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「妹が辛そうなら心配くらいするだろう」
「妹だと、思ってくれていたのですね」
ピエリスはちらと自分の髪を見つめながら苦笑いを浮かべる。その視線にリアトリスも気がつき、目を細めた。
「お父様が認めているのだから、お前が何者だろうと俺の妹だ。髪の色は関係ない」
「最後に、それが知れてよかったです」
「何度も俺はそう言っていたがな。……もう着いたか」
リアトリスは呆れて深く息を吐き出しながら、馬車の外に視線を移した。窓から見えるのは青を基調とした大きな館だ。そこが公爵邸なのだとピエリスでもすぐわかった。
「門に護衛か。俺の水人形じゃ応対はできないな」
リアトリスは窓から護衛に気がつくと、馬車を門の手前で止めて馬車から降りた。
「ほら、早くお前も降りろ」
下からリアトリスはピエリスに手を差し出す。その手を受け取って、ゆっくりとピエリスは馬車から降りた。
「ありがとう、お兄様」
「これも最後だからな」
リアトリスは小さく苦笑いを浮かべ、ピエリスの手を離す。
護衛はその様子を見届けると、馬車まで歩み寄って礼をした。
「馬車から降りていただき感謝します。ピエリスお嬢様の来訪をお待ちしておりました」
「ほぉ? お待ちしていたと言うには人が少ないように思うが?」
リアトリスがわざとらしく周囲を見回して問いかける。護衛はその言葉により深く頭を下げた。
「はっ、申し訳もありません。ただいま当主様のお世話にほぼ全ての護衛と使用人が従事しているため、こちらに出向くことができないのです」
「公爵殿は辺境伯令嬢ならばその程度に扱っても構わないと?」
疑問の形を装ってはいるが、それはリアトリスからの抗議だった。次期当主として、ウォドール家への不当な扱いを見過ごすことはできないと怒っているのだ。
その怒りに呼応するように、いつの間にか馬車の御者役や周囲の護衛をしていた水人形が護衛を囲んでいた。
「いいえ、違います。たとえ来訪したのが王だとしても、このような対応になったでしょう。言えるのはそれだけです」
水人形に囲まれながらも一切怯むことなく、それでいて丁寧に護衛はリアトリスに頭を下げた。
「お兄様、こう言っていることですし。私は気にしていませんので」
「……そうか。なら、俺の仕事はここまでだな。妹を頼むと、公爵殿に伝えておけ」
ピエリスに宥められたリアトリスは、小さく溜め息を吐き出して馬車に振り返る。その動きに合わせるように水人形達も振り返り、各々の配置に戻っていった。
「せいぜい上手く生きるといい、ピエリス」
ちらとピエリスに視線を向けてそれだけ呟くと、リアトリスは早々に馬車に乗って去ってしまった。




