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「どう、しましょうか。もう解呪のために寝る必要はないんですよね?」
「そのはずだが……。いや、そうだな。私は自室に戻るとしよう」
リシンは立ちあがり、少しはだけていた自分の服を整える。そしてピエリスに振り返って毛布をかけると、リシンはそのまま部屋を去ろう一歩踏み出そうとした。
しかしその歩みはすぐに止まることになる。ピエリスがリシンの袖を掴んで引き止めたのだ。
「その、待ってください」
ピエリスは微かに声を震わせてリシンを見上げた。
「リシン様さえ嫌じゃなければ、今日は一緒に寝てほしいんです。色々なことがありましたので、少し不安で……」
ピエリスはリシンの蒼の瞳を見つめながら返事を待った。
自分は用済みとして捨てられてしまうのではないか。リシンはそんな人ではないだろうと思うものの、信じていた元婚約者に裏切られたばかりのピエリスはそんな猜疑心を拭えずにいたのだ。
しかしそんな不安を打ち消すように、リシンはピエリスの手を握ると寝台に腰を下ろした。
「……君が望むなら私はここで君が眠るまで見守っていよう。それとも、隣に寝た方がいいか?」
「リシン様も寝ないと疲れてしまうはずです。なので、その……」
リシンの顔を見つめている内に、まるで幼い子どものようなお願いだと気恥ずかしくなったピエリスが言葉を濁す。
するとリシンは小さく頷いて、ピエリスの横に寝転がった。
「少し狭いかもしれないが、そこは許してくれ」
「はい、ありがとうございます」
横になったリシンと手を繋いだまま、ピエリスは僅かに頬を染めて微笑んだ。
リシンはその笑みを受けて、「気にするな」とだけ呟くと天井を見上げて目を閉じた。
それから間もなく、リシンが静かな寝息を漏らし始めたのを横目にピエリスは安堵の息を吐く。
知りもしない人と結婚するとなった時はどうなるかと思ったが、リシンは父の言う通り人格者だった。
少なくとも悲惨な結婚生活にはならないだろう。それどころか新たな幸せを見つけ出せるかもしれないと、繋いだ手の温もりに胸が高鳴るのを感じながらピエリスは思った。
「祈らず眠れるのは、いつぶりだろうな」
普段から苛まされていた痛みが何一つないことに感謝しながら、ピエリスは眠りに落ちていった。




