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「伯爵家のパーティーに? 何故いきなり……」
予想もしていなかったピエリスの言葉にリシンは驚く。
王家の身代わりであることからもわかるようにユーラリア家は選択するまでもなく王子派である。対抗派閥である伯爵家のパーティーにピエリスが行くのは敵地に飛びこむことを意味していた。
「リシン様が鎮圧している貴族の騒動、目的や原因がはっきりしていないと聞きました」
「そうだな。捕まえた貴族達はむしゃくしゃしたなどと感情的な言葉が多い。虚言や誤魔化しでそう言ってる可能性も高いが、何もわかっていないことに変わりはないな」
「ですが、引き起こしたのが全て伯爵派であることは間違いない。そうですよね?」
ピエリスが確かめるようにそう問いかけると、リシンは「あぁ」と小さく頷いた。
「同じ派閥から引き起こされているのですから、そこに誰かの意図はあるはずです。それが伯爵家に行けばわかるんじゃないかと思ったんです」
原因も目的も不明な騒動となると事後処理的な対応しかできない。だが目的さえわかれば話が変わる。
リシンの仕事を減らすためにも、そして何より伯爵派の企みを潰すためにも偵察に行く価値はあるとピエリスは思ったのだ。
「それは確かにそうかもしれないが……。君に招待状を送った理由が気になる。もしかすると」
「罠かもしれない、ですよね。私もそう思います。ですが彼らが森の民との争いを望んでいるなら、聖女を味方にしておきたいとも思うのではないでしょうか?」
ピエリスの言葉にリシンは小さく唸る。
呪いに対抗するために聖女は有用だ。敵に回すよりも味方にしようと考える可能性は高かった。
「私以外に、メディラ令嬢に招待状が送られていることも確認しています。呪いに対抗できる人材を集めているとも考えられませんか?」
「君と友人になったというメディラ令嬢か。彼女もまた聖水を作れる者、か」
「ですから、身の危険はないと思うんです。それに招待状に気になることも書いてあって……」
そう言ってピエリスは少し言葉を詰まらせた。
「何が書いてあったんだ?」
「それが……家族二人も伯爵邸で待っている、と」
ピエリスは少し躊躇いながらも、リシンの蒼の瞳に見つめられて観念したようにそう呟いた。




