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【コミカライズ配信開始!】呪われ公爵と身代わり令嬢 【第一章完結済!】  作者: 歪牙龍尾


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4-6

「その……大丈夫ですか、セイフォンテイン令嬢」

 濡れたドレスからポタポタと雫を垂らしたまま俯くカルミアにピエリスがハンカチをそっと差し出しながら声をかける。

 ナプスを守るために攻撃性のない魔術を使ってはいたが、ピエリスはカルミアのことも心配していた。

「……さない。許さないわ!」

 カルミアはピエリスの差し出した手をハンカチごと払い除け、鋭い目つきで睨みつけた。

「私のドレスをこんなにして! 仮病令嬢も、雑魚薬師もそこの平民も! 絶対後悔させてやるんだから! 聖水も貰えずに、呪いで死ねばいいのよ!」

 ピエリスからメディラ、そしてナプスを順に涙目で睨みつけてカルミアは強く地団駄を踏んだ。叫んだその言葉には殺意までも滲み、強い怒りがこめられていた。

 周囲はより一層騒めきを増して、ピエリスとカルミアの様子を観察している。そんな中から、綺麗な緑の長髪を揺らす少女がゆったりとした足取りでピエリスとカルミアの間まで進み出た。 

「軽々しく呪いで死ぬなんて口に出す物じゃありませんよー?」

「誰よあんた!」

「通りすがりに、知人を見かけたので来ただけの女の子ですよー」

 にこりと少女は微笑む。周囲は突然現れた少女を見てひそひそと騒めいていたが、誰も少女が何者かを理解してはいない様子だった。

「呪いは育む物ですー。殺すために使う物じゃありませんー。そんなことを言っていたら、貴方こそ呪いに殺されちゃうかもしれませんよー?」

 にこにことした様子を崩さない少女は、恐れる必要もないような女の子にしか見えない。そのはずなのに、その場にいた全員が少女の言葉に背筋を震わせるほどの恐怖心を抱いた。

 逆らってはいけない。膝をついて頭を下げなければと思うほど、少女の声音には抗えない威厳があった。

「ねー?」

 最後の念押しとばかりに少女が微笑むと、カルミアは咄嗟に一歩下がった。

「も、もうドレスもこんなだから着替えさせてもらうわ! 憶えてなさいよ、公爵夫人!」

 一瞬声を上擦らせながら、カルミアはそう捨て吐くと足早にその場を立ち去ってしまった。

「……えっと」

 しばらくの沈黙の後、ピエリスは現れた少女に声をかける。

 その時には騒ぎが終わったことに加えて少女の笑顔に気圧されたのか、様子を見に来ていた周囲の貴族達もいなくなっていた。

「こんにちはー。公爵夫人さん、でしたっけー?」

「あ、えっとユーラリア公爵夫人のピエリスと申します」

「よろしくお願いしますー。まだ身代わりの生き残りはいたんですねー」

「え?」

 少女の言葉にピエリスは驚きの声を漏らして固まる。この少女は何者なのかとピエリスは少女の言う『知人』を探して視線を泳がせた。

 そこでピエリスはナプスの様子がおかしいことに気がつく。ナプスは呆けたように口をぽかんと開けて、冷や汗をだらだらと垂らしていたのだ。

「ごめんなさい、大変だったでしょうー。魂がボロボロですねー。呪いを洗い流すのではなく……これは魂ごと燃やしたというのが近いんですかねー?」

 まるで子どもをあやすように少女は背伸びをしながらピエリスの頭を撫でる。けれどピエリスはその妙な現状よりも、少女から次々に出てくる呪い関連の言葉に驚きを感じていた。

「キアさんにも言われました。私は器ごと呪いを根も葉も種も燃やしつくしていると。もしかして貴方は呪診師なのですか?」

 呪診師は特殊な訓練の末に魂を見る目を手に入れているとピエリスは学んでいた。加えてナプスの知人であることを考えれば、少女は呪診師だろうとピエリスは考えたのだ。

「呪診師ですかー。ボクはどちらかと言えば……あれー?」

 少女が何かを答えようとしてから言葉を止めて、ふと小さく首を傾げる。何事かと少女の視線を追えば、そこにはいつの間にか騎士が数人立っていた。

「あははー。見つかっちゃいましたー。すみませんがボクは彼らについていかないといけないみたいですー」

「そう、なんですか。あの、助けていただきありがとございました!」

「気にしないでくださいー。唯一の知人が襲われそうだったので来ただけですよー。それに同胞の香りが……」

 話している途中にもかかわらず騎士達が側まで近寄り、時計を取り出して少女に見せる。すると少女は驚いたように「わー」と大きく口を開けて、少し苦笑い気味に笑った。

「ごめんなさいー。もう本当に時間がないみたいなので、また今度ですー」

 それだけ言うと、少女はひらひら手を振って騎士達とその場を去ってしまった。


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こちら最近出した短編となります
生贄の少女と森の狼様
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