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「随分と大きい会場ですね」
馬車と流転門を使っておよそ半刻もかからずに会場の前まで辿り着いたピエリスは、馬車から降りるとリシンの腕に掴まりながら会場への道を歩いて周囲の様子をゆっくりと眺めていた。
「そうだな。今回はほぼ全ての貴族が呼ばれているから、相応の会場が必要なのだろう」
「それほど王子殿下は凄いことを成し遂げたのですね」
「確かにそれもあるが、本日は新たな聖女のお披露目を兼ねているのも大勢が呼ばれた理由の一つだろう」
「聖女のお披露目……」
リシンの言葉にピエリスはごくりと唾を飲みこむ。以前協会で話し合った結果、このパーティーでピエリスとナプスは聖女として顔と名前を含めて貴族達に紹介されることになっていた。
社交界デビューにして、主役の一人という立場に、ピエリスは緊張から心臓を高鳴らせる。胃が痛くなるような気分に、ピエリスは小さく溜め息を吐き出した。
「緊張するのも無理はない。ピエリス、何か私にして欲しいことはあるか?」
「して欲しいこと、ですか?」
心配そうに見下ろしてくるリシンの瞳を見つめ返して、ピエリスは首を小さく傾げた。
「君が落ち着くために必要なことを教えてくれ。私ができることならば何でもしよう」
「落ち着く方法……」
ピエリスはぱちぱちと瞬きをしてリシンをじっと見つめると、少し頬を赤く染める。その視線はリシンの大きな手に向いていた。
「手を、繋いでくれますか?」
「もちろんだ」
ピエリスの手をリシンがそっと優しく握った。人肌の温かな感触は気恥ずかしくも安心感がある。高鳴る鼓動は緊張のせいか恥ずかしさのせいかもピエリスはわからなくなった。
「この扉を入ればパーティー会場だ」
「わかりました。行きましょう」
手は繋いだままに、その感触を確かめるように軽く握ったピエリスは小さく頷いて会場の中へと入った。
「なぁ、あれって」
「……もしかして、あの?」
「なら、隣のあの人は」
会場へ入った瞬間に、騒めきと好奇の視線がピエリスに襲いかかる。何を言っているのかまでは理解できなかったが、皆の視線を自分達が集めていることだけはピエリスにもわかった。
「あら、来たのね仮病令嬢さん」
騒めきの中で一際ハッキリと、一度聞いたことのある声がピエリスの耳に届く。それは、リシンの元婚約者であるセイフォンテイン令嬢の声だった。




