表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【コミカライズ配信開始!】呪われ公爵と身代わり令嬢 【第一章完結済!】  作者: 歪牙龍尾


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/89

2-18

「色々ありましたけど、今日のお出かけもこれで終わりですね」

 昼食後、宝飾店で服に合うと思われる装飾品もリシンに購入してもらったピエリスは再び屋台の並ぶ市場を歩いていた。

「楽しかったか?」

「もちろんです! リシン様のことをたくさん知れましたし、服や宝石をあんなに買ってもらうのも初めてで嬉しかったです。着飾るのが今から楽しみですよ」

「そうか。一着だけ既製品で大きさの合う服があったようでな、既に家に送ってもらったから明日の協会に着ていくといい」

 市場を並んで歩きながら会話をして二人は笑い合う。呪いに苛まれていた時には考えられないような、そんな穏やかで暖かい時間を過ごせていることがピエリスは嬉しかった。

「協会に行くのは不安でしたけど、今は少し楽しみになりました」

「それならば今日買い物に来た意味は大いにあったわけだな」

「そうですね」

 満足そうに頷いたリシンを見上げて、ピエリスは微笑んだ。そうして見つめた先のリシンも小さく笑う。

 しかし次の瞬間、リシンの目は何かを捉えて細められた。続けてピエリスも不穏な気配を感じ取る。

「……これは」

 ピエリスが感じたのは呪いの気配だった。その方向はリシンが見つめる先と同じ。市場の騒めきとは別の喧騒が広がる人集りがあった。

「リシン様、呪いの気配がします」

「あそこは、今日見た壺の店か。悪いが行くぞ。ピエリスは私の側から離れるな」

「はい!」

 リシンに手を引かれ、ピエリスは人集りまで走り抜ける。その間に人集りから聞こえてきた声にピエリスは目を見開いた。

「頼む、誰か妹を助けてくれ!」

 悲痛な少年の声。それは、リシンとピエリスに結婚祝いとしてブローチを売ってくれたギップの声だった。

「ギップ、何があった」

「兄ちゃん! 妹が、妹がっ!」

 駆けつけたリシンに気がついたギップが、必死の形相で一人の少女を指し示す。少女は地面に倒れ伏したまま青い顔で痙攣しながら口から泡を吐いていた。

「強い呪いだ。誰か聖水を持っていないか!」

 リシンが声を張り上げて周囲を見渡す。

 しかし貴族でもない市場の人間に貴重な聖水を持ち歩いている者はいなかった。

「どうしよう兄ちゃん、俺のせいでソフィが死んじゃう!」

 涙を流しながらギップがリシンに縋りつく。リシンは悔しそうに拳を握り締めて、遠くの大きな建物に視線を向けた。

「協会まで走っても間に合うかどうか……」

 そう呟きながらもリシンがソフィを抱き上げる。その身体は軽く、命の灯火が消えかかっていた。

 考える時間も惜しい。リシンはソフィの身体をしっかりと支えて、協会への道を走り出そうとした。

「リシン様、待ってください!」

 咄嗟にピエリスが声を張り上げてリシンを止める。そうしなければ、リシンは振り返ることもなく走り去ってしまうだろうとピエリスはわかっていた。

「時間がない。何だ、ピエリス」

「身代わりになります! 少しだけ、待ってください」

 ピエリスはリシンの瞳を見つめて力強く宣言した。今ソフィを救えるのは自分しかいない。そう理解していたピエリスは焦りに高鳴る鼓動を抑えるように深呼吸をして、ソフィに目を向けた。

「姉ちゃん、何してんだ! 早くソフィを協会まで連れてかないと!」

 リシンを止めたピエリスに向かってギップが叫ぶ。その声を聞きながらピエリスはキアの教えを思い出していた。

 ピエリスの身代わりは、周囲の呪いを代わりに受ける。今までは家族の呪いを無意識下で引き受けていたのだろうとキアは言っていた。

 まだピエリスには意識的に身代わりを発動させる方法はわからない。けれど、家族の呪いを引き受けられるならば間接的に身代わりを使う手段はあるとピエリスは考えていた。

「ギップさん、大丈夫です。私が必ず救います。救わなきゃならないんです」

 縋りついて涙を流すギップの頭をピエリスは優しく撫でた。まるでギップが家族のように、弟であるかのようにピエリスは接する。

 その瞬間、自分とギップを繋ぐ線のような物が生まれたのをピエリスは感じた。

「いけます、リシン様!」

 ソフィがギップの妹でよかったとピエリスは思った。兄ちゃん姉ちゃんと呼んで親しく接してくれるギップの妹ならば、自分の妹のように思える。

 ピエリスはギップに繋がった線が枝分かれしてソフィへ伸びるのを感じた。その瞬間に、その線を通して呪いがピエリスに流れこんだ。

「……うっ!」

 久しぶりに感じた強烈な吐き気と胃を潰すような痛みにピエリスは呻く。けれど同時に慣れてもいるその痛みに耐えながらピエリスは手を合わせて祈った。

「兄ちゃん、ソフィが!」

「あぁ、もう大丈夫だ。しばらくは余韻で辛いだろうが、危機は脱した」

 ピエリスが祈る間にもソフィの痙攣は治まり、その顔色も通常の状態に戻っていた。

 安らかな吐息を取り戻したソフィをゆっくりと地面に下ろして、リシンはピエリスに振り返る。

「大丈夫か、ピエリス」

「……はい。もう、呪いは」

 『消えました』と答える前に、ピエリスを温かな感触が包む。リシンが強くピエリスを抱きしめていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちら最近出した短編となります
生贄の少女と森の狼様
― 新着の感想 ―
[気になる点] 協会でなく教会では?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ