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【コミカライズ配信開始!】呪われ公爵と身代わり令嬢 【第一章完結済!】  作者: 歪牙龍尾


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2-3

「来たか、キア。好きなところに座ってくれ」

「あぁ、悪いねリシン。それじゃあ二人の真ん中にでも失礼しよう」

 キアはゆったりとした動作で食卓の真ん中まで進むと、椅子に座ってピエリスの方を見つめると小さく頷いた。

「さて、まずは自己紹介かな。僕の名前はキア・ルドーベ。ユーラリア家に派遣された呪診師だ。以後よろしくね、奥様」

 にこにことした微笑みを浮かべながら、最後の一言でキアは小さく笑いを漏らしてピエリスにお辞儀をする。

 その様子を魚料理を口に運びながら眺めていたリシンは小さく咳払いをした。

「何がおかしい、キア」

「あぁいや、まさか僕が誰かを奥様なんて呼ぶ日が来るとは思っていなくてね。妙な感じがして、笑ってしまったよ」

「ならば慣れてくれ。彼女はもう私の妻だからな」

「それもそうだね。失礼を詫びよう、奥様。改めて、よろしくお願いするよ」

 キアが椅子から一度降りて深く頭を下げた。それを厳しい目で見つめて、リシンは一つ頷くと野菜の盛り合わせに手を伸ばす。

 険悪のようにも見えたそのやりとりだが、二人の表情に暗いものはなかった。

 リシンの少し砕けたような物言いも含めて、気を張る必要のない仲なのだろう。そう思えば微笑ましい会話だと、スープを一口飲みこんだピエリスは小さく笑い声を漏らした。

「お二人は仲が良いんですね。こちらこそ、よろしくお願いしますねキアさん」

「仲が良い、かい? まぁ、確かにリシンに友達なんて僕くらいしかいないかもしれないね」

「……キア、冗談はその辺にしてくれ」

「おっと、そうだね。そろそろ本題に入ろうか」

 リシンに一声かけられたキアは姿勢を正して、ピエリスに視線を向けた。

「呪診ついでだけど、奥様は呪診師を知ってるかい?」

「えっと、呪いにかかっているかを診断してくれる人としか……」

「なるほど。その様子だと呪診師に会うのは初めてかな? まぁ、普通その歳のご令嬢が呪いにかけられることもないもんね」

 立ち上がってピエリスに寄ったキアは懐から手帳を取り出して何かを書き始める。ちらとピエリスが手帳を見れば、そこに書かれていたのは瓶のような物だった。

「気になるかい? これは君の魂を分かりやすく図にした物さ。人の魂は瓶に例えることができるんだよ」

「瓶、ですか?」

「そうとも。魂が器としての瓶で、生命力が瓶に入った水だ。呪診師はその特殊な目で、瓶の様子を見れるというわけさ」

 キアはすらすらと瓶に線を書き加えていく。それはヒビや傷のようにピエリスには見えた。

「私の瓶は傷んでるんですか?」

「そうだね。リシンの思った通りってところかな。魂に無数のヒビと焼け焦げた跡があるね。随分と呪いに侵されていたみたいだ」

 片眼鏡越しに見つめるキアの真剣な表情に気圧されながら、ピエリスはその言葉の意味するところを理解しようと頭を巡らせる。

 呪診をする理由は昨晩の催淫の呪いによるものだろう。すぐに良くなったと思ったものの、催淫の呪いは想像以上に自分に影響を与えていたのかとピエリスは深刻な表情となった。

「私は、大丈夫なのですか?」

「まぁ、今はね。ただこれまで辛かったろう。一般的な呪いであれば、そうだな……。頭痛などの身体の痛みや気分の悪さに悩まされてたんじゃないかい?」

「えっ……?」

 まるでピエリスが前から呪いにかかっていたかのようなキアの言葉に、ピエリスは一瞬理解ができずに固まった。

「頭痛、気分の悪さ。あっ」

 少しの間が空いてピエリスは気がつく。その症状に強い身に覚えがあったのだ。そしてようやく理解が追いつく。キアの話している呪いは、昨晩にリシンから移ったという呪いについてではなかった。

 今まで仮病と言われ続けていた体調不良が、呪いによる物だったとキアは言っていたのだ。

「そ、そうです。私がそれを訴えても、医者は健康だと言って……」

「そうだろうね。呪いは魂側の問題だから、身体を見る医者には健康に見えて不思議はない」

 キアは片眼鏡を外してピエリスを再び真剣に見つめると、手帳をめくってピエリスに見せた。そこに描かれていたのは別の傷だらけ瓶とヒビに挟まる黒い丸だ。

「呪いというのは、種のような物でね。まず魔力によって対象の瓶に傷をつけて、そこに呪いの種を植えるんだ。すると種は発芽して根を出す」

 ヒビに挟まった黒い丸、種であるだろうそれから伸びる根が瓶の中に描かれた。

「そうして瓶の水を吸い上げて、種は強く大きく育っていずれ瓶を壊すわけだ」

 種から芽が出てヒビが広がる絵を描いて、キアは手帳を閉じた。

「水は生命力、瓶は魂と言ったろう? これらが失われたり傷ついたりすると、身体は危険信号として痛みや気分の悪さを示すんだ」

「それが、私の体調不良の正体なんですね」

「そういうわけだ。そして、朗報だ。君の魂にはヒビや傷は残っているものの、呪いは綺麗さっぱりなくなっている。もう、君が苦しむことはないよ」

 キアが微笑み、手帳を一枚切り取るとピエリスに手渡した。それはピエリスを見ながら描いていた瓶だ。

 瓶はちらと見た時と同じく傷らだらけだったが、確かに種や芽のような物は描かれていなかった。

「それが本当なら嬉しいですけど……。どうして急に?」

 今までどうしたって治ることがなかった体調不良が突然消えた理由。それがわからないことにはピエリスは安心することができなかった。

「そこが重要なんだけどね、君には特別な能力があるんだ」

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こちら最近出した短編となります
生贄の少女と森の狼様
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