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「あっ! そんな大変ではなかったですよ? むしろそれまでが大変だったというか!」
ピエリスの深刻な表情に気がついたナプスが手を横に振りながら笑った。
「森の民との争いで両親も住むところも失ってたので、毎日生きるのに必死でした! でも、キア先生に見つけてもらって生活が一変したんです!」
ナプスは昔を思い出すように遠い目をする。その目はキラキラと輝いて、暗さの欠片もなかった。
「ご飯が好きなだけ食べれて、ゆっくり眠れる場所がある! それだけでも幸せなのに、キア先生は色んな勉強も教えてくれました! だから、私は聖女になれて幸せなんです!」
そう語るナプスの表情は常に明るかった。
暗い過去には囚われず、与えられた幸せを全力で楽しむナプスの姿がピエリスには眩しい。自分もできるならばそうありたいと、ピエリスは思った。
「あ、リムちゃん! 次はお菓子持ってきてもらってもいいですか?」
「あら、そんなに話すの?」
「はい! ピエリスさんとなら、どれだけでも話せそうです!」
ナプスがそう言って笑うと、リムは一瞬驚いたように目を見開いてピエリスを見つめる。
その視線に少し怯んで、ピエリスは苦笑いを浮かべた。
「その、私と話していて楽しいですか? あまり言葉も返せてませんが……」
「楽しいですよ! 人とこれだけ話すのも久しぶりなんです! でもせっかくなので、次はピエリスさんのお話が聞きたいですね! 例えば、リシンさんについてとか!」
「そう、ですか? それなら……」
そこでピエリスは少し考えるように言葉を止めた。ちらと横目でリムがお菓子を取りに部屋から出て行くのを見つめながら、ピエリスはリシンについてを考える。
自らのために誰かが犠牲になることを許さない優しい人。自分の夫であり、幸せにすると誓ってくれた人。民のために、国の盾として生きる人。
ここ数日を振り返りながら、リシンの色々な姿を思い出してピエリスは優しく微笑んだ。
「実はリシン様は、寝る時に何かを抱きしめる癖があるんですよ」
「えっ! それって!」
ピエリスの言葉にナプスが目を見開いて驚く。その様子を見てピエリスはくすくすと笑った。
「えぇ。リシン様とは一緒に寝てるのですが、夜中急に抱きしめられて凄く驚いたんです」
「わぁ! 夫婦ですから不思議ではありませんけど、そーゆー話は少し聞く方も恥ずかしいですね!」
頬を薄赤く染めながらナプスは少しもじもじとしてピエリスを見上げた。恥ずかしそうではあるが、その目は他にも知りたいと言うように爛々と輝いている。
年頃の乙女なだけあって、ナプスはその手の話にも興味があるらしいとピエリスは微笑ましく思った。
「他にもですね……」
ピエリスはここ数日で知ったリシンの癖や胸が高鳴った経験などをナプスに話していった。
繋いだ手が想像よりも大きくて温かかったこと。急に寝台から抱き上げられて食卓まで運ばれたこと。無邪気な少年のようにリシンが笑ったこと。
話し始めると次から次に色んな場面が思い浮かんで、ピエリスは自分がリシンにどれほど心動かされているかを実感した。




