けて風を感じ、
缶コーヒーを飲みながら、ただただ、車を走らす。
今回はたまたま、海沿いの道を走ってきてこの街にやってきただけだった。
男は苦笑する。
「禁煙地域なんて大げさな」
灰を落としながら空を見上げた。
気持ちいいほどに青空が広がっている。
「車の中なら問題ないだろ」
そう呟き、車に乗り込み灰皿へ煙草を押し付ける。
エンジンをかけた車はゆっくりと橋へと向かった。
この時の男はまだ知らない。
この町の条例が、ただの禁煙ルールではないことを。




